表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/172

たまには...

「いてて...、全く...酷い目にあったのじゃ...」


 私は片付けの後、1人で魔王城内をウロウロしていた。

 特に要はないのだが、たまには1人でぶらぶらするのも悪くない。

 夜風に当たるためバルコニーに向かってみる。


「にしても...、この格好はひらひらしていかんな...」


 自分が来ているメイド服を嫌そうに見つめる。

 可愛い女の子が来ているのを鑑賞するのは好きなのだが、自分が着るのは本当にごめんだ、動きづらいことこの上ない。

 私はため息を吐きながらバルコニーへ向かうと、桜色の髪を夜風になびかせる彼女がいた。

 少しからかってやろうと、後ろからそろそろと近づいてから大声をあげた。


「わぁ!!」


「ヒャッ!!」


 あまりにも可愛い声を上げてくれたので、満足する私。

 心臓をばくばくさせているのか、胸に手を置いて息を乱している彼女の様子を見て楽しむ。


「ク...、クロリア様ですか!?...、もう...びっくりさせないでくださいよ...」


「悪いのう...、でもそなたの悲鳴は可愛かったぞ...」


 私は親指を立てながら、いいねを押す現代人のような表情をしている。


「もう...、からかわないでくださいよ...、今日は静かな夜風が気持ちいいんですから...」


 静かにバルコニーの塀越しに、夜風を浴びている彼女に、私は目を奪われた。


「やはりお主...、可愛いのう...」


「はい?...」


 彼女の表情が少し変わったのに気づき、私は慌てて言葉を変える。


「少し喉が渇いたのう、何か飲み物はないか?」


「ああ、私が入れて来ますので少々お待ちください」


 彼女が一度席を外すと、私はハァッと息を吐いた。


「どうして妾はこうなるじゃろうな?、妾はただ可愛い娘とイチャイチャしたいだけなのじゃが...」


 自分の暴走癖を悔い改めようとしたことはあるのだが、一度も成功したことはなく、その度に欲望に負ける自分がいた。

 やはりこれは生理現象なのだと思い込むほどに、私の趣味は異常だったのだ。

 私が塀越しにため息を吐いていると。


「紅茶を入れて来ました、あったかいうちにどうぞ...」


 いつのまにか用意された椅子とテーブルに目を疑う私だったが、この子もメイドの端くれ...、この程度のことはみっちりと仕込まれているのだろう。

 私はすでに用意されていたティーカップに、手を伸ばして紅茶の香りを楽しむ。


「お口に合うと良いのですが...」


 心配そうに私の方を見てくる彼女に、私の胸はきゅんきゅんしてしまう。


(その表情...100点満点!!)


 などと心の中で叫びながら、紅茶に口をつけた。

 一口飲むと、程よい甘さと暖かさが口の中に広がった。

 私はそこまでお茶に詳しくはないが、美味しいか不味いかの判断はつく。

 この紅茶は美味しい。


「...、美味しいな...、妾はこの紅茶、好きだな...」


 その言葉を聞いた時の彼女の表情は、お日様のように光輝いていた。


「よかった...、初めて私の淹れたお茶を美味しいって言ってもらえて嬉しいです...」


 予想以上の喜び度合いに、私の心境は最高潮になる。


(このままいけば、チューくらいできてしまうのでは!?)


 そんな根も葉もないことを考えていると、彼女が私の空いている手を握って来たので、心臓音が高鳴る。


「ありがとうございます、クロリア様...」


 あまりにも濃厚な時間だったので、私の頭の中はヒートアップしていく。

 そこからの記憶が、私には残っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ