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追放(退部)を強制させられた話

「なぁ、優。お前今日で退部だ。ごくつぶしを抱えてられるほど今人員に余裕ねぇんだわ」


 突然目の前の赤髪の男、一民が退部勧告を行う。その言葉の矛先は、紛れもなく彼の対面に座っている僕だった。


「……え?」

「用済みだって言ってんだよ。わかったらさっさと出てけ」


 突然すぎて理解ができず聞き返すが、帰ってくる返答と視線は冷たいものだった。


「いや、なんか僕何かやった?それなら自分から抜けるけど」

「その逆だ、何もやってねぇんだよ。お前今までに何か目立った事うちのパーティでやったか?」

「いや、確かにそれはないけど……」

「だろ?だからいらねぇ。うちのパーティには何かに秀でてるやつが欲しいんだ。例えば俺は剣術に秀でてるし、仁也は弓術に優れてる。万理に至っては昨今需要のある回復魔法に適性があるんだ。お前、何か特別な力があるか?」

「一応幸運でこのパーティをアシスト出来てたと思うんだけど、それじゃあ足りなかった?」

「はぁ、幸運系のパッシブスキルがある。それは知ってんだよ。だからこの部に入れてやったんだ。でも蓋を開けてみたらお前が入ってから特にいい事が起きるわけでもねぇし、面白いこと何にも起きねぇ。お前本当に幸運持ちか?」


 確かに僕には優れているところが何もない。誰もが生まれながらにして得るパッシブスキル。種類は身体強化や魔力強化、物体誘導など様々ある。


 その中でも僕は千人に一人と言われている幸運系パッシブスキルの持ち主なのだが、その実運が良くなるわけではなく運が悪くならない(・・・・・・・・)という地味な能力内容。

 優秀な者の例をつらつらと挙げられると、事実何もしていない僕は反論もできない。


「黙ったってことは自覚してんだろ?だったらさっさと帰れ。時間の無駄なんだよ」

「わかったよ……最後に一つ聞くけど、これは全体の意見か?それともお前の一存なのか?」

「俺の一存だよ。はい、答えた。じゃあもう来るなよ。間違って明日来てもお前の席はねぇから」


 最後の一言が鼻につくが、それも自分に特技がないことが招いたことだし仕方がないか。そう考えながらいつもよりも重いドアを閉めて部室を後にする。







 次の日、生徒会室へ退部届を提出しに行く。


 押しドアを開け、そのまま中へ入る。中には歴代の生徒会長の肖像画が二十枚ほど飾ってあり、硝子棚には所狭しと何かも分からないトロフィーや賞状が飾られている。

 床には靴で上がることを躊躇するほど触り心地のよさそうなフカフカの絨毯。目に入る情報だけでこの部屋は気軽に入ってはいけない雰囲気が感じ取れる。


 部屋の奥にある椅子へと視線を向け直す。部屋の奥にある洋風で重厚な机と牛革であることが一目でわかる椅子。

 机の上にはこの落ち着いた空間にはそぐわない虹色に光るゲーミングパソコンが置いてある。



 ……。

 え、何で?



 そんなどうでもいい事に気を取られていると、椅子がくるりと回転しこちらの方を向く。そこには眼鏡を黒縁の眼鏡をかけた三つ編みの女性が頬杖をつき、何かしらの書類を読みながら座っていた。服装や髪の乱れのなさから整然とした性格であることが伺える。 


 生徒会長、途野理みちのことわり


 一年生から三年生にかけて生徒会長を務めている女性である。優れた観察眼を持った彼女に名前を覚えられたら、誰彼からも引っ張りだこになるとかなんとかという噂があったりなかったり。


【今日はどうしたの?今の時間帯、普通だったら部活に勤しんでいる時間のはずだけれど】

「今日は退部届を出しに来ました」

【へぇ、退部届か。なるほど。まぁしかし、君が自分から退部しようとするとは考えずらいね双宮ふたみや優君。辞めさせられたのかい?】


 名前を憶えられていた。噂通りにいけば引っ張りだこになるらしいが、もしそうなったらとても困る。僕はそんなにたくさん友達はいらない。

 誰かと遊ぶ時間があったら僕は家で洗濯か炊事でもしなければいけない。


「えぇ、まぁそんな感じです。それにしても、一度もあったことのない僕の名前なんてよく憶えてられますね。僕はその日あった人の名前すら憶えていられないのに」

【君の記憶力が低いのはわかったよ。まぁ私も興味のない人の名前なんて覚えていられない。つまり、私は君に興味があるんだよ。幸運のパッシブスキルで幸せになるんじゃなくて、不幸が起こらないようになってるなんて珍しいからね】


 台本でも読んでいるのかと勘違いするほど起伏のない単調な声で、僕の事を称賛する。


【偶然石に躓かない。偶然マークシートを塗り間違えない。偶然攻撃がはじかれない。偶然攻撃が当たったりしない。不慮の事故が起こらないスキル。君の事をちゃんと評価している人たちは君のスキルを『普遍的日常オールイエロー』って呼んでるよ】

「いや、裏で僕の二つ名を勝手に作らないでくださいよ。それに僕のスキルはそんなに注目されるようなものでもないですし」

【いや、そんなことはないよ。実は迷宮探索部上位の人たちにも君の事を欲しがっている人がいるくらいだ】


 書類から一瞬だけ目を離してこちらを向く。その瞬間だけただでさえ無表情の途野さんの顔が無感情になる。

 しかし本当に一瞬の事で、書類に目を戻すといつも通りの無表情に戻る。


【そうだ、今頃君をやめさせた部活は今まであり得なかったような不幸で大変な事になるっていう揺り返しを食らってるんじゃないのかな?】

「だとしたら面白いかもしれませんね。うちのリーダーは結構性格きつかったんで」

【ははっ。他人に甘い君からそんな言葉を聞けるとは思わなかったよ。まぁ、うん。退部届受け取ったよ。これから君はどうするんだい?うちで生徒会役員してもいいけど?】

「やめておきます。頭を酷使して体も酷使する労働は性に合わないんで」

【ふむ、まぁ検討しておいてくれ。また近々会うこともあるだろう。まぁ、君がほかの部活に入ろうという意思を持っていればという話なのだけれど。さて、優君。ここからは雑談なのだけれど、君はどうして辞めさせられたんだい?】


 手元の書類から目を離すことなく話に花を咲かせようとする。話を盛り上げたいのか、話を切り上げて仕事に集中したいのかどちらなのだろう。


「目立った活躍がないとか何とか言われてやめさせられましたね。前線にも出ずに裏でこそこそやってたし、活躍がなかったのは事実なんで反論もできませんでしたよ」

【目立った活躍、ね。君のパッシブスキルは幸運。ましてや特殊な幸運なんだから、目立たないのが当たり前だよね。でも、優君なら肉弾戦でも活躍できるんじゃないかな?】

「リーダーの一民に『お前は前で戦うな』って言われていたので。まぁ、前で戦っていると倒した敵の種類や装備の始末書を書かなくちゃいけなくなるんで、早く帰りたい僕からしたらだいぶうれしい話だったんですけど」

【ふふっ。それならこれからは今までより早く帰れるから今までより充実してるのかい?】

「それとこれとは話が別ですよ。頑張ってお金稼がないと食事代とか間に合わないんで、これからはバイトとかなんかして稼がないといけないんですよね」

【そうなんだね。それだからこそ働いた分お金が発生して、定時で帰ることができる優良な職。生徒会役員になることを進めるけど、さっきのように君は自分に合わないと言って拒否するだろう?】

「はい。お誘いこそありがたいんですけど、働き口を斡旋してもらった方がうれしいですね」

【こら、ここはハローワークじゃないんだ。出来ないことはないけど、それをあてにして貰っちゃ困る】

「冗談ですよ。じゃあ、ありがとうございました。そろそろ僕帰らないといけないので。雑談楽しかったです」

【それなら良かった……そうだ、用がなくとも暇だったり無理難題が立ちふさがったならここに立ち寄るといい。君と話すのは楽しいからね】


 こんないるだけで気を張らなければいけないような場所に暇つぶし感覚で来てもいいのかなどと考えるが、生徒会長がそう言っているという事はまぁ良いのか。この部屋の所有権が誰にあろうが僕の知ったことではない。


「そう言ってもらえるなら、気が向いたときにお邪魔させていただきます。それじゃあ失礼しました」


 委員長との話を終え、一礼して生徒会室を去る。


 ドアを閉める手が昨日より重く感じる。まぁ実際重量的に重いからか。

誠心誠意お話描きます。

ブックマーク、評価貰ったらめっちゃ喜んでめっちゃいい作品描きます。


なのでよろしくお願いします。


たのむ~

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