優しさ...
気付けるかな?
ザーク様が私の豪炎の中を歩いて、こっちに向かって来ている。
私の炎が彼女に見境なく襲いかかっているのを見て、急いで炎を止めようとするが、止め方が分からない。
私が手間取っている間にも炎は彼女を飲み込んでいく。
「止まれ!...止まって!...、お願いだから...、誰かこの炎を止めて!」
私の心からの叫びは誰にも届かない、ただ轟音の中へと消え去っていくだけだ。
こちらに一歩ずつ進んでくる彼女の姿がどんどん痛々しいものになる。
彼女の傷を負う姿が見ていられなくなってくる。
「ザーク様お願いします、それ以上近づかないでください!、ザーク様が傷つくことが耐えられません!」
悲痛な声で叫ぶが彼女は歩みを止めない。
おそらく聞こえていないのだろう。
腕が黒焦げになろうとも構わずこちらに突き進んでくる彼女の表情は、何かを見据えているようだった。
どんどん火傷が酷くなっていく彼女の姿に目を向けられなくなる。
自分の炎が彼女を傷つけている事実に目を背けてしまう。
その場に座り込み下を向き、「来ないで」と呟く。
「ここまで来たよ...」
彼女の声が聞こえた。
先程まで炎の轟音しか聞こえなかったのに、はっきりと彼女の声が聞こえた。
私はハッとして声の方を見る。
炎の壁を突き進んだ、彼女の笑顔が眩しいほどに私を突き刺していた。
「ザーク...様...」
私は思わずその名前を口にした。
あまりにも自然に口にしたので、彼女は笑っていた。
「ザークだよ、アオ」
炎の中でも平然と会話する彼女だったが、平気なはずがない。
なぜなら、彼女の腕は炎症を起こし、真っ赤に腫れていたのだ。
あの豪炎の中を身一つで歩いて来たのだ、絶命してもおかしくはない状況だ。
私は嬉しさの感情を押し殺して、彼女に問いただした。
「なぜ、ここまで来たのですか?、命を失ってもおかしくないこの炎の中を...」
彼女は不思議そうな顔で私を見てくる。
「だって、アオが泣いていたから、気になって来ちゃった」
「私が....?」
気がついていなかった、確かに私の両目から涙が溢れている。
それを彼女が人差し指で拭ってくれた。
「はい、これで大丈夫...」
その言葉をきいた瞬間、先程の炎は跡形もなく消え去ったと同時に、私の体は地面に倒れ伏した...。




