屋上の待ち人
わたしは長い階段を駆け上がる。はぁはぁと上がる息を堪え、屋上への分厚い扉を寄りかかるように押し開いた。すると、そこには学生服の男子生徒が一人立っていた。
すでに告白相手は到着していた。不安だったが、来てくれていた。
息を大きく吸いこむ。せっかく意を決したラブレターで神崎先輩を呼び出したのに。肝心の自分が、呼び出し場所に遅れてどうするのよ……!
西日が逆光となり、先輩の顔がよく見えない。でも、あの背格好は――、まさしく先輩だ!
「好きです!」
着くなり早々に叫ぶように告げ、あとはお断りの返事を待つのみだった。
けれど、返答はない。不思議に思って、ゆっくりと先輩に向かって歩みを進める。
その顔がようやく見えてくる。
すらりした立ち姿、陽に照らされた端正な顔、豊かなまつ毛に少しキツめだけれども、黒くハッキリとしたその瞳は、しっかりとわたしを見ていた。
……だ、れだろう、この男の子。
でも面影に先輩が垣間見えて、先輩との会話を思い返す。
――僕には一個下の弟がいるんだよね。君と学年は一緒だよね?別のクラスだよ。そうそう、僕に似てるねってよくいわれるんだよ、弟の名前は――
ああ、本当だ。背格好は先輩にとても似ている、似ているが少し顔立ちは違う。確か、彼は、彼の名前は――
「神崎……祐樹くん……?」
「ああ」
そこでようやく、わたしは告白する相手を完全に間違えたことに気がついた。