靴箱に置いたラブレター
時は遡り、一時間前。
わたしは神崎、と記された靴箱の名前を確認した。靴箱に靴は残っているので、まだ学校内にはいるはずだ。そうして、可愛らしいハートのシールを貼ってある白い封筒を靴の上に置く。
神崎先輩は、学校でも人気の男子生徒だ。その顔だちと振る舞いで憧れる生徒も多い。
つまり、いかに生徒会で親しかろうが、わたしが告白しても首を縦に振らないことは明白だった。そもそも、先輩には彼女がいるらしい。だから、二度もいうが振られるのは当たり前の話だ。
でも、それでも良かった。
どうしても当たって砕けたかった。
もうすぐ卒業で、生徒会からいなくなる先輩に――好きです。いいや、ずっとずっと好きでした。お幸せに、と伝えたい。恋に焦がれて眠れぬ夜を何日も過ごした、なんとか砕けて諦めて次に進みたい。つらく苦しいこの気持ちを終わらせたかった、自分勝手だとは思うけども。
人差し指でその想いが込められた手紙を撫でる。わたしが手紙で呼び出しても、先輩はこないかもしれない。それはそれでいいのだろう。今、わたしに必要なのは「玉砕覚悟で本気の初恋をした」という、その事実のみなのだから。
息を呑み、手紙を周りからは見えないほどの奥にグッと押し込める。そうして、靴箱を後にすると、わたしは残った日直の仕事をすべく教室へと戻っていった。