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迷宮解決

「万理、お前は俺をヒールしろ!仁也はゴブリンの足を射抜け!」

「分かりました!」

「了解」


 洞窟の中に男二人と女の声が鳴り響く。

 赤髪の男、一民かずひとが指揮したかと思うと、後ろの二人が動き出す。

 青髪の男、仁也ひとやが弓を引き、矢を放つ。ゴブリンがその矢をこん棒で叩き落とそうとするが、幾度となく軌道を変える矢をとらえきれずゴブリンは足を貫かれる。

 白髪の女、万理まりが骨折した赤髪の右手をヒールを使い回復する。


 僕は後ろで皆が戦う様を見ているだけ。


「はぁあああ!」


 一民が回復した右手で刀を握り直し、ゴブリンの首にむかって振るう。

 ゴブリンはその刀を止めようとこん棒を刀にぶつけようとするが、間に合わずにそのまま首が飛んでいく。


「はぁ、はぁ。……今日はここまでにしておくか」


 周りに無機質に倒れている五十以上のゴブリンの死体を見渡しながら一民が言う。首が飛んでいるもの、体が矢だらけのもの、両足が切られてあるもの。様々な死体が転がっている。

 四人パーティのうちの三人がこの状態を作り出したのだ。


「今回の迷宮はゴブリンが多かったね。物体誘導もそろそろ限界だったし、下手したらやられてたかも」


 弓使いの仁也がその場で大の字に寝転んで言う。熾烈な戦いで純白を保っていたその服が、地面にしみ込んだ血液で赤く染まっていく。


「それにしても今回も皆さんすごかったですね!こんなにたくさんのゴブリンを倒すなんて、中々できないですよ?」


 ヒーラーの万理がぺたんと座り込み、周りの情景とは似合わない可愛げのある笑顔を振りまく。


「まぁこれくらいできないと、うちの部活としてのランキング上げられねぇからな。次の目標は三級の敵をどうにかして倒すのを目標にするか」

「うん、そうしようか。三級を倒せるようになれば多分僕たちの腕も上がると思うしね」

「急ぎ足で頑張っても危ないですから、もっと強くなってから挑みましょう。私たちならきっと勝てるようになります!」


 刀使いの一民が、ゴブリンの死体にどすんと座り込み、みんなと話始める。


「ま、確かに前線にも出れねぇし何も使えねぇ奴がいるから急いでもあぶねぇか」


 こちらを睨み付け、嫌みったらしい台詞を吐く。


「一民が前に出るなっていうオーダー出してるから出ないんじゃないの?」

「確かにそうだ。ま、どうせ活躍できねぇんだから出さねぇよ」


 因みに僕は会話に混じることが出来ない。ゴブリンと戦うこともせず、だからといって回復役に回るわけでもなく、パーティの活躍をじっと後ろで見ていただけだから。


 そんなだから会話の輪の中に入りずらく、ポツンと誰とも話さずに立っている。


 だからこそ気づいた。


 背後の方向からモンスターの気配。ゴブリンが五級だから、この雰囲気からして敵は三級だろうか。

 一人で勝てるかという不安はあるのだが、このまま放っておけばこの疲弊したパーティは壊滅するのが目に見える。


 僕が行くしかない……が、戦うなと言う言葉の縛りがあるので、いつも通り用事があるということにして抜けよう。


「……ごめん、ちょっと用事が」

「はぁ?お前用事多すぎるんだよ。活躍もできねぇんだから、予定くらいちゃんと立てろ」


 一民がこちらを睨み付けながら、悪態をつく。


「ちょっと言い方きついけど、一民の言う通り。戦いが終わった後、決まって用事があるって言ってフラっとどこかに行っちゃうと心配になるから」


 仁也が落ち着いた声で優しく注意する。しっかりとフォローを入れる気遣いが心に染みる。


「分かった、今度から気を付ける」

「……ッチ。仁也、甘すぎるぞ」

「まぁまぁ、一民もその起こりやすい性格直した方がいいぞ?」


 暴言と注意を受けながらその場を一旦去る。さて、気配の根源はあの穴の奥かな。少し警戒しながら深くまで潜っていくと、途中で開けた場所へと出る。


 周りを確認するためにその決闘場のような場所の真ん中まで歩みを進める。中央に着いた瞬間ふわりとそよ風が左手を薙ぎ、それと同時に左手の皮一枚が切れる。


 何が起こった?……誘い込まれたのか?


 突然の攻撃に不意を突かれ一瞬たじろぐが、思考を冷静に持ち直しどんな敵かを考える。

 三級で風と共に斬撃を加える攻撃方法、そして純白の体毛に空色の尻尾、ウィンディフォックスだ。


 思考がまとまり始めたのと同時に右足を不穏な強風が薙ぎ、太ももがさっきよりも深く切れ、血がどくどくと流れ出る。そんな危機的状況の中、棒立ちの僕にはなんの対処もできない。


 よくよく考えれば僕が三級を相手にできるわけが無いのだ。


 まぁ、仕方がない。それならそれでいい。


 何もしない無抵抗の僕をみて、最後の攻撃と言わんばかりの台風と負けず劣らずの風が首を薙ぐ。そのタイミングを狙い、右手に持った短刀で自分の首の前に通った何かを切り落とす。


 わざと隙を見せて、攻撃のルートを予測する作戦が成功した。

 もし失敗していたらと思うと怖くなり、冷や汗をかいてしまう。


 空中へ浮いていた死体が地面へと落ちる。一応地面に倒れたモンスターを改めて確認する。予測は外れておらず、やはりウィンディフォックスだったようだ。


 流石三級のモンスター。何発か攻撃を食らってしまったし、運が悪かったらやられていた。

 まぁ僕が運で負けることはないのだけれど。


「ふぅ……さて、この傷どうやって誤魔化そうか。用事で場を離れてたやつが切り傷を作って帰ってきたらおかしいもんな」

「大丈夫ですか……え!?優さんどうしたんですかその傷!」

「あ」


 僕の後ろを万理が着いて来ていたようだ。前方に注意を向けていたので全く気付かなかった。

 しかしこれはまずい。これが知られたら明日からの仕事量が増え、早く帰れなくなってしまう。

 そんなことになったら妹と姉に何を言われるかわからない。


 ここは誤魔化さなければ。


「えーと、転んでさ。ほら、ここ尖った岩多いだろ?そこで切れちゃった」

「え?じゃあそこにいるウィンディフォックスは何なんですか?」

「偶然行ったところに死体があっただけだよ。別に僕は何にもしてない」

「じゃあ何で右手の短刀が血に濡れてるんですか?」


 うーん、言い逃れできそうにない。向けられた視線が後ろめたくなり、少し俯く。


「ねぇ優さん、ウィンディフォックスは三級のモンスターです。それはわかりますか?」

「はい」


 万理が勘ぐるような怖い顔をしながら少しづつ近づいてくる。特に悪いことはしていないはずなのに、なぜ説教をされているような感じになっているのだろう。


「そしてそれを倒せる人は中々居ません。ランキングが一桁台の人たちしかできません」

「いや、まぐれなんですよ。動きを見て、そこの道に刃物を用意しておいただけであって」

「普通動きが見えないんですよ。それこそランキング一桁台のパーティの人しかできません。なんで強いのを隠してたんですか?」

「いや、隠してたわけではないんですよ?一民から『お前は前に出て戦うな』って言われてたから行儀よくそれを遵守してただけなんです」

「……そうなんですね、それなら仕方がないです。てっきりわざと強いのを隠してる意地悪な人かと思って。早とちりしてごめんね?」


 万理が優しくて理解のある人間で良かった。もしかしたらこのまま説教が続くかもとか考えていた。


「いや、主張の弱い僕が悪いかったから大丈夫」

「じゃあ優さんは前線で戦えるってちゃんと一民くんに伝えておくね?」


 あ、やばい。


「いや、それはやめてください」

「え、どうして?」

「ちょっと家庭の事情があるんだよ。前で戦うようになるとそれに引っかかっちゃって……」


 迷宮攻略後はすぐに家へ帰り家事をこなさなければいけないという家庭の事情があるので、できるだけ目立たず静かに過ごしたい。


「うーん……家庭の事情か。それなら仕方がないか。まぁ戦えるようになったら教えてよ、その時は私が言っておくからさ!」

「分かりました、ありがとうございます」


 どこまでも優しいその精神を家庭の事情という突っ込みづらい言葉で踏みにじったような気がして、少し心が痛む。

 結局その後万理に傷を治してもらってみんなの所に何事もなく合流することができた。最終的に誰一人欠けることなく脱出することもできた。

 しかし、脱出後に一民が話しかけてくる。


「おい優、帰ったら暫く残ってくれ。ちょっと話したいことがある」

「え、説教?」

「とりあえず残れ」


 ……不穏な空気。

ブックマーク、評価貰ったら喜びの舞します。

なのでよろしくお願いします。

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