竜星の落し子を導く魔女《世界最強の魔女は愛弟子と共に、自由気ままに世界を廻る》

第24話 『古の放浪者』の封印を

《ティファレント家　屋敷》

「真紅様。セレンティシア様が居ないですけど。どこに居るか分かります？」

「セレンおしょうしゃまどこにもいましぇん」

「セレンお嬢様ですか？　お嬢様なら恐らく古参の弟子ゼロさんや他の方達と一緒に『古の放浪者』の封印に行かれましたよ」

「……『古の放浪者』？」

「コシャンのでし？」

《魔法の国　セレス国　禁忌地帯》

「セレンさんから使令を受けて数年、封印したと思ったら数ヶ月後には復活しているんだから驚かされるよ。『古の放浪者』さん」

《セレンティシアの弟子　始まりのゼロ》

【オオォォオ！！】

「全くです。セレン師匠はいったい何を考えているんですかね？　こんな化物を私達に相手させるなんて」

《セレンティシアの弟子　修道のシルファ》

「何も考えてねんじゃねえか？　あの人基本的にその場の勢いで生きてる様な人だからな」

《セレンティシアの弟子　剣帝のロイン》

【グルルル！！　『螺旋食』】

「その技は見飽きたよ。『古の放浪者』さん！　『来光斬』」

「回復します。『微風の霧』」

「爆ぜろ化物！　『炎斬剣』」

ドゴオオンン！！

　遠くの広野で全身黒々とした『古の放浪者』と私の弟子達が戦っていますね。

「ほうほう。やってますね～！　あの子達」

「随分と呑気ですね……最愛の弟子達がやられたらとか考えないんですか？」

　私の隣に立つメイド服を着た真紅さんが何か言っていますね。少し怒っている様に見えるのは気のせいでしょうか？

「それはないですね。だって相手はNumbersでもない『古の放浪者』ですよ。封印できて当然じゃないですか」

「『古の放浪者』はこの時代では最も驚異とされる人物ですよ……それを封印できて当然などと言わないで下さい。セレンお嬢様」

「それもそうでしたね……失言でした。ナルカミちゃんや愛弟子のシオン君の戦いを見ていると、ついつい物足りなくなっちゃうんですよね。強さとかそういうのに」

「人には人との成長スピードというものがあります。セレンお嬢様のお弟子さん達はまだまだ発展途上の段階ですので、多めに見て上げるべきです」

「……その時間があれば良いんですけどね」

「？……それはどういう事でしょうか？」

「先日、《輝星の最果て》でフィフスさんに再会したんですよ」

「フィフスが？……あの道化師にですか？」

「ええ。今後はNumbersの取り合いになるなんて言って。私の前から消えていきましたよ」

「Numbersの取り合い……フィフスがそんな事を」

　……真紅さん。少し驚いた顔をされていますね。無理もありませんよね。実の弟ですものね。

「Numbersの２人は倒して、ベヒーモスさんは味方に付ける事は出来ましたが、フィフスさんが敵対者であることは明確になりました。他のNumbersの人達は分かりませんがね」

「氷漬けにされたあの方はどうなのでしょうか？」　

「あぁ、ティーンさんの事ですか？」

「はい……」

「いつ目覚めるか分からない人の事を考えても仕方ありませんよ。復活した時の魂が同じ人なのかすら怪しいですしね。今は明確に敵対者となったフィフスさんの対処が先になるでしょうね。それと今後出会うであろう、残りのNumbersの人達の中で私達に力を貸してくれる人も見定めなければなりませんし」

「そうですか……そうなりますよね」

「はい……フィフスさんは恐らく龍国に潜伏していると思われますが。あの国は許可なく入る事が禁じられた国。先ずは入る事が出来るようにしなければなりません」

「その為に『古の放浪者』を捕らえるつもりですか？」

「捕らえる？　いえいえ。そんな事はしませんよ。逆です逆。彼を迎えに来る為に禁忌地帯にやって来たんです。彼に頼んで弟子達の修行をさせていましたが、それも今日で終わりです……『雷光《ライトニング》』」

「…………あれを仲間として連れていく気ですか？」

◇

【ルオオオォオオ！！】

「く！　すばしっこ過ぎるだろう！　本当に元は俺達人間と同じ者なのかい？」

「諦めないで。後少しで封印できるわ」

「おうよ。さっさと仕留めてこんな所から立ち去ろうぜ！　ゼロ」

【ルオオオォオオ…………(ついに迎えが来たか)……ル…ギャアアア！！】

「……何だい？　空から落雷が落ちて『古の放浪者』に直撃した？　これは明らかに誰かの雷魔法」

「……跡形もなく消滅しちゃったね」

「何だ？　俺達の他にも討伐隊でも来てたのかよ？　呆気ねえな。おい！」

◇

《ティファレント教会》

【グルルル……随分と手荒な迎えだったな。セレンティシア、真紅……死ぬかと思ったぞ】

「不死身の貴方がそんなので死ぬとは思えませんね」

「……お久しぶりでございます。『古の放浪者』……いえ、『影の王』シシンク様」

【おう……久しぶりだのう。お前達。相変わらず。姿形が変わらない様で安心した】

《Numbers　シシンク》

「それで？　どうでした。私が手塩に掛けて育てた新時代さん達は？」

【無駄な動きが多すぎだな、あれじゃあ戦いに投入しても直ぐに死ぬと思うぞ。中途半端な強さのせいで自信過剰になっている】

「……そうですか。やっぱり、シシンクさんもそう思いますよね」

【あぁ……使い物になるのは今、セレンティシアが育てている赤子と影盗賊娘位だろう。長い年月をかけて魔法学園まで造って魔法使いの育成をしても、意味がなかったんじゃないのか？】

「いえ。そんな事はありませんよ……今の時代が優しくなっているだけで、あの子達のレベルが決して低いというわけではなくですね」

【相変わらずの言い訳くさいな……結論。あの半端者達は龍国には連れて行かない方が良い。連れて行くとした、《竜星の落とし子》と影盗賊の娘、真紅位だ。後は無駄死にするだけだぞ】

「……いえ。ですが……あの子達はですね」

【Numbers……フィフスをあまりなめない方が良いぞ。階級はアタシの方が高いが。奴は人類殲滅派の筆頭だった。見境がなく、計算高い……遊びが無い快楽だからな】

「……つっ！」

「……シシンクさん。そんな事、真紅さんの前で堂々と言わないで下さいよ」

【事実は受け止めろ……アイツのせいでファーストは死ぬことになり、セカンドは行方不明、サードは闇落ちしたのだからな、恨みもするだろう。下位のNumbersまで散々な目にあったと聴くぞ】

　口を開けば悪口ばかり、この人はどれだけフィフスさんにどれだけ恨みを持っているんですかね。

【そんなの一生恨むに決まっているだろ。アイツはアタシの故郷に呪いをかけた張本人なんだからな】

「……ちょっと。私の許可なく心の声を聴くの止めてもらえませんか？」

【魔力障壁を掛けていないお前が悪い。真紅など見てみろ。ワタシに心を覗かれない為に必死に魔力障壁を展開しているんだから】

「…………」

　シシンクさんのその言葉を聞いて真紅さんが固まっちゃってますね。この２人、昔からかなり相性悪いんですよね。

「ですね……それで？　シシンクさんは私達と一緒に龍国に来てくれるんですか？　前の様に当日キャンセルは困るんですけどね。シシンクさんが口を開く度にフィフスさんの悪口を言うので、それを気にくわない真紅さんが、シシンクさんに向けて殺意を向けるんですよ。

【ああ、勿論、今回は着いていくさ。フィフスの馬鹿が居るのは半分確定している様なものだからな……だがその前に色々と準備が必要だろう？　世界各地の混乱は大丈夫なのか？　南東はナルカミとベヒーモスが見ている様だが、北西を見ているアタシ達が抜けたら不味い事になるだろう】

「それは……そうでけど。他に手がありませんよ。他に私達クラスの力を持った子がまだ育っていませんからね」

【……北にはティーン、西にはナインをこちら側に付かせて守らせるしかないか】

「はい？　何言っているですか？　ティーンさんは氷漬けですし、ナインさんの行方なんてどこにも居るかも分かって無いんですけど」

【アタシが知っている……案内してやろう。特別にな】

「シシンクさんが？……何で直ぐに言ってくれなかったんですか？　早く言ってくれればナインさんにもっと早くお願いしに行けたんじゃ」

【いやいや、アタシもアイツの正確な位置は掴んでいないんだよ。今、迷宮に潜っている】

「迷宮ですか？」

【そうだ。この『セファルレギア』の世界て最も広大とされるファルナス大迷宮……その深部にアイツは居る】

「ファルナス大迷宮ですか……たしか古代人が作った母船でしたよね？」

【あぁ、地球から脱出する為に、愚かな古代人が造った未完成の母船ファルナス……今は危険なモンスターが跋扈する迷宮だ】

「………それは、ナイン様を探すのに……潜るだけでだいぶ時間がかかってしまうのではないですか？」

　真紅さんが恐る恐る質問していますね。大丈夫でしょうか。変な汗が額から出ちゃってますけど。かなり緊張しているみたいですね。

【………お前は馬鹿か？　何の対策も無しに龍国に向かう方がリスクだ】

「…………馬鹿ですって？」

　あぁ、真紅さんの額から青筋が出ちゃってます。これは危険信号です。

【そうだ……Numbersの驚異が現れるまでは世界の南以外の地域だけ見守っていれば良かったが。これからは違う。全方位にアタシ達と同等の力を持つ奴等で世界を守っていかないといけないんだ……分かったか。Numbersのなり損ない】

「つっ！………良く分かりました」

【なら良い……道中のサポートよろしく頼む】

「……はい。あのシシンク様は私の事は嫌いなのですか」

【……何故その様な事を突然聞く？】

「いえ。貴方は弟を……フィフスを恨んでいるのですよね？　貴方の故郷を破壊した張本人としてなら私の事も……」

【アホか。別に真紅など恨んでいるおらんわ】

「ですが……貴方は明らかに私の事を……その」

【真紅のアタシへの態度が暗いから、私もそんな態度になっているだけだ。だから気にするな……今はな】

　よ、良かった。一触即発にはならないで済みましたね。

「で、では、龍国に向かう前に。大迷宮に居るナインさんを探す旅へと早速向かいましょうか。私達なら直ぐにナインさんを見つけられますよ。レッゴー！です」

　私はそんな風にオーバーリアクションをしながらこの困惑した雰囲気を乗り越えたのでした。

　さてさて今後の私やシオン君達の未来はどうなっていうのか、この万能で最強の魔法使いセレンティシア・ティファレントにも全く分かりませんが。

　私は私ができる事をして世界を守っていきますよ。それがファーストお師匠様との約束ですからね。

　そして、将来の世界を良くし、愛弟子であるシオン君が明るく暮らせる世界にしてあげると誓いましょう。それが万能の魔法使いである私の役目でもあるのですからね。