予想外のOK
あの時、わたしはきちんと確認した。
でも靴箱の名札が神崎であることを確認したけど……弟の祐樹くんの存在を忘れていた。そうなると、わたしがラブレターを入れたのは祐樹くんの靴箱だったのだろう。
「あの……」
実は人違いでした、といっていいのだろうか。
いや、いわなくても大丈夫かもしれない。お互いはじめまして、だと思う。知らない女の子に告白されても、きっと了承しないだろうし。
祐樹くんの顔をもう一度確認する。引くて数多そうなその凛とした顔を見て、わたしは安堵した。告白は慣れていそうだ。それならば、わたしはきっと無事にフラれる……そもそも、すでに彼女がいるかもしれないし。
すると、祐樹くんはわたしの方へと歩みよってきた。
大きく長い指が差し出され、意味が分からず思わず顔を上げてしまった。
「いいよ、付き合おう」
「へっ!?」
ひどく素っ頓狂な声を発してしまったと、自分でも思う。
「名前、教えてよ」
「青谷……美咲……」
「そう、よろしく。美咲」
――嘘、でしょう?
祐樹くんは、わたしの手を取り、しっかりと握る。
いやいやいやいや、理解ができなく、思わずわたしは大きく首を振った。
「え、祐樹くん。考え直さない? ……別に無理して付き合わなくてもいいんだけど……?」
「は!?」
今度は祐樹くんの方が素っ頓狂な声をあげた。
それはそうだろう、相手に対してOKを出したら、今度は「考え直して」なんていわれたのだから。
「別にわたし、フラれても泣かないから。気を使わないで」
その言葉をいぶかし気に眉をひそめられる。
我ながら、『何言ってるんだ、コイツ』と思うけれど。
「……気を使ってるのは君だよね? いや、大丈夫だよ。じゃあ、ひとまず今日、一緒に帰ろうか。君のこと、全然知らないし」
あ、やっぱり知らないんだ……?
いいのかな? 本当に、なんで了承したんだろう……。繋がれた手は振り払えそうにない。結局、そのままわたしは祐樹くんと一緒に下校することになった。