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【短編】卒業式のユメ 〜潜水服の優等生は、まどろみの世界で指揮棒を振るう〜  作者: シロヅキカスム
Chapter 3

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丘の道Ⅱ

 窓の外は、夜の色が続いていた。

 月が明るい。真昼のように周囲の輪郭がはっきり見えるのも、豪雨の時とそう変わりなかった。


 車が進む上り坂は、やや右回りの弧を描いていた。歩道には葉のない銀杏並木(いちょうなみき)が数メートルごとに植わっている。

 どこかで見たことのある風景だ。外を眺めていた俺は、はっと気づく。そうだ、この道はいつもの中学校へ続く通学路じゃないか。


 次第にぽつぽつと、歩道に人影を見かけるようになった。

 坂を歩く人たちを見て、俺は少し目を見開かせる。なぜなら奇妙なことに、みな一様に全身を黒いローブで覆っていたからだ。頭にも黒いフードをかぶって、黙々と歩いている。


 見知った顔であるかどうかは確認できなかった。体つきからして、学生ではなく大人のようである。

 たまに背丈が低い子どももまじっていた。同じく黒いローブをまとって、大人たちに手を引かれて歩いている。


「ああそうか、みんな卒業式へ行くのか」


 俺はなんとなしに、納得した。

 黒いローブの人々は徐々に数を増していく。坂道にあふれんばかりまで増えて、やがて前が詰まってきた。いつしか銀杏並木の歩道には、卒業式の参列者による黒い長蛇(ちょうだ)の列が出来上がっていた。


 あまりの渋滞っぷりを見た俺は、その脇の車道でスイスイ移動している自分たちとを比べて、気まずさを覚えた。


(というか、ふつうに見つかったらまずいかもな)


 俺は窓をこっそり閉める。姿勢を低くして、運転席の真島に「早く行こう」とうながした。優等生が素直に従ってくれるか心配だったが、車は程よく加速する。


「…………」


 母と妹が生きていれば、あの参列者のなかにまざっているかもしれない。淡い期待が胸に浮かぶも、黒いローブとフードせいで誰も見分けがつかないことを思い出す。


 再び窓をのぞこうとするのは、やめにした。

 うっかりして、見つかってしまうのも怖かった。



 * * *



 俺こと筧井頼人と真島賢治の二人が通う中学校は、小高い丘の上にある。


 だから、このまま長い坂道を進んでいけばいい。進んでいけば――やがて、坂が終わって平坦な道になるはずだ。そこが丘の上であり、すぐに学校の校舎が見えてくることだろう。

 ところが、坂の終わりに俺たちを待っていたのは、思いもしない風景であった。


 ――湖である。


 フロントガラスから見える光景に、俺は目をまばたかせた。丘の上には、中学校の校舎などどこにも見当たらない。代わりに平たい土地に、静かな湖畔が広がっていた。


 水の透明度は低く、湖面は緑色に(にご)っている。至るところで水面から枯れた流木が突き出ていて、その上を季節外れのトンボが何匹か飛んでいた。

 湖の奥は白い霧が立ち込め、先がよく見えない。すぐ手前には泥にぬかるんだ岸辺に(あし)がたくさん生え――と、急にズズズッ、車が下方向へ引っぱられた。


(どうやら湖のぬかるみに、タイヤがはまったな?)


 そのまま泥に引きずられて、車が沈みかけているようだ。ぴちゃぴちゃ、タイヤが水になでられている音も聞こえてくる。


 俺はじたばたしなかった。

 大きく酸素を吸い込む。口いっぱいに空気をため込み、頬を風船のようにふくらませた。念を入れて、片手で鼻を押さえておく。


 真島のほうを向いて、準備万端とばかりにうなずいてみせた。

 それを合図に、真島がアクセルを踏む。

 俺たちを乗せた車は、ゆるやかに湖のなかへと沈んでいった。

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