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温泉

「お姉ちゃん...、こっちに来て」


 アイカに手招きされたので、そちらに向かうと、洞窟の外に出た。

 夕焼けが眩しく、ここから昨日まで泊まっていた町が見える。

 だが、一番目に止まったのはこの泉のごとく広い水たまりだ。

 どうやらここには水が溢れ出しているみたいで、限界超えると崖下に落ちて滝を作っている。

 私はそっと崖下を見ると、足がすくむほどに高く、翼を持つ者でもなければここまで到達できないだろうことは明白だった。


「お姉ちゃん、この泉に触れて見て」


 アイカがそういうので、恐る恐る触れてみると、暖かかった。

 よく見ると、辺りに湯気のような熱気があふれていた。

 そう、この泉は天然の温泉だったのだ。


「昔みたいに一緒に入りましょう」


 アイカは私の手を取ってきたので、私はその手を受け入れた。

 服を脱いでお互いに裸で温泉に浸かる。

 気持ちいい...。

 程よい温度で、疲れが温泉に溶けていくみたいだった。

 ここから見える景色は絶景で下の世界を見渡せる。

 夕焼けに染まる町や山、それらを見ていると、今日の終わりを告げているように感じた。

 私が「ハフ〜」と息を吐くと、アイカが始めて柔らかい表情を見せた。

 私はそれに気がつくと少し顔を赤らめて、彼女に見えないように背を向けた。

 すると、急に背中に抱きついて来たので、私は変な声を上げた。


「もう!、アイカ...ちゃん...?」


 彼女の瞳から涙が溢れていることが、この時に分かった。

 なぜ彼女が泣いているのか見当もつかない私は、慌てて聞いてみる。


「なんで泣いてるんですか?、どこか痛めてるんですか?」


 私は彼女の体を見てみるが、どこか痛めているようには見えない。

 私が不思議にしていると、彼女は自分の胸に手を当てて私にこう呟いた。


「お姉ちゃんがここにいる、ただそれだけのことがアイカには嬉しくて...、弱い妹でごめんなさい...」


 急にしおらしくなり、私に甘えるように泣きじゃくっている。

 その様子は人間の幼児とそこまで変わらない。

 人間の子供を慰めるように、自分の胸の中で彼女を包むように抱きしめる。

 あの巣の中にあった無数の骨は、この子が一人で戦って生き抜いた証なのだと思った。

 たった一人で、私と別れてから何年も生きてきた彼女に精一杯の愛情を注ぐ。


「大丈夫、もう一人じゃないよ...、お姉ちゃんがいるから...」


「...うん...」


 彼女は静かに、確かに、私の存在を噛み締めていた...。

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