法を犯して好奇心を満たそうって話
返答を間違ってたらキレられるというなんとも理不尽でリスキーな連絡を終える。この緊張感は昔友人に勧められてやっていた選択肢型のギャルゲー擬きに似ているな。
結果そのゲームは選択肢などほとんど関係なく、何を選んでも最終的にはほとんど同じ結末になるというもので、勝手にそのゲームに対して幻滅したのを覚えている。
ちなみにそのゲーム終えた後、それを進めた友達とは一週間口を利かなかった。もう二度とあんな心の苦しくなるサイコロジカルホラーゲームに手をだすものか。
「さて、目的地に着いたよ~」
「なんか外見すごいな。ほっといたら勝手につぶれるんじゃないのか?」
「ね、これだから早めに来たかったんだよ。気づいたときにはもうありませんとか嫌だったし」
確かにこの神社は僕たちがこの学校にいる間に潰れて無くなってもおかしくない程に腐食や傷、虫に食われたような跡が散見され、経年劣化の最たる例といっても問題がない程に荒れている。
荒れて、枯れて、成れ果てている。
しかしながら全くもって使われていないわけでもないのか、周囲の草は僕の腰のあたりに切りそろえられていて、本殿の扉は何度か開けられたような形跡がある。
最初の危惧していた通りに、不良が中にいてもおかしくはない。危険すぎる。
ここはいったん引き返した方がいい気がするし、何か理由をつけてごねてみるか。
「さて、と。それじゃあ入りますか!」
「本気で入るのか?僕たちが中にいる間に、雪の重さで潰れそうな雰囲気だけど」
「その時はその時だよ。それに、そんな偶発的な不幸なんてゆーくんが跳ね除けてくれるでしょ?」
「あんまり過信しすぎるなって。もし偶発的じゃない不幸だったら、僕にはどうしようもないんだ」
そう、僕がどうにか干渉できるのは誰にも仕組まれていないことに限るのだ。例えばこの神社におびき寄せて神社ごと僕たちを潰そうとしている奴がいたら、僕の幸運ではどうすることもできない。
不幸が起こらないことと幸運が起こることを十把一絡げにする人が多いのだが、そういう訳ではない。
普通の幸運であれば偶然相手の作戦が失敗することもあるだろうが、僕の場合はそんな都合のいいことは起こらない。
そうやって僕の運を勘違いしている人。それこそ一民のような人や、僕のようにゲームに対して勝手な幻想を持っている人間は勝手に幻滅し、どこか遠くへと離れていってしまう。
だからこそ六架には勘違いしてほしくない。
「過信してないよ、妄信してるだけ」
「もっと悪い」
勘違いしたときに幻滅どころか絶望しそうだ。
「冗談冗談。信じてないわけではないけど、あんまりゆーくんの力に幻想を抱いてはいないよ」
「あぁ、それがいい。だからこそ、いったん戻ってしっかりと準備をしてから行かないか?」
「えぇー?それなら私だけで行くよ。心の準備は万端だし、このまま帰っても寝れないし」
「うーん……僕だけ戻るのは無いしな」
「どちらにしろ私はここまで来たら止まらないよ?まぁ、恨むなら自分じゃなくて好奇心旺盛な私の事を恨むんだね。私が悪いのはとっくのとうにわかってるでしょ?何だったらゆーくんは振り回されただけだから、いったん戻っていいし。」
「なんで僕がお前の事を恨むんだよ。お前は悪くない。僕が勝手についてきただけで、この状態は仕方がない事だろ」
「……え?」
「僕はお前を守りに来たんだ。だから僕だけ戻る選択もないな」
そう。結局着いて行ってもいかなくてもいい状態で、一緒に行くことを最終的に選んだのは僕なのだ。
過去を恨もうが現在を変えることは出来ないし、どんないちゃもんを付けようが、どんな屁理屈を立てようが、未来に何かが起こったとしてもその未来を選んだのは紛れもなく僕なのだ。
それなら何のせいにするのか。
お人好しな僕のせいだ。
「うわ~、なんか臭いセリフを言ったと思ったら、心の中まで恥ずかしいじゃん。共感性羞恥を煽る心をしてるよ」
六架が口に手を当てながら冷ややかな目をこちらに向ける。
「勝手に心を見るお前が悪い。っておい!今回は普通に恥ずかしいからやめろ!」
「でも恥ずかしいセリフを言うっていう選択をしてなかったら見られることもなかったんだよ?っていうことは誰のせい?」
「……お人好しな僕のせい?」
「正解!」
「違う!一者択一みたいな問題をだすな!」
「えへへ」
「褒めてない。はぁ、これ以上ここに留めようとしても仕方がなさそうだな……中行くか」
「おっけーい」
建付けの悪い扉を開けて、本殿の中へと入っていく。
中には様々なものがある。一意専心という標語が額縁に入ったもの。四人の赤ちゃんが左右に書かれ、その中心に箱が置かれている絵が描いてある掛け軸。呪法百禁と書かれた四冊の本。錆びた千枚通しと鋸と鉋。
二時間ほど探索して分かったのはこのくらいか。
恐らく掛け軸に書描かれた赤ちゃんは水子で、中心の箱はコトリバコだろうか。錆びた千枚通しと鋸と鉋は、しかけ箱を作るために使われたのか?呪法百禁は……考えるまでもないか。
正直隠岐半島発祥のコトリバコがこんなところにあるというのは信じていなかったのだが、確かにここにあるものと、コトリバコについての情報を擦り合わせてみるとコトリバコがここにあるというのも大概馬鹿馬鹿しい与太話ではなさそうだ。
などと自分なりの思考を真面目そうに展開しているのだが、今現在していることはれっきとした不法侵入。つまり犯罪なので、周りに防犯カメラや警備員がいないかなど、気を張りながらの探索……のはずなのだが。
「おぉ~、思ったより広いねぇ。なんか秘密基地みたいだよ……そうだ!お悩み解決部の部室はここにしようかな?良くない?」
六架は何も気にせずに大声ではしゃいでいる。
こいつに緊張感はないのか?
いや確かにここは適当な広さがあるのだが、学校の渡り廊下など比にならないほどに劣化している。どう考えても部室に最適だとは思えない。
少なくともそこら中にある蜘蛛の巣と埃を掃除して、腐った畳を取り換えて、扉を作り変えて、屋根を張り替えて、壁を作り直して、梁を置き換えなければいけないだろう。
つまるところここは部室に向いていないという事だ。
……話がそれた。
「っていうかゆーくん、あれコトリバコじゃない!?」
そういって六架が何かを指さす。その先は部屋の最奥にある祭壇。そしてその上には謎の箱がある。
極彩色での四色定理。簡単には開けられないような仕掛けが施された箱。古びたここの雰囲気とは全く真逆で、未だ新品のような風貌をたもっている。
新品感があるのは、呪いの力だろうか。
外界と物体を隔絶するような呪いもあるから、それであってもおかしくない。が、だとしたらかなり強めな呪いが掛けられているのだろう。これは安易に近づけないな。
一応六架に注意しておくか。
「確かにそうかもな。ただ、あんまり近づくなよ?何があるか分からないから」
「わかった!んで、これなんだけどどうやったら開くかな?」
「は?」
「えーと、ここがこうで?」
六架の手の中にはすでにその箱があった。
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たのむ~