闇に紛れて
夜の街は静寂に包まれていた。街灯の光が路地裏に差し込み、濡れたアスファルトに反射して歪んだ影を映す。志那薫は黒いフードを目深に被り、物陰から様子を窺っていた。
標的は目の前のバーにいる。魔法使いの一人だ。
「そろそろか。」
薫は真っ黒のダウンの内側に手を差し入れた。そこには愛用の二丁拳銃が隠されている。
黒鋼 と名付けられた特製の銃。魔法障壁を貫くために設計された特殊弾丸が込められている。
バーのドアが開いた。スーツを着た男が姿を現す。標的だ。
薫はフードを深く被り、闇に溶け込むようにして距離を詰めた。
だが、次の瞬間――男が振り向き、手を翳した。
「見えているぞ、殺し屋!」
空気が震え、赤色の光が渦を巻く。魔法だ。
「だったら何だ…!」
薫は反射的に跳躍し、宙で銃を抜いた。二丁の黒鋼が閃き、引き金が引かれる。
閃光と共に、銃弾が唸りを上げて放たれた。
男は赤の障壁を展開する。だが、黒鋼の特殊弾は魔法障壁を貫く。弾丸は障壁を容易く突き破り、男の肩を抉った。
「ぐあっ…!」
男が呻き、体勢を崩す。その隙を見逃さず、薫は地面に着地し、すかさず追撃をかけた。
「逃がすかよ。」
低く呟き、銃口を男の心臓に向ける。
だが、男は歯を食いしばり、地面に手をついた。魔法陣が瞬時に描かれ、雷撃が薫に向かって放たれる。
「チッ…!」
薫は咄嗟に壁を蹴って跳び退いた。雷撃が地面を焼き、焦げた臭いが鼻を突く。
「しぶといな。」
男は立ち上がり、血を流しながら狂気の笑みを浮かべた。
「痛てぇなぁ…殺し屋ごときが!」
再び赤の光が渦巻き、今度は無数の雷の槍が生成された。空中に浮かぶ槍は一斉に薫へと向かって放たれる。
「Flow Accel」
薫は目を細め、鋭く閃光のような動きで雷の槍をかわしながら前進する。黒鋼が火を噴き、次々に槍を撃ち砕いた。
雷槍の破片が散り、薫は一気に間合いを詰める。
「終わりだ。」
至近距離で銃口を男の額に突きつけ、引き金を引いた。
銃声が響き、男の体が崩れ落ちる。
薫は銃を仕舞い、冷たい視線で倒れた男を見下ろした。
「恨むなら雇い主を恨め…」
薫は振り返り、タバコに火を付けた。
その背中を、冷たい風が通り過ぎていった。