第六節
「──カホウ! 早く!」
試験会場の受付に、サテン先輩がいた。
「ごめんなさい、……サテン先輩、私──」
「お喋りは後でいいから。受付を先に済ませてね」
少し早口で、無駄を省こうとする彼女の様子に、私は驚きつつも素直に従った。
ヒスイカズラの髪飾りを買えたお礼を言いたかったけど……そんなのんびりできるタイミングでもないみたいだ。
「──お荷物は、こちらでお預かりします。貴重品などは──」
「はい、ぁ、あります。出します」
鞄をカウンターで待つ女性に預け、その隣に座る男性に必要書類を提出していく。
「──リノン・カホウ君ね。この受験番号の会場は──」
事務員だと思われる彼に、私の『舞台』が示される。そして質問された事に答え、最後に入場許可証ともなる名札を受け取った。
頑張ってねと彼に送り出され、私は笑顔を返す。受付を終えるや、今度は──
「よし、行くよ」
「はい!」
サテン先輩は私の手を引き、試験会場の一画へ突き進む。
「カホウ。あなたの出番……ちょっと無理言って少し遅らせてもらってるから」
「あ、はいっ。すみません、ありがとうございます」
「……心の準備はしてる? 着いたら、いきなり名前呼ばれるかもよ」
「──それは、もう……っ。はい!」
「うん。いい返事」
各会場の端を縫うように進む。
その際に、周りの歓声……それと、蒼い光が尾を引いて飛ぶ光景に目を奪われた。
(飛矢……魔法──)
私と同じ、受験者達だ。
皆、離れた所に立てられた壁に向けて、魔法を放っている。少し見ただけでも、しっかりと飛矢を作れている子もいれば、上手く飛ばせてない子など様々。
どこも一喜一憂の花が咲く。
けど憂うことなんてない。私が出来ない事をやってのけている時点で、みんな優秀さんなんだから。
「──すごいな」
そう呟いた私に、サテン先輩が気付く。
「カホウ、気負うことないよ。撃てる撃てないじゃないって、さっきも言ったでしょ?」
「あ。……やり切る、ですよね」
「そう。やり切ってしまえ」
彼女は「そういう姿を見てる方が好きだからなー」って、背中越しに言う。その声は淡々としているけど、サテン先輩の優しさが溢れてて……ちょっと笑った。
(期待してくれているのかな。……そうだと嬉しいな)
……こんな風に思わせてくれる人。
肉親でもない、ついさっき会ったばかりの人なのに、すごく頼もしく感じる。
もっと早く出会えていたら……もっと時間をかけて仲良くなれてたら、私達はどうなっていただろう。
──そんな事を考えていた時だ。
「──あ」
レイジィ達の姿を見つけてしまった。
「……」
他人の試験を見ながら、隣の男子と話してる。監視役……観察員なのか。
私に気付いてる感じはない。
彼も真面目に仕事中なのだろうが……あんなスカした姿を見てしまうと、むず痒い気持ちが沸く。
(──後で、おどろかしてやろ)
悪童お姉ちゃんのイタズラ心に火が灯る。
だから、そのまま気付かないでくれていいよ。
「カホウ? 会場に着くよ」
「あっ、はい!」
──その時を楽しみに。
あの子の態度が崩れる所を思い浮かべながら、私は自分の試験会場へと入った。
────
「──リノン・カホウ、入ります!」
サテン先輩が、試験官らしき人に一声かける。するとその人は、私を見て言う。
「待っていた。君の出番は……次の次にしてある。今の内に準備をしておきなさい」
「っ。はい! わかりました」
応えた直後、飛矢魔法の実演をしていた子が、オーロラのような光を的となる壁に撃ち込んでいた。
派手な魔法に周りの人達が歓声をあげ、その子は得意げに片手を上げる。
校門で見た子供の魔法とは比較にならない技術力。……かつての神童もビックリです。
(……何? 今の)
凄いとか、かっこいいとか思うのではなく、普通に引く私。
世の中って広い。
……あんなのを見せられれば、流石の私だってそう思ってしまう。
せっかく私を完璧に仕立て上げて、悪童も調子に乗り始めたというのに……。
脚が、震える。
「──あー……」
そんな私に気付いたのか、サテン先輩が、
「うん。インパクトなら、カホウの勝ち」
って。
「それじゃあ、あたしは持ち場に戻るから。頑張ってね♪」
「あ……はい」
勝ちと言われましても。
声に力を入れられなかった私に、一瞬、サテン先輩は止まり……私の肩をポンポンと叩いて微笑んだ。
そして、その手は流れるようにヒスイカズラの髪飾りに触れ、
「──かっこいい♪」
そう言い残し、最後にわたしの頭を撫でていった。
「……ぉ」
それは
──ズルくないですか先輩。
彼女の背中には、今の私が欲しがっているモノ……全てが詰まっているようで……。
「──」
──ダメ。
これ以上考えたら、魔力が暴発しそうになる。
私はニヤけそうになる頬を手で抑え込み、自分に喝を入れる。
「……っし」
そうして、顔の筋肉が静まってから──これから立つ、『見せ場』へと意識をぶん投げた。




