蛇の子を孕む
夜になると、押し入れがスコーッと開く。
そこから、細長い紐状のものがずるずると這ってくる。
蛇だ。
蛇は布団に入ってきて、私の身体に巻き付く。
その蛇は噛みつくわけでもなく。
身体に巻き付くだけで、特に何するわけでもなく。
私もまた、蛇に対して何するわけもなく。
ただ、静かに巻き付き巻き付かれる。
そして、蛇はある程度すると、私の身体から離れる。
ずるずると畳を這いながら、押し入れの隙間に戻っていく。
そんな、よくわからない夜を過ごすこと1ヶ月。
蛇は予告もなく、訪れなくなった。
それから、数ヵ月後。
「おめでとうございます。お腹に赤ちゃんがいますね」
生理が来ないので病院に行くと、医者にそう告げられた。
私には、そんな相手はいないし。
それに、最近そういうこともしてない。
思い当たることと言えば…蛇が一時期、私に巻きついてきていたくらいだろうか。
だとしたら、私のお腹の中の赤ちゃんは…蛇の子?
わからないけど…
私のお腹に宿る、命。
私はお腹を擦りながら、微笑む。
私は1人じゃないんだ…
私は誰の子かわからない、もしかしたら、蛇の子かもしれないその子を産むと決めた。
病院の帰り道。
草影に蛇がいた。
あの、蛇だ。
チロチロと舌を出し、ぺこんと頭を下げた。
まるで、会釈しているように見えた。
「…大丈夫、ちゃんと育てるからね」
私がそう言うと、蛇は静かに草むらに消えてった…