表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/172

ユウリの涙

 俺はアイカを寝かしつけると、一人で街に出かけていた。


「レスカは本当にもういないんだな...」


 さっきは彼女の前にいたので涙を見せなかったが、レスカが本当にいないと分かると、涙腺が緩んで仕方ない。


「レスカ...」


 もう振りきったはずなのに、まだ心のどこかで彼女の面影を追っている。

 もうこの世にいない人間に思いをはせるなど、自分でも滑稽に思える。

 それだけ自分の中でレスカの存在が大きいことを痛感した。


「眠れないの?」


 不意に声をかけられたので振り返ってみると、マオが心配そうに佇んでいた。

 俺は涙を拭いてから振り返る。


「い...いつからそこにいるんだよ!、全く...子供はもう寝る時間だぞ!」


 明るく振る舞う俺だったが、彼女は不安そうな表情を崩さない。


「ユウリ...、大丈夫?」


「子供に心配されるほど、俺は落ちぶれてねーよ」


 俺はいつものような会話に戻そうとするが、彼女が許してくれない。


「さっきのアイカとの話、こっそり聞いてたんだ」


 その言葉に空気が凍りつき、俺は言葉を失った。

 俺は諦めたような顔で彼女を見つめる。


「そうか...、お前も聞いていたのか...、そうだ、もうこの世にレスカはいない」


 俺は乾いた声でせせら笑う。


「あーあ、馬鹿みたいだよな、彼女と結婚するためにお前と一緒に冒険してきて、結局このざまだよ、笑いたければ笑え...」


 俺は彼女に笑われれば少しは心が晴れると思った。

 もういない者にすがりつく滑稽な勇者の姿を罵ってくれと、本気で思う。

 だが、彼女の出した答えは笑うことではなかった。


「余は笑わないよ、レスカもユウリも好きだもん...、だからさ、レスカのことは本当に残念だけど、余たちはそれを受け止めて進まなくてはいけないと思うんだ、復讐という訳じゃないけど、余もレスカを殺した奴はには一泡吹かせてやりたいんだ...」


「マオ...お前...、そこまでレスカのことを...」


 俺はマオの言葉に勇気を貰った。

 勇者が魔王の言葉に勇気を貰うなど、本来あってはならないことだが、俺はこれでいいと思う。

 彼女の言葉に、一筋の涙を流した俺は、明日からはいつもの調子を取り戻せるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ