プロローグ──『夢の一人歩き』
カット加工された宝石の中に通された。
「──ここが、私の部屋ですか?」
案内してくれた守兵(魔力研究所所属の警護兵)の方は、付き添ってくれた時から、ずっと無言だった。
魔力を暴発させる生徒を刺激させない──そんな風な、厳守すべき対応というものがあるのだろう。けれど、
「……」
──彼は簡単な手振りだけで、「そうだよ。話せなくてごめんね」と、示してくれた。
私は頭を下げる。
「……ありがとうございます 」
扉が閉じられ、一人きりになった私は、自室を見渡した。
田舎者の感覚で言うと……人が生活する部屋には見えない。
削り損なった河原の石をくり抜いたのかと思ってしまう。でも、これが都会の機能美だと伝わるような照明に加えて、水回りはしっかりしている。
それだけに、窓が無いのは残念だ。
「──はぁ」
鞄を置き、お手入れされたベッドに座り……倒れ込む。
「──」
息をしているのか、していないのか。
虚無の顔をしたまま、試験会場で火を起こした馬鹿な自分を思い出していた。
これ自体が馬鹿な事だとわかってる。
けど考えずにはいられなくて……。
私は、呻き声を上げて顔を手で覆う。
「……ばか」
クラス分けも手続きも済み、これで魔法学校に身を置けるようにはなった。
むしろ今は、『なってしまった』と言いたい。
陽はとっくに沈み、今頃は他の新入生も同じように寮の自室で一息ついているだろう。
やる事は……もう、多分ない。
「寝よう……」
気が重く、服を脱ぐのも億劫。
お母さんに見られたら、また制服にシワがつくと小言を言われそう。
それでも、この身体は起き上がってはくれないようだ。
……まどろむ時間すら煩わしい。
今すぐ現実から逃げ出したい。そう思った時に、いつも使っていた魔法を、ここでも頼ろう。
「──っ」
魔力を強め、抱えきれない程の想いを武器にして、意識を飛ばす気絶魔法の一撃。
そうして私は、命を捨てるように……眠りについた。
────
……夢は止まる。
眠る私を
置いて、
部屋を出た。
──誰もいない校舎。
絵のような、夜の廊下を歩く。
いつも誰かの陰口を聞かされていた階段を降りる。
ヒスイカズラの髪飾りを買った購買部を横目に、通り過ぎる。
──試験会場だった中庭。
白い火を放って、また人を怒らせた場所。
そんな思い出を見ないように、
満天の星空を掴むように手を掲げ、私は歩き続ける。
向かう先は、校舎の中央にある、魔力研究所──ウィス。
そのウィスから空へ……狼煙のように立ち昇る赤い光。見ているだけで、呪詛を吐き出したくなる歪な魔力。
あそこが。
あの場所が。
次の一歩を踏み締めた時、中庭から図書館へと情景が変わる。
仄かな灯りに照らされた本の群れ。
机に積まれた古書。開いたままの絵本。
誰かの勉強した跡を眺めてから……誰かを追うように、図書館の奥へ進む。
「──」
僅かな照明も届かなくなった先。
古い、鉄の大扉が──姿を見せる。
禁 書
旧……保管 庫
扉の僅かな隙間から漏れる、赤い息。
「……」
私は、その場で何もせず……
ただ、こうしていれば、何も起こらなかったのだと言いたげに、
大きな扉を 見上げていた。




