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第12話 ようこそ宝石と狂暴の国へ 

《ティファレント家 庭園》


「はぁー? 宝石の国に旅行に行くですって?」


「はい。そうですよ。宝石の国……『ティアラ王国』での講義に行きます。あの国に居るマルス君からの要請がありましたので」


 セレンティシア様の専属メイドになってから三ヶ月位たったわ。息子のシオンも、ティファレント家に始めて来た時よりも大きくなって今は……


「火属性魔法はこうやって使うのよ。シオン! 姉弟子が手本を見せるから見てなさい」


「はぃ!」


 ミネルヴァ図書館の元副館長にして、セレンティシア様の弟子に復帰したラニーちゃんに魔法の基本を毎日の様に教え込まれているわ。


 それも呑み込みが異常に早いのよね。流石は夫リンクの息子だわ。それとラニーちゃん。なんで修道女の服を着ているのかしら? 趣味なのかしら。


「ねえ? 元弟子とはいえ、あのラニーちゃんって犯罪者なんでしょう? シオンと2人っきりにしていていいわけ?」


「全く問題はありませんよ。私達に逆らった行動をした場合は……」


 セレンティシア様が指をパチンッとならすと……


「ンモモモ!! な、なんでこんな明るい時間に変態触手があらわれるのぉぉ?!」


「ンモモモ!!」


 そして、ラニーちゃんの身体中から魔法陣が現れて、そこから吸盤みたいな触手も沢山現れたわ。


「気持ち悪いわね……それとシオン。そんな光景に興奮しないでほしいわね。お母さん、複雑な気分になっちゃうわよ。ポーズを真似するのもやめなさい。そんな変態シスターコスプレ少女の真似は許さないわ」


「誰が変態シスターコスプレ少女よ。私はこれでも長命種。小娘のアンタと年季が違うのよ。年季がぁあ! ンモモモ!!」


「ンモモモ!!」


「じゃあ変態シスターオバサンね。貴女は……ねえ? セレンティシア様。こんな変態な子に、シオンの魔法の基礎を教わっても本当に大丈夫なの? 私凄く不安になってきたんだけど」


「だから大丈夫ですよ。ラニーちゃんは口と態度は悪いですが。悪い子ではありません。この子にずっと昔に基本と基礎を徹底に教えて込みましたからね。影の国の洗脳魔法も解けて、徐々にですが、以前の性格にも戻って来てますし……なにより今のラニーちゃんには小さい子供と接してもらって、失った人としての感性を取り戻してほしいですからね」


「人としての感性?……つまりなに? ラニーちゃんにシオンを少しの間育てさせて、感受性を取り戻してあげたいって事なの?」


「端的に言えばそうなります……私はこう見えて弟子馬鹿でしてね。面倒を見ると決めた子達にはなるべく幸せな人生を歩んでもらいたいんですよ。勿論、シオン君もその一人ですよ」


 ……この万能の魔女さん。傲慢に見えて結構色々と考えているのよね。あんなに強くて凄い偉人なのに人としての泥臭さが残っているっていうか。


 普通は長く生きれば、精神的にも磨耗していく筈なのに。全然そうなっていないのも、もしかしたらラニーちゃんの将来をずっと心配していたからかもしれないわね。


「話を元に戻しましょうか。シェリーは明日から私のお付きとして、宝石の国に一緒に同行してもらいます。その間のシオン君のお世話は真紅さんとラニーちゃんに任せるので安心して下さい」


 は? いやいや、何を一方的に自分の用件だけ伝えてきてるのよ。私とセレンティシア様だけで宝石の国? 意味が分からないわ。


「………話が急すぎて意味不明よ。なんで私がシオンと離れ離れにならないといけないのかしら?」


「今の宝石の国。ティアラ王国は色々と不安定なんですよ。そんな場所に愛弟子のシオン君と弟子のラニーちゃんは連れていきたくありませんし。真紅さんはティファレント家のお仕事で忙しいですから屋敷から離れられないのですよ。だから何かしらのトラブルが起きても対象できそうな貴女を連れていく事に私が決めたんですよ。シェリー」


 セレンティシア様は私を買い被り過ぎじゃないかしら? 私はただの竜星の一族で風魔法が少し得意なだけの凡人なのに。


「その話し。私に拒否件はあるのかしら?」


「申し訳ありませんが今回の件に関してはありません。なんせ、今回の講習の依頼は建前で、本当の依頼はティアラ王国への王国過激がとある封印の屋敷から解放した強力なモンスター『ベヒーモス』の討伐なのですからね」


 セレンティシア様はそう告げると私に一通の手紙と写真を渡して見せてくれた。手紙には、現在のティアラ王国の被害状況。写真には狂暴そうなモンスター……『ベヒーモス』の姿が写っていたわ。


《ティアラ国 ヒソウ草原》


『グルルオオオオオ!!』


「もう駄目だ。前線が持たない……あれでAランクモンスターだなんてあり得ないだろう。なんでこんな鉱石しかない国に突然現れるんだよ!」


「馬鹿。突っ立てないで逃げるんだよ。決死隊とマルスさん達が、俺達が逃げる時間を稼いでくれているだから!」


「そ、そんな事言われてもどこに逃げるってんだ? 周りは鉱山と剣山の山間なんだぞ!」


 俺の名前はマルス。世界最強の魔女セレンティシア・ティファレント様の弟子の1人だ。


 セレン師匠の命によりティアラ王国のエメラル学院で、魔法学の講師と、とある目的で来ていたのだが……何故こんな平和な国にこの様な狂暴なモンスターが現れているのだろうか?


『ルオオオオオ!!』


「一定の距離を取れ。不要に近付くな! 食い殺されるぞぉ!」


「ソフラ隊、負傷者多数! 全滅寸前です」


「王国からの援軍はまだか? このままではソフラ隊の隊員達の様に負傷者だらけで全滅するぞ」


 思った以上にティアラ軍の兵士の練度が低すぎる。報償金を出すと言われてベヒーモス討伐に参加してみたが、たった1匹に防戦一方だとはおもわなんだ。


 所詮は鉱石と宝石が取れるだけの宝石の国、国の防衛面は本当に弱すぎる。


「………俺が時間を稼ぐ。皆は俺の援護に徹してほしいのだが」


「何? 貴方が殿しんがりになり。私達を逃がして下さるのですか?」

「何ですって? それは本当ですか? 分かりました。私達は逃げます」

「み、皆、英雄マルス様がベヒーモスを引き連れてくれるそうだ。我々をそう隙に逃げろとの事」


「「「オオオオ!!」」」

 

 そんな事は一言も言っておらん。この国の兵士達は馬鹿なのか? そういえばセレン師匠は昔から言っていたな。宝石の国・ティアラ王国は狡猾な国だから油断ならないと。


「ふざけるな。お前達。何故、俺が貴様の為に殿など……」


『グルルルル………逃がすが馬鹿やろう。《崩壊箱庭》』


 ………何だ? あのベヒーモス。いきなり喋ったと思えば、何かの力を使った様な。


「ハァハァハァハァ……最初から狂暴なモンスターの相手なんて、他国に討伐依頼を出しておけば良かったんだよ。そうすればこんな被害が出なか……何だこれ? 透明な壁があ……ギャアアア?!」


「本当だ。何かに閉じ込められている。そして、触れた瞬間燃えて……ギィヤアアア!!」


『グヒィ!! 楽しい悲鳴。滑稽な悲鳴!! 気持ち良い。凄く気持ち良い!! グルルルル!!』


 やはり喋れるのか……知性の高いモンスターが片言で喋った事例は幾つか聴いたことがあるが。


 あんなに邪悪な感情を剥き出しで表現するモンスターは始めて見たな。


「貴様。セレン師匠が言っていた『ゆがみみの刻』の狭間から迷い込んだ類いか?」


『グルル…………あれ? 何だお前。なんでそんなに冷静なんだ? お前だけ、なんで逃げ回らない?』


「逃げ惑う必要などどこにある? 俺は世界最強の魔女セレン師匠の弟子の1人、これくらいの状況、1人でくつがえせない道理などないわ」


『ムカつくムカつくムカつく野郎だね……人間は弱い生き物だと聞いてきたの。なんで刃向かって来るんだろうか?……いいから僕の存在に怯えて逃げ惑えよ。クソ人間』


「黙れ。クソ化物……後々は師匠も来る予定だ。その間に貴様を抑えているば、俺の勝ち……覚悟しろ。『絶剣』発動」


《ティアラ王国 上空》


 現在、私とセレンティシア様は、私の風魔法で空の上を飛んでいるわ。凄い速度でね。


「おお! 流石、シェリーの風魔法ですね。今回の同行者を貴女に選んで正解でしたよ」


「……もしかして、私ってセレンティシア様の移動要因として同行させられただけなの? ていうか、移動するなら『瞬間移動テレポート』で移動すれば良いんじゃいの?」


「ティアラ王国は数多の魔封石がそこら中にあるので、空間魔法での移動は困難なんですよ。なので自然系の風魔法での移動が1番早くて、敵側に私達の居場所を悟られないで済むんです」


「敵側に悟られない? 待ってよ。今回の旅って明確な敵が入るの? 聞いてないんだけど?」


「はい。今話しましたからね。言うのを忘れていました。すみません」


 ……そのわざとらしい言い方絶体嘘よね。流石は腹黒魔女、大事な事は隠して逃げられない状況になったらいつも説明してくるのよね。いつもいつも。


「別に良いけど。今回の敵ってそんなに厄介なの? わざわざ私達だけで宝石の国に来るなんて、セレンティシア様のお弟子さん達。《ヴァルキリー》にも来てもらった方が良かったんじゃない?」


「移動する数が増えれば。それだけこちらの同行があちらに筒抜けになりますから無理ですね。それだけ今回の相手は厄介なのですよ。手紙には知性があり喋るモンスター、ベヒーモスと書かれていました。普通はベヒーモスは獰猛なだけのモンスターの筈です」


「知性あるモンスター? 人型や竜種ならともかく獣型が喋るの? ヤバイわね」


「ええ、だから今回は慎重に行動しているのですよ。マルス君が深追いしていないか心配です」


 セレンティシア様のこの表情。明らかに焦っているわね……それだけ弟子のマルスって人が心配なのかしら?


「……なら早く合流して、安否をたしかめないといけないわね。セレンティシア様。速度を上げるわね」


「シェリー……ええ、ありがとうございます」


「うん……」


 セレス国の東にある宝石の国 ティアラ王国。国中に金脈鉱山が沢山ある国で、採掘した鉱石や宝石の輸出や加工して、他国と貿易を行っている国。


 別名、富と欲望に溺れた国とも言われているわね。国民の殆どが何の努力もせずに、安い労働者を他国から大量に集めて雇用主となり、採掘させてそれを他国に高く売りつける。


 自分達は他人の労働力で莫大な資金を得て、雇った労働者達は入らなくなれば解雇して新しい労働者を安く雇うとか。悪い噂がたたないのよね。


「宝石の国って、あんまり関わって良い国とは聞かないんだけど?」


「ですね。なので長居はしませんよ。ベヒーモスを討伐して、マルス君の無事を確認したら連れて帰ります」


「講習の方は良い? ティアラ王国直々に依頼されていたんでしょう?」


「あの講習依頼はただの建前ですよ。ティアラ王国の本当の目的は私に封印が解かれたベヒーモスの討伐させる事でしょうね。自分達の国力をなるべく使わずに……ふざけた話です。まさかこの国に潜らせていたマルス君を利用して私を呼び寄せるなんて。ファーストは、今ま生きているのですね」


 セレンティシア様が普段は見せない怖い表情をしているわね。それにファースト?……いったい誰の事を言っているかしら? なにかしらの因縁がある相手なの? それにファーストって名前を名乗れるのは、たしか原初の魔法使いの名前で竜星の一族の遠い祖先だけの筈。それも故人なのに。今も生きているってどういう事なの?


「……もうすぐ開けたに出るけどいったん下に下りてみ……る?……何これ? 草原全体が焼け野原みたいになっているじゃない」


「それだけではありませんね。ティアラ王国の兵士達が逃げ回っていますね。箱庭の中を」



『グルル!! ウヘヘへ!! ほら逃げ惑えよ! 弱い奴等は逃げ惑え。強い奴等はかかって来いよ』


「ひいい! なんで弱い俺達ばかり狙って来るんだよ。相手はマルスさんがいるだろう! ギャアアア?!」


「なんでここから出れないんだよ。殿のあの人は何して……イギャアア?!」


『グロオオオ! あぁぁあ! 楽しい! 楽しい! 弱い弱者を痛め付けるのは本当に楽しい!!』


「ちっ!………さっきから俺を無視してティアラ王国の奴等にばかり攻撃している。まるで恨みを晴らすかの様に……強い怨念をぶつける様にな……」


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