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燃ゆる火に 怯えし夜の 夢のあと 残るはひとつ 愛を乞ふ声 3

私は香袋を縫い始めた

絹の布に、沈香と丁子を丁寧に調合し、香を包む

袋には、夕闇に静かに揺れる、夕顔の花の刺繍を施した


女房を通じて、香袋を六条の御息所に届けてもらうついでに、手紙を記す


”六条様は恋でお悩みと聞きました

これは心を鎮める香です

どうか、少しでもお力になれれば”


寂しいんだ、心が満たされないんだ、何もかも

そう言う人間は、ちょっとした優しさや気遣いや心遣いが

一番心に染みるんだよ

ボロボロのカサカサの乾いた心に、静かに浸透して、満たされてゆく


それが例え、嘘でも…


見返りの無い、無償の愛は存在するかもしれない

けど私は

六条の御息所に殺されない為に

死なない為に

生き抜くために

香袋を縫い、手紙をしたためる



数日後、私は再び六条の邸に呼ばれた


香袋と手紙の効果、ちょっとはあったのかも…


期待と緊張を胸に、控えの間に通されると、相変わらずの威圧感を携えた六条の御息所

気圧されないよう香の材料を握った


大丈夫…


彼女は静かに言う


「香を焚いてください」


几帳の陰で慎重に香を焚く

その香は、あの日と同じ調合

お線香の香り


煙が立ち上ると、六条の御息所は目を閉じ、深く息を吸った

その様子を見ながら俯き、目を伏せ、地面の一点を見つめる

手先の冷たくなった手を強く握る


どうか…

今度こそ…



「…この香、懐かしく、慈しい

香袋の匂いと同じ」


握られた拳の力が緩み、俯いていた顔を上げ、伏せていた目を六条の御息所に向けた

緊張の糸が解れてゆく

六条の御息所は、私が送った香袋を手に持ち眺めている


「この香袋の刺繍は?

花のように見えますが…」


それは…


「夕闇に咲く、夕顔の花です

病める時があれば、香袋の香りと花を思い出して頂きたく刺繍しました」


「香りと花…」


「はい

私はあなたの恋敵などではなく、あなたの心を香で慰め、独りの夜に寄り添う花、夕顔でございます」


六条の御息所は目を瞬き、驚いたような表情をしていたが、やがてゆっくりと目を伏せると、呟くように言った


「夕顔…

あなたは、他の女とは違うのかもしれませんね…」


香炉から煙が立ち昇る

六条の御息所はどこからか紙を取り出した


「香袋も、そしてこの文も…

書かれている字は読めませんが、心が温かくなりました

香袋や文を私に送ってくれた、その夕顔の気持ちに」


その言葉は、まるで氷が溶けるように、静かに私の胸に染み渡る


手紙を胸に当てて、目を閉じ少し俯いた六条の御息所の顔は、最初に見た時の、冷たい湖の底のような翳りの見える姿ではなく

どこか穏やかで、暖かい色を感じる顔


…効いた

これで嫉妬の対象から外れられる

戦略は成功した…けど

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