虚しさと...
アウスが去った後、吹雪が止んだ火の大陸に日差しがさした。
俺は死体となったレスカを見下ろしながら虚しさを感じていた。
「レスカ...」
俺は呟いた。
(もう、俺に生きる意味はない...)
この旅の目的がレスカとの結婚だったのはいうまでもない。
男に戻ることなど、あくまでレスカと結婚できるようにするための過程に過ぎない。
魔王退治も言うなればそのための過程。
目標を失えば、人間というものはあまりにも脆い。
彼女の前で跪き、許しを請うように呟く。
「守れなくてごめん...」
氷の白刃は崩れ去り、そこから血が流れ出る。
アウスへの怒りが滲み出るが、その怒りさえも虚しい...。
「お姉ちゃん...」
アイカがレスカの遺体に触って目を震わせ、涙を流している。
その時だった、レスカの手が一瞬だけ動いた気がした。
俺とアイカは目を見合わせる。
「早く回復呪文を!」
「わかってる!!」
(息を吹き返したのか!?)
ある程度の傷を癒すと、アイカが「充分」と言う。
アイカはレスカの体に手を当ててブツブツと呟く。
「我、龍の一族なり、我が体に一族の継承を...」
アイカの体とレスカの体が光って同化して行く。
「何が起きているんだ!?」
「お姉ちゃんと私を一つにする、そうすればお姉ちゃんは完全には死なないから」
まばゆい閃光の後、そこに立っていたのは見慣れた人物だった。
「レスカ...?」
「ユウリ...」
二人はお互いに手を取り合い涙ぐむが。
急に炎の尻尾のような物が生えて俺を吹き飛ばした。
レスカの口が開いて、彼女の意思とは無関係に声を出す。
「お姉ちゃんに気安く触れるな、私はいつでもお姉ちゃんを見ている」
いい雰囲気だったのを邪魔されたので俺は怒る。
「邪魔するなよ!!、えっと...」
さっきのドラゴンなのだろうが、俺は名前を知らない。
それに気がついたのか、レスカの口が勝手に開いて答える。
「アイカよ、あなたがユウリね、お姉ちゃんから聞いたから知っている」
なんだか、ドラゴンにしては大人しそうな声質だなと思う。
レスカが話している時と、アイカが話している時では声質が全然違うので分かりやすい。
「アイカ...ね、これからよろしくな!」
俺が手を出すと、「お姉ちゃん、ちょっと交代して」と言い、眩い閃光と共にアイカの姿になる。
俺が驚いていると、彼女は俺の手を握る。
「こちらこそよろしく...、ユウリ」
なんとも言えない現状に少し笑う俺だった。




