第7話 弟子シャーロットのお願いを
大魔連合討伐の記念式典で弟子のギル・リオラさんの勇姿を見届けた後、彼に1つの課題を与えて家に帰って来ました。
そして、今は溜まっていたお仕事をお片付け中なのです。
《ティファレント家 セレンの事務室》
「ふぅ〜! 書類、書類が山積みですね〜! 嫌になります。誰ですかこんなに仕事を溜めたおバカさんは?」
「……それはセレンお嬢様ご自身のせいです」
「真紅さんですか。相変わらず私には毒舌ですね。数百年前から全然変わってませんね。性格も見た目も……」
ティファレント家のメイドさん。真紅さんが何の音も立てずに私の仕事部屋に入って来ましたね。流石、死霊術者。影が薄いですね。
「当たり前です。私はハーフエルフの長命種です。長く生き過ぎているので、今更この性格は変えられません。それよりも、セレンお嬢様の3番目の弟子であるギル・リオラにはお会いになられたんですよね?」
「ええ、いちを……元気そうになされていましたよ。弟子を取るのを進めてみました、それと課題を1つですね」
「……『歪みの刻』には間に合いそうなのですか? 次の周期までもう時間があまり無い様に思えますが」
『歪みの刻』をこのタイミングでそれを聞いてきちゃいますか。真紅さん。
「何の問題もありませんよ。間に合わなければいつもの様に私やナルカミさん達で対象するまでです」
そう。いつもの様に私達が対象すれば良いのです。あんな怪物達の相手なんて。
「そんな状態がかれこれ百年以上続いております。セレンお嬢様が幾ら万能の魔女の異名を持とうとも、人にはいずれ限界が訪れるのです……いい加減。これまで育てあげてきたお弟子様達にも真なる戦いに参加していただいた方が宜しいのではないですか?」
「……随分と簡単に言ってくれますね。それができないから私達が今も戦っているんですけど?」
「弟子を死なせなくない言い訳にしか聞こえませんね。1番目と2番目のお弟子様なら、『歪みの刻』への対象もできると私は踏んでおりますが?」
「ゼロ君とカンナちゃんですか?……あの2人には世界のしがらみに縛られず自由に生きてほしいですからね。巻き込みたくありません」
これまで育てて来た弟子達は皆可愛い我が子です。私が居ない所で無茶をしてほしくありませんしね。
「……相変わらずの弟子馬鹿ですね。話は変わりますが、シェリーさんとシオン君はもうお部屋に戻られたのですか?」
「ええ、式典の人の多さに疲れて休むそうです
「何故、あの2人を式典に連れて行ったのですか? 龍国の誰かに竜星の親子を匿っていることがバレるのでは?」
「いえ。それが目的だったので良いんですよ。竜星の一族は万能の魔女の庇護にあると龍国に分からせるにはです。まぁ、今回の式典には龍国の来賓は来ていませんでしたけどね。『輝龍ライアノル』が行方不明になって国が慌てているのでしょうね」
「……あの親子の為にも殺したのですか?」
「いいえ。石化させました。私以外に解けない石化を」
「相変わらず……達が悪いですね。セレンお嬢様は」
「それが取り柄ですからね……それよりもそろそろ休憩にしませんか? なんだかずっと喋っていたので疲れてきましたよ」
「いいから早く溜めている仕事を終わらせて下さい……数日後にはセレン魔法学園の入学式挨拶が控えておりますので。セレン魔法学園の学園長セレンティシア様の」
「はい?……それはリーゼロッテちゃんに丸投げしましたよね?」
「リーゼロッテ様なら、その役目を放棄してセレン魔法学園の時計塔に引きこもっているそうです。それがその報告書です」
「ほう……こく書?」
〖拝啓 セレンティシアお師匠様へ。もう無理です……私に学園の代理理事長なんて最初から無理だったんです。なので引きこもります。入学の挨拶もしたくありません。私が落ち着く場所時計塔に……お師匠様。私をこの暗い時計塔から出したいのでしたら会いに来て下さい。私が大切って会う度に言ってくれてましたよね? なのに何で最近は会いに来てくれないんですか? 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい私はお師匠様にお会いしたいです〗
「……何ですか? これは? 呪いの手紙ですか?」
「弟子から師匠への愛を綴った恋文報告書です……シャーロット様はセレン魔法学園で働き過ぎで病んでいるのでしょう。誰かさんが仕事を押し付け過ぎで…」
真紅さんが私の顔をジーッと見詰めていますね。
「何ですか? シャーロットちゃんが病んだのは私のせいだって言いたいんですか?」
「事実ですので……世界中で暇を持て余しているセレン魔法学園の魔法教員免許持ちの卒業生達には、セレンお嬢様の名前を勝手に使って手紙を出しておきました。人手が足りないから手伝い来いと。労働力が確保できれば、こシャーロット様の激務も緩和されるでしょう」
「な? 何でそんな事してるんですか。人の名義を使ったら犯罪なんですよ!」
「いつも犯罪紛いの事を平気で言う人に言われたくはありません……それに今回、シャーロット様が病み。入学式の挨拶もしたくないと駄々を言い始めたのも、全てはセレンお嬢様が原因です。なので明日にでもシャーロット様の居るセレン魔法学園に行って下さいね」
◇
そんな真紅さんとのやり取りから一夜開け、私は竜星の親子を引き連れてやって来ました。セレン魔法学園へ。
魔法の発展を頑張ろうとやる気に満ち溢れていたと時に思いつきで私が創設した学園の1つですね。
《翌日 セレン魔法学園》
「なんて事が昨日あったんですよ。真紅さんって本当に人使いが荒いですよね?」
「セレンティシア様。アンタって責任感ゼロなのね」
「あぅ!」
「何ですか? そのジト目は? 私のどこか責任感ゼロ何です?」
「だって自分が学園長を務めている学園の仕事をほっぽり出して、旅なんてしてたんでしょう? そりゃあ、真紅先輩も怒るし、仕事を押し付けられたお弟子さんも病むわよ」
「な、何を言っているんですか! 私が旅をしていたから、シェリー達は助かったんですよ。私の自由奔放さがアナタ達を救ったんです」
「う!……それを言われたらなにも言い返せないわね」
「あぅ……」
「まぁ、お話はこの辺にしておいて……着きましたね。セレン魔法学園の時計塔……シャーロットちゃん。手紙読みましたよ〜! 貴女の最愛のお師匠様のセレンティシアですよ。仕事を全て押し付けてすみませんでした。改心したので出てきて下さいよ〜!」
渾身のお師匠のお願いです。これで落ちない弟子などいませんよね?
「凄い軽く言っているわね」
「あぅ……」
シェリーとシオン君が私の事を蔑んだ目で見ていますがスルーしましょう。
ガチャ……ギイィッ!!
そして、時計塔の扉が少しずつ開いていきますね。これで再びシャーロットちゃんを馬車馬の様に働かせる事が……
「お師匠様! やっと来てくれたんですねぇ! お会いしたかったです! ぶん殴らせて下さい!」
「ええ。お久しぶりですね。シャーロットちゃん。では今すぐに働い……ごぼっ!」
ドガアァンン!
「……セレンティシア様が腹パンされて吹き飛ばされたわ。シオン」
「ぅ!」
……油断していました。まさかシャーロットちゃんに殺意むき出しの腹パンをおみまいされるなんて。お腹痛いです。
「ずっとずっと待っていたんですよ。お師匠様……明日には今年度の入学式が始まりますので、入学式での挨拶よろしくお願いします」
《セレンティシア1005番目の弟子 シャーロット・サイレント》




