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怒りのメイド

「ザーク様が泣いています...、手を退けてください...」


 静かな声だが、怒りを感じる思い空気を出している。


「え〜、妾はそんなことを聞く義理はないんじゃがな」


 あえて挑発するように言葉を選ぶ。

 アオの実力が見たくなったのが理由だ。

 歯ぎしりをするような音がアオと共に近づいてくる。

 私がザークのほっぺたを人差し指でなぞった時に奴が動いた。

 割と素早い。

 私は魔剣を取り出して応戦する。


(こやつの動きはメイシスに似ておるな...、じゃが所詮は真似事、明らかに技量が足りとらんのう)


 素質は高そうではないが、そこそこの強さを発揮しているので、志は高いのだろう、動きを見ていればわかる。

 アオの動きは才能ある者の足運びではないからだ。


「威勢がいいのは口だけかのう?、ならばザークちゃんは妾の物じゃ...」


「我が主人を物扱いとは...、絶対に許しませんよ...!」


 暴言を吐くとアオの動きが少し良くなる。


「所詮は真似事、(ぬし)では妾には到底及ばんよ...、どうじゃ?、さっさと諦めて、妾の遊び相手になるというのは?」


 彼女を怒らせる為にそう言う。


「私の主人はザーク様だけです!、断じて貴方ではありません!」


 一瞬の煌めきに気をとられた瞬間に彼女は武器を出現させる。


「ほう、あの一瞬でこれだけの武器を生成するとは...」


 少しだけ期待する。

 アオが出現させた武器の種類は双剣、槍、斧、杖、鎌、盾の合計で7個の物質だった。

 槍を手に持って駆け出してくるが、どうやら一斉に武器を射出などはできないようで、彼女の周囲を回るように旋回している。


「残念じゃのう、結局一つしか武器を扱えんのでは、妾の相手は務まらんぞ?」


 彼女の攻撃を軽く避ける。

 他愛もない攻撃、直線的すぎてつまらないので、思わずため息をこぼした。


(この程度か...、少しでも期待した妾が馬鹿だったかのう...)


 さっさと決着をつけようと私は攻撃の構えに入る。

 流石にこちらの殺気に気がついたのか、盾の物体に装備を持ち変えている。


「流石に気がついたようじゃな...」


「ここまであからさまな殺気に、気がつかない方が難しいですね」


 だが攻撃を止める気はない。

 ここである程度の力量差を見せつけておいて、後で自分の遊び相手になって貰おうという訳だ。

 負かされた相手に情けをかけられた上で、一生私の遊び相手になれという要求をだす。

 これを断れば自分の命と引き換えに、忠義が守られるが、彼女には死んでもらう。

 もしも受け入れる方を選べば、一生可愛がってあげようと思う、もっとも...危険な刃は全部積み下ろしてもらうが...。

 どちらを選んでも苦しむであろう、彼女の表情が楽しみでしょうがない...。

 自分の命と主人の忠義との間で悶えるアオを想像し、興奮してしまう。

 つくづく自分が変態だと思ってしまうが、しょうがない、女の子の表情全てが愛おしいと感じるのだ...、もちろん苦悶の表情でさえも...。

 悟られないように殺気を全開に出す。

 もちろん全力で打つ訳ではない、振りだけだ。

 全力の7〜6割程度であれば半殺しに抑えれると思い、魔剣の力を解き放つ。

 魔剣から放たれる閃光がアオを襲った。

 砂埃が舞い散ると、彼女はそこに立っていた。

 彼女の展開した装備品は盾を除いて全て消失していたが、たしかに膝をついておらず、こちらを睨みつけている。

 私は「愉快愉快」と笑う。

 彼女の真剣な思考に水を指すようで悪くは思うが、彼女の実力はともかく主人を守るという気持ちの強さは伝わってきていた。

 私が笑っても彼女は笑わないが、もう戦う力も無いようで、足をガクガク震わせているのが見て取れる。

 それでも戦う姿勢を崩さないところを見ると胸が踊る。

 さらにそれを自分で積み取れるかと思うと、思わず不気味な笑みがこぼれてしまう。


(そうでなくては虐めがいがない...)


 戦う女の子は何者よりも美しい。

 それを壊すことが、どんな遊戯よりも愉悦を得られることを私は知っている。

 私が彼女に提案を出そうと足を踏み出すと、違和感に気がついた。


(この子....、髪の一部を染めてたかのう?)

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