ユウリの涙
俺はアイカを寝かしつけると、一人で街に出かけていた。
「レスカは本当にもういないんだな...」
さっきは彼女の前にいたので涙を見せなかったが、レスカが本当にいないと分かると、涙腺が緩んで仕方ない。
「レスカ...」
もう振りきったはずなのに、まだ心のどこかで彼女の面影を追っている。
もうこの世にいない人間に思いをはせるなど、自分でも滑稽に思える。
それだけ自分の中でレスカの存在が大きいことを痛感した。
「眠れないの?」
不意に声をかけられたので振り返ってみると、マオが心配そうに佇んでいた。
俺は涙を拭いてから振り返る。
「い...いつからそこにいるんだよ!、全く...子供はもう寝る時間だぞ!」
明るく振る舞う俺だったが、彼女は不安そうな表情を崩さない。
「ユウリ...、大丈夫?」
「子供に心配されるほど、俺は落ちぶれてねーよ」
俺はいつものような会話に戻そうとするが、彼女が許してくれない。
「さっきのアイカとの話、こっそり聞いてたんだ」
その言葉に空気が凍りつき、俺は言葉を失った。
俺は諦めたような顔で彼女を見つめる。
「そうか...、お前も聞いていたのか...、そうだ、もうこの世にレスカはいない」
俺は乾いた声でせせら笑う。
「あーあ、馬鹿みたいだよな、彼女と結婚するためにお前と一緒に冒険してきて、結局このざまだよ、笑いたければ笑え...」
俺は彼女に笑われれば少しは心が晴れると思った。
もういない者にすがりつく滑稽な勇者の姿を罵ってくれと、本気で思う。
だが、彼女の出した答えは笑うことではなかった。
「余は笑わないよ、レスカもユウリも好きだもん...、だからさ、レスカのことは本当に残念だけど、余たちはそれを受け止めて進まなくてはいけないと思うんだ、復讐という訳じゃないけど、余もレスカを殺した奴はには一泡吹かせてやりたいんだ...」
「マオ...お前...、そこまでレスカのことを...」
俺はマオの言葉に勇気を貰った。
勇者が魔王の言葉に勇気を貰うなど、本来あってはならないことだが、俺はこれでいいと思う。
彼女の言葉に、一筋の涙を流した俺は、明日からはいつもの調子を取り戻せるような気がした。




