先輩
私はいつものように掃除をしていると、見慣れない人が城に入城してきたのを感じて迎え撃つ。
「誰ですか!」
私は武器を構えながらその人影を睨む。
青い髪が影でなびいた時に気がついた。
「アウス先輩...」
「ふふ...、覚えていてくれて嬉しいわ」
パッパッと指を開いては閉めて挨拶している。
私はムゥッと頰を膨らます。
この人は昔から苦手だ、なんでも私より上手だし、完璧にこなしてしまうので、私の存在意義がないように感じてしまうからだ。
メイドとしても私より格が上で、私は常にこの人と比べられる。
もしかしたら、この人がいるから私はメイシス様に怒られるのかもしれない。
私はこの人と比べられたら、失敗作品なのだから...。
「こちらです...」
私はとある部屋に彼女を連れ込み、彼女の着せ替えを済ませる。
「あら、随分早く着せ替えできるようになったのね...」
「はい、ザーク様のお召し物を毎日着せ替えておりますので」
簡素な言い方で彼女に答えると、人差し指を顔の前で構えて振りながら質問してくる。
「ザークっていうのは、今の魔王様かしら?」
「はい、先代の魔王様が亡くなられたので、今はザーク様が魔王候補の一人であります」
「ふ〜ん...、まあ私では魔王になれないですし...、魔王に使えるメイド長として、そのザーク様には頑張ってもらわないと...、ところで...、メイシス様はどこかしら?」
メイド長用の少し豪華な服を、動き辛そうにひらひらさせているアウス。
その姿はどことなく子供っぽい。
私は心の中ではクスッと笑いながらも、表の表情には絶対に出さない。
「メイシス様は多忙ゆえに今は外出中です、先にザーク様にお会いになられてはどうでしょうか?」
私の提案に彼女はう〜ん?、と考えるような素振りを見せる。
「まあ、そうね、ここにずっと居てもあなたを茶化すくらいしかできなさそうだし、ザーク様とやらに一度お会いしてみるのも一興ね...」
まだザークに忠誠を誓っていないアウスは、どこか彼女を見下しているような口調で話し続ける。
私は眉間にシワを寄せながらも、口調だけは丁寧にする。
「アウス様、こちらです...」
「はいはい、こっちね...」
おちゃらけた表情で私の方を見ながら進む彼女に不信感を抱いた。
いつもならこの辺で、私にいたずらを仕掛けてくるのがこの人のやり口なのだが、今日はそれがない。
少しは私のことをメイドとして扱い始めたのかなと思い、感慨深くしていると。
「あ、そっちは魔王様の部屋ではないと思うのだけれど」
「えっ?」
いつのまにか別の方向に進んでいる自分がいることに、彼女に注意されるまで全く気がつかなかった。
私が赤面していると、頭をポンポンっと叩かれて、静かに耳元で囁かれた。
「成長したのは着せ替えの速さだけかしらね...」
クスクス笑われた時には、もう恥ずかしさが頂点に達してしまい、何も言えない自分がそこに立っていた。




