あの子との約束
「ユウリ、話ってなんですか?」
俺は宿のバルコニーに席を取り、レスカを呼び出した。
「まあなんだ、コレまでのことを、ちょっと話したくなってな」
俺はバルコニーにある椅子に座る。
レスカも対面するように座り、お互いの顔がよく見える位置取りをする。
「今までありがとうな、お前がいてくれたから、俺は魔王を倒すことができたし、ここにいることができる、本当にありがとう」
急に真面目なことを言い出す俺に、彼女は戸惑っているようだった。
「本当ですよ、ユウリはいつも一人で突っ走って行くので、いつも心配になります、でも、それはユウリが心優しい青年ゆえの行動だということは私が一番よく知っています」
レスカの言いそうな言葉を選んでいるのが丸わかりだ、本物の彼女でもきっとそういうだろう。
俺は話題を不自然ではないように切り替える。
「ところでアイカ、今日のパフェ美味かったか?」
急に彼女の口調が冷たくなり、真剣な眼差しで感想を述べ始める。
「そうね、まずアイスの温度加減が絶妙だったわね、冷たすぎず熱すぎずの丁度良い温度、次にこの島にある果物を使っていたのは高ポイントね、旬の物を巧みに使った良い...」
自分が墓穴を掘ったことに気がついたことに気がついて口が止まったようだ...。
「気づいていたの?...」
俺は静かに口を開く。
「ああ...、やっぱり、レスカは...もういないんだな...」
俺は苦笑いでアイカの方を向く。
レスカと全く同じ見た目のアイカを見て、俺は少し残念そうな眼差しを向けながらも、表情は出来るだけ明るく振る舞う。
「まあ、ちょっとの間でもレスカと入れたような気がして嬉しかったし、アイカを責めるつもりはないから安心してくれ」
そう言って罪悪感を消して貰おうとするが、彼女は戸惑っているようだった。
「いつから気がついていたの?」
彼女の質問に俺は答える。
「勇者には見切りって言うスキルがあるんだ、相手のレベルや名前まで分かってしまう割と良いスキルなんだが、それでお前を見たときにな...」
俺は数秒ほど開けると再び話始めた。
「それを見たときに、急に虚しさがやってきたんだ、お前がなぜこんなことをしているのかに気がついてしまったからな...、アイカ...お前にはレスカの生きた記憶が、あの時に入り込んだんじゃないか?、だから俺に黙ってくっつこうとした...、違うか?」
完全に論破された彼女はその場の立ち尽くしたまま動かなかった。
不意に笑みを浮かべ、彼女は静かに笑っていた。
「...、そうね、私がやっていることはお姉ちゃんの幻影を追いかける私自身の自己満足、お姉ちゃんの記憶から、あなたと結婚したいと言うことを導き出した私は、どうにかしてこの物語の続きを描こうとした...、結局あなたにばれてしまったのだから意味はなかったみたいだけどね...」
彼女には彼女なりの信念があったことは理解できるが、こんな騙すような形で行動を起こしたことには不満がある。
「でも、なんで俺を騙すような感じでこんなことをしたんだ?、いくらレスカの思いを弔ってやりたいという意思はわかるが、俺に隠す必要は...」
そこまで言うと、彼女は話に割り込んできた。
「あなたには、お姉ちゃんはそのままの思い出でいて欲しかったから、私が入ったお姉ちゃんでは少しそれが崩れてしまう、あなたが幸せになり、お姉ちゃんも幸せになる、それが私の生まれた意味...」
そんな彼女の姿に、俺は自分の考えを伝える。
「なあ、アイカ、お前はお前なんだぜ、無理にレスカになろうと思わなくて良いんだ」
俺が優しく言葉をかけると、彼女は怒ったように俺を睨んでくる。
「なによ!、なんであなたはそんなに優しいの!?、私はあなたに嘘をついていた、あなたに罵声浴びせられてもおかしくはないと考えている!それなのに...なぜ...」
どれだけ彼女に言われても、俺は笑い続ける、そう、彼女を怒らないのには訳があるのだ。
「レスカと約束したからな、もしもレスカの身に何かあったら、その時は俺にお前を任せたとな...」
彼女はその言葉に涙を流す。
「お姉ちゃん...が?」
彼女はハッとしたように思い出したようだった。
「ああ、自分の命が危ないってときにですら妹の心配をしていたんだ、全くあいつらしいよな」
彼女の泣きじゃくる姿を優しく包み込み、耳元で囁いた。
「大丈夫、もうレスカはいないかもしれないけど、俺たちがいる、お前をもう一人にはしない、約束だ」
俺はアイカと約束する、それが俺とレスカとの約束を守ることにもなるのだから。
レスカを失った時、俺は生きる意味を見失った。
だけど、今は違う、彼女との約束を守ることが、俺の生きる意味となったのだ。
俺は何年先までも、目の前にいる彼女の妹を守っていくことを誓うのだった。




