表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

第六節.. ──前半




 ──。


 図書館の奥の方から、何かが私を見てた。


(見てた? ……違うな。声をかけられそうになった感じか)


「──」


 私やレイジィ達、そして数人の図書館の管理員。他に人はない。でも、確かに……本棚と箱の壁の奥から、音が聞こえる。

 ……人が、暴れてるような音が。


(……どうしよう)


 パパはもういない。

 思わず立ち上がってしまったけど、別に何が出来るというわけもなく、立ち竦む。

 その私の様子に気付いたレイジィが、私に声をかけた。


「どうかしたか?」

「え……」


 レイジィは、至って普通。

 何かを気にしている様子はない。

 ……わかっててそう振る舞っている、とも思えなかったから、私はレイジィを頼らなかった。


「──なんでもない」


 そうした私に、腑に落ちなさそうな顔が返される。だからと言って、レイジィは余計な詮索をしてはこなかった。

 女の子達と勉強会を楽しんでいる手前か、変な空気にしたくないって気持ちがあったんだと思う。

 少なくとも、レイジィならそう考えるなと思ったから、私は一人でこの場を離れた。


 ──こんな時に声をかけるべきは、もちろん管理員一択。私は、迷わずそれらしい人に近づいた。


「あの……」

「はい。何かお探しですか?」


 冷静そうな女性。

 変なことを言っても、ちゃんと向き合ってくれそうな人に思えた。


「……向こう、なんですけど」


 私は指を差して訴える。


「あの暗がりの向こうって、誰かいるんですか?」


 そう言うと、女性は表情を変えずに私と同じ方向を見る。「他のスタッフがいると思います」と返されるけど、「どうして、暴れてるような音を立てているんですか?」と続けて訊く。


「……暴れてる?」


「……はい」


 私達は少しだけ、見合わせた。

 女性は怪訝そうに顔を歪ませたけど、図書館にいる全てのスタッフに連絡をとってくれた。

 それによると──。


「暴れているような作業をしている者はおりません。……音はまだ聞こえてますか?」

「えと……はい」


 私は変なのか。そんなに神経質だったっけと思っていた。

 嘘はついていない。だけど、いたたまれなくて。

 女性は少し考えたあとに、「あなたのクラス証明書を見せて頂けますか?」──そう、手を差し出した。


 勘違いでしたと言ってレイジィ達の所に戻っても良かったのに、私は先に進んでしまった。

 女性は私のクラス証明書を見ると、一際、目元が鋭くなる。


「トクソウ・キョクショケイ。あぁ……なるほど、分かりました。でしたら、少しばかり人を集めて調査します。ご同行願えますか、リノンさん?」

「? え、私も行くんですか?」

「出来ればで構いません。ですが、一緒に来ていただけますと、こちらも大変助かります」

「……」


 クラス『特層・局所系』の、リノン・カホウ。

 あなたがいてくれたら、調査がスムーズに行える。

 ──ここで働く彼女がそういうなら……そういうものなんだ。

 私が、なにかのお役に立てるなら。それだけでも、「はい」と、返事をする理由になっていた。

 

 レイジィ達を尻目に、私は女性の後に続いて──図書館の奥へ。

 途中、作業をしていたのだろう男性スタッフ達が駆け寄ってきた。「緊急ですか?」や、「守兵を手配しましょうか?」などといった皆の第一声に、女性は一つ返答で連れ込む。


「まずは、安全の確認から致しましょう」

 

 それを聞くたびに、私の胸が苦しくなっていくようだった。

 さらに追い打ちをかけるみたいに周囲の照明はか弱くなっていき……やがて、私達は本棚が途切れる暗い通路に出る。


(音が……大きく聞こえる)


 壁に何かを叩きつけながら怒鳴っているような。──それか、誰かに懇願している声みたいだった。

 それが響いてくる方……。嫌が応にも目を向けてしまう。

 その私の様子を見て、女性は私が見据えていた通路の先へと進んでいく。

 後を追いかけたくなくなった。そう思ったのは一瞬で。やはり私は、皆に置いて行かれまいと、彼らの後ろへ付くのだった。



────



 赤い霧は、息のよう。


 暗い通路の先で、弱弱しい照明を浴びて浮かび上がる大きな鉄の二枚扉があった。

 そこから漏れ出しては漂う、赤い色。それを目で追い、見上げた扉には……こう記されていた。



「──禁書 旧 保管庫……?」



「リノンさん、音はこの先から聞こえますか?」

 女性の問いかけに、私は少し驚きつつも、「はい、この中から聞こえてきます」と答えた。


「……はぁ」


 すると女性は軽く額を押さえて、わざとらしく溜息をついて見せた。

 でもすぐに顔を上げると、連れて来た男性スタッフの一人に、「やはり、ウィスの守兵を呼んでください」と言づけた。


「──来てくれそうですか? ……はい、それは良かったです」


 通路の壁に備え付けられていた通話機で、然るべき所と連絡をとってくれた男性スタッフのオッケーサインを見て、女性は親指を立てた。

 ……それじゃあ、私達はここで守兵さんが来るまで待機なのかな。そう思った矢先のこと。


「では、我々は保管庫のクリアリングをします」


 心の準備は良いですね?

 女性は扉に向き直り、そう事務的に私達に問いかけた。さらには、別のスタッフから銀色の長くて細い棒を受け取ると──、扉を開こうとし始めた。


「え、あの、守兵さんは待たないんですか?」


 心の準備もなにもない。

 守兵さんを呼ぶということは、当然、私達だけでは手に負えない事態になりうるからでしょう。それなのに、無防備なはずの面々だけで前進を選ぶのか。

 一見して、女性の暴走にも見えたために、私は思わず口を挟んでしまった。

 だけど、それに対して女性は、


「リノンさん、守兵は救助隊です。何かあった時に共に行動していたら……我々は、一網打尽にされます」


 そうなったら、一体誰が助けてくれるのか。

 それを避けるためですよと言いながら、銀色の棒を扉の鍵穴らしき所に刺し込んだ。

 直後、女性の手の捻りと同時に、扉から重い金属音が鳴る。



 瞬間

    赤い霧が


     扉の隙間から勢いよく


   吹き出したように見えた



 女性も男性達も、それに気付いていないのか。それとも、慣れた事だと割り切っているのか。

 私だけが、背骨を引っ張られたように硬直していた。

 そうとは知らずにか、女性は扉に手を掛けながら言う。


「リノンさん。保管庫の中にある棚は、いくつかのブロックに分かれています。ですので──」


 ああ


 いやだ


「手短に済ませましょう。音のする方へ……正確に、我々を導いてくださいね」


 音はもう聞こえないと、嘘をついてしまいたかった。けど、できなかった。

 ここからは、あなただけが頼りですからって……。そう言葉を付け足されて、私は──「はい」と、言ったのだった。


 開かれる扉の音なんて、聞いていなかった。

 ただ、現れた道の先を前に、私は……何もせずに立ち尽くすわけにはいかなかったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ