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星谷くん?(姫野梅)

『糸多良高校1年生』今日からこれが私の肩書になる。

入学式も終わり、これからお世話になる4組の教室に向かう。

ホームルームが行われるらしい。

自己紹介やだなぁ。

中学校の自己紹介では緊張で倒れてしまい、見事なまでの黒歴史か出来上がった。

今回はそうならなければいいけど。


皆が列を為して教室に入っていく。

どこに座ればいいのかキョロキョロしていると、黒板に座るべき場所が書かれていた。

指定された席に向かうと、後ろには既に人が座っていた。

頬杖をついて前を見るその瞳はどこか虚ろで少し怖かった。

その視線の先、目の前の席に座るのは気が引けたが、私は意を決してお邪魔した。


――カタッ


ふぅ、なんとか座れた。

後ろの人今も前見てるのかなぁ。

背中にホコリとか付いてないよね?

変じゃないかな?

そう思うと恥ずかしくて体が熱くなってきた。

暑いなぁー、汗かいてきちゃった……はぁ、なんで私ってこうなんだろう。

汗臭くないかなぁ。

……そういえば後ろの人名前なんて言うんだろう。

黒板を見てみると、姫野と書かれた後ろの席に星谷と書いてあった。

星谷くん、なんか珍しい名字だなぁー。


――ガラガラガラ


恰幅のいい穏やか表情のおじさんが入ってきた。

この人が担任の先生かな。

そうだったらいいな。

優しそうだし、マスコットみたいで可愛いし、ふふっ。


「うん、皆さんちゃんと席に座ってますね。今年は優秀な生徒が多いようです」


おじさんは手に持っていた荷物を床に置くと、後ろに手を組んで正面に向き直った。


「はじめまして、担任の楢葉巌(ならはいわお)です。理科の先生をやってます。皆さんよろしくお願いしますね」


――よろしくお願いします


一人が発した声を皮切りに皆が挨拶をする。

私も小さい声で「よろしくお願いします」と言った。


「うん、では皆さん席順に自己紹介をお願いしますね」


そんな訳で次々と順調に進んでいく自己紹介、私は緊張で一人も名前を覚えられていない。

うぅ、どんどん順番が近づいてくる……。

趣味とか特技とかどうしよう……私そんなのないのに。

心臓がバクバクする。

体が凄く熱くて大量に汗が出てくる。

もう、汗止まってよ……。

どうしよう。


「では次、お願いしますね」


楢葉先生がこっちを見ている。

いつの間にか私の順番が来ていたようだ。


「は、はい」


返事をして立ち上がると、皆の視線が一瞬にして私に集まる。

ドキッ

心臓が痛い。

顔や首に汗が滴る。

恥ずかしい。

でも頑張って自己紹介しなくちゃ。


「は、はじめまして。ひめよ……姫野梅です。趣味は……えっと、あの、趣味は……ないです。特技は……あ……特技は……」


――クスクス

――どうしたんだろ

――すごい汗、クスクス


嫌だ。

もう消えたいよ。

私なんでここに居るんだろ。

あれ?ここどこだっけ。


視界がボヤケてくる。

頭がクラクラして夢を見ているようだった。

あぁ……。


――バタン!




「――ん」


目を開けると辺りは白い物ばかりで、どこか知らない世界に来てしまったのかと一瞬思ったが、おそらく保健室だろう。

このベッドの感触、よくお世話になっていたので分かる。

そっか、自己紹介の途中で倒れちゃったんだ。

また黒歴史が一つ増えちゃったなぁ。

はぁ、教室に戻るのが怖い。



「おはよう」


横の方から聞こえた声はとても柔らかく、驚く隙さえ僅かにも与えられなかった。

声の在り処を探るように横を確認してみると、男の人が椅子に座っていた。

どこかで見たような顔だけど……ほ、星谷くん?


「あ……おはよう」

「体痛くない?大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

「そっか、よかったよかった。いきなり倒れちゃったからさ、俺も咄嗟に反応したんだけど間に合わなくて……ごめんね」

「え?あの、えっと」


なんで星谷くんが謝ってるの!?

よく分かんないよ、この人……。

謝るべきは私なのに。


「あ、そういえば」

「ど、どうしたの?」

「俺の名前、星谷駆流だから。よろしく」

「あ、うん、よろしく星谷くん」

「カケルでいいよ、俺も梅ちゃんって呼ぶから」

「え!だめだめだめだよっそんなのっ」

「ハハハ!そっか、まぁいいや、そろそろ戻る?」

「う、うん。あれ?そういえばここにはどのくらい居たの?」

「5分くらいかなぁ。俺もなんか戻りづらくなっちゃって、ははは」

「そうなんだ」

「うん」

「……ってことは星谷くんが運んでくれたの?」

「うん」

「ありがとう」

「どういたしまして」


なんだろう。

星谷くんって、変な感じ。


「じゃ、戻ろっか」

「うん」


星谷くんと一緒なら教室が怖くない気がする。

どうして?

勇気が湧いてくる。



――ガラガラガラ


「うん?あぁ姫野さん、大丈夫だったかな?」

「はい、お騒がせしました」

「うん、じゃあ席に座ってくださいね。星谷くんもありがとうね」

「はい」


私と星谷くんはそれぞれ席に座った。


「じゃあ自己紹介を再開しますね。では姫野さんからお願いします」

「はい」


なんでだろう。

後ろに星谷くんが居るって分かると自己紹介が怖くない。

最初はむしろ緊張してたのに。

心が軽い。


「先程はすみませんでした。私は姫野梅といいます。趣味はありませんが、特技は水泳で、クロールなら永遠に泳げます。よろしくお願いします」


――パチパチパチパチ

――水泳が得意なんだー

――すごーい

――姫野さんよろしくー


ちゃんと自己紹介できた!

星谷くんが居てくれれば私何でも出来る気がする!

本当に星谷くんって不思議だよ。


「では次、お願いしますね」

「はい」


あ、星谷くんだ!


「星谷駆流、高校一年生です。あ、皆1年か」


――ハハハハハ!

――おいおいカケルー大丈夫かー!ブフォ!

――マジウケるー


「ははは、それでー、趣味はゲームと読書で、特技はキャベツの千切りです。よろしくお願いしまーす」


――ハハハハハ!キャベツの千切りって!

――マジうけるんですけどー!

――星谷くんよろしくー!

――よろしくなーカケルー!


星谷くん、結構人気あるんだ。

そうだよね。

優しくて、笑顔が可愛いし、包容力あるし、私だけが星谷くんに優しくされる訳じゃないよね。


「では次の人、お願いしますね――」



その後ホームルームが終わり、先生から明日の予定について説明を受けると、それぞれ解散した。

解散とはいえ殆どの人が教室に残り、新しい友達と話に花を咲かせていた。

私は星谷くんと仲良くなりたかったので、声を掛けることにした。


「星谷く――」

「もうカケルー!嘘ついたでしょー!」

「え?なんのこと?」

「キャベツの千切り!カケル料理下手じゃん!」

「いやいや、キャベツの千切りと料理は別だから!」

「ふーん、じゃあ今度見せてもらうからね!」

「惚れるなよー?」

「ないない!100パーないから!」


私の声は届いてないみたい。

この子は……米田美月さんだよね。

仲良いんだ。

私より少し小さくて、ショートカットで可愛らしくて、星谷くんってこういう感じの子が好きなのかな。


この様子だとしばらく話してるだろうし、私は帰ろう。


今まで何度も倒れたり吐いちゃったりしたけど、皆面倒くさがって私と距離を取ってた。

でも星谷くんは私の事を運んで、隣に座ってくれてた。

私の事を見放さないでくれた。

私は星谷くんの事を特別に想ってる。

でも……星谷くんは私の事なんてどうも想ってない。

星谷くんにとってはただの人助けなんだ。

私なんて……


「あ、梅ちゃん帰るの?また明日ね」


教室を出ようとした時、星谷くんの声がした。

突然の事に私は嬉しくて、心の中ではピョンピョン跳ねていた。


「うん!……また明日!」


さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようで一瞬にして晴れ晴れとした気分になっていた。

今日はいい日だー!ふふん♪

明日からはいっぱい星谷くんとお話しよう!




――半年後


私はあの入学式の日以来、ほとんど星谷くんと話をしていない。

たまに話をして、たまに挨拶をするくらいだ。

星谷くんの周りには常に誰かがいる。

主に米田さんと長峰くんだけど。

それに誰も居ない時に話し掛けても、すぐに誰かが来て話についていけなくなっちゃう。

星谷くんからすれば私なんてどうでもいいんだよね。

居ても居なくても変わらない。


 違う……そうじゃない。


私をもっと見てもらいたい!星谷くんに!

待ってても星谷くんは動かない。

星を見たいなら、家を出ないと!



――4ヶ月後


うぅ、全然話せない。

どうしよう……もう一年も終わっちゃうし。

……あ、そうだ!誕生日にプレゼントを渡そう!

その勢いで一緒に帰るんだ!

一緒に帰ればきっと仲良くなれるはず!

うん、そうしよう。



――4月19日 自宅 夜


「おばあちゃん、明日友達と一緒に帰ってもいい?」

「そうねぇ……おばあちゃんはいいと思うんだけど、お母さんがねぇ」

「そっか……でもお母さん来ないでしょ?内緒で!お願いおばあちゃん!」

「うーん、わかった。内緒にしておくわね」

「ありがとうおばあちゃん!」


おばあちゃんに抱きつく梅。


「それにしても梅ちゃんがお友達と帰りたいだなんて珍しいわね。どんなお友達なの?」

「えっとね、不思議な人でね?一緒に居るとつい笑顔になっちゃうし、勇気が湧いてくるんだ!でも一人でその人の事を考えると苦しくて、泣いちゃう時もある。そのくらい特別な人なの」

「あら梅ちゃん、恋してるのね?」

「恋?」

「あら?恋をしてるようにしか聞こえないけど、違うのかしら?」

「うーん、わからない」

「ずっとその子の側にいたい?」

「うん、ずっと側にいたい!」

「そうかいそうかい、ふふっ」

「どうしたの?」

「それが恋、それが人を好きになるって事だよ」

「え!私って恋してるの!」

「そうよ?」

「ぽけー」

「あら?梅ちゃん?梅ちゃーん?」

「私……寝るね……」

「ふふっおやすみなさい」

「おやすみなさい……」



――ボフッ


ベッドに潜り、うずくまる梅。


「んんんんんんん!!!」


まさか私が恋をしてただなんて。

星谷くんは私の友達で、恩人で、不思議な人で……。


「んんんんんんん!!!」


これが恋なんだ……私には無関係だと思ってたのに。

はぁ、急に緊張してきた。

プレゼント渡して、一緒に帰る。

星谷くんなら絶対断らない!

大丈夫、大丈夫よ。



――4月20日 放課後


ついに来ちゃった!放課後!

どうしよう……やっぱり次の機会にしようかな……。

だめ!きちんとやり遂げなきゃ!

ふぅ、このシャーペン……気に入ってくれるといいな。

高いものじゃないけど心を込めて選んだんだから!

渡さないときっと後悔する。



「ほ、星谷くん、ちょっといいかな」

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