轟速!!フルスロットル!!
俺は鼻でフェロモンの匂いを嗅ぎ分ける。
自分の匂いなので、どこに行ったのかが大体わかる。
「まだ着かないのか!!」
マオに急かされた俺は「急いでいる!」と半ギレで返す。
レスカを攫われて冷静でいられるはずがないのは俺も同じだ。
「この上だな...」
「まさかこれを登るのか?、冗談だろ...」
そびえ立つ絶壁を見上げたマオの顔は真っ青になる。
「嫌ならここにいろ、俺一人でもレスカを助けに行く」
俺は崖のしっかりとしている部分を見極めて、ロッククライミングのようにゆっくりと上がって行く。
「無理だって!、他の方法を考えよう!」
マオが珍しく頭を使おうと提案してくるが、とてもそんな気分にはなれない。
「レスカがあんな凶悪そうなドラゴンに捕まったんだぞ!、早く行かないと...」
冷静さを欠いている俺は無理だろうと挑戦する。
ロッククライムの経験などほとんどないが、やりながらコツを掴んで行く。
マオも意を決したのか挑戦を始めた。
当然ながら先導者や、命綱などはないのでかなり危険な賭けだ。
だがこの絶壁の山の周囲を一周してみる時間もない。
この1分1秒が惜しいと考えた俺は、無謀にもこのような賭けに出るしかなかった。
頂上の見えない絶壁を一つ、また一つと登って行く。
息が切れて休みたいと思っても根性一つで続ける。
マオの様子をたまにみては回復の呪文を唱えてやる。
わざわざついてきてくれているのでこれくらいはする。
レベルを上げて、勇者のスキルを上げておいて良かった、回復呪文を覚えたのはでかい。
「ありがとう」
息絶え絶えなマオが礼を言ってくるが。
「そんなことを言っている暇があるなら少しでも手を動かせ、俺の魔法力がなくなれば回復してやれないからな...」
こんな時にでも自分ではなくマオの心配をしてしまうので、つくづく俺という男は、悪人に向いていないなと、心底思う。
出来るだけ回復魔法は温存しておきたいところではあるが、この急斜面を登っているだけでも体力を奪われる。
それにこの暑さだ、汗も拭けないのでダラダラと流れ落ちる汗がうざったるい。
「...暑いな...」
水分補給がしたいが、両手で握っていないと今にも滑り落ちそうなほどの斜面なのだ。
まさに崖だ。
(俺は大丈夫だが、マオはどうだ?)
少し下にいるマオの様子を伺う。
かなり疲労しているようで、さっきからふざけた言動もしなくなっている。
(くそっ、少しは考えた方が良かったか?、だが時間が惜しい現状に変わりはない、何か手はないか?)
頭に労力を割くのがもったいなく感じたが、このままではいつマオが力尽きてもおかしくないので仕方がない。
俺が策を練っていると。
「もう、じれったい!!」
急にマオが叫び声を上げて、斜面から手を離した。
「馬鹿っ!、手を離すな!」
俺が叫んだ時には遅かった、マオの体は崖から離れて地上に向かって行く。
かに思えたのだが。
マオは斜面を駆け上がるかのように走り出す。
素早いなんてものではない、まさに轟速と言えるほどのスピードで勢いよく俺を追い越す。
「おっと、行き過ぎた」
マオが引き返して俺の腕を掴みこう呟いた。
「魔王スキル習得、静かなる豪傑」
そう呟いたマオは、俺の体を軽々と持ち上げて、一人の力で急斜面を駆け抜けて行く。
一気に駆け上がって行くのだが、それでも頂上はなかなか見えてこない。
「かなり高い山だな、普通はこんなところまで登れないぞ」
「だからドラゴンがいる確率が高にんだろ、てかマオはいつこんな凄いスキルを手に入れたんだ?、このスピードは加速ごっこってほどのものじゃないだろ!」
マオは満面の笑みで、俺を見て笑う。
「そりゃわかんないよ、だって今習得したから、遊戯スキルの加速ごっこを3段階強化して、魔王スキル“轟速!!フルスロットル!!”に改変したから」
「改変って...、お前そんなことができるのか?」
「なんかノリで考えてたら、新しいスキルとして今習得可能になった、改変スキルって書いていたし、そのスキルと今ユウリを持ち上げる為に覚えたスキルで全部ポイント消費しちゃったけどいいよね」
「こんなに強力なスキルなら上等だ!、初めてお前に期待しているかもしれないな!」
「初めてって...、いくら余でも少々傷つくぞ!」
マオの言葉を受け流しながら、俺とマオは頂上を目指す。
この速度なら頂上にたどり着くのも時間の問題だろう。
その時、何か冷たいものが俺の頭に当たったような気がした。




