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「こんなことになってると思いましたよ...」


 聞き覚えのある声に俺は顔を向けた。

 緑の髪をそよ風に揺らし、そいつは姿をあらわす。


「ナツキ!?、なぜこんなところに!?」


 俺は上ずった声でナツキに聞く。


「貴方がたがここに連れ込まれるのを追跡していました、さあ観念してください!、女性を狙った誘拐犯クロリアさん!」


 黒髪の誘拐犯はクロリアと言うらしい。

 剣を突きつけられたクロリアは、静かに笑うと呟いた。


「風の勇者ナツキさんじゃったかな?、あなたの悪名はこちらまで届いていますよ...、なんでも魔族の根城を潰して回っているとか...、それも今日までじゃ!」


 クロリアは先ほどと、うって変わるような雰囲気を演出している。

 ナツキも真剣な表情で奴を睨んでいる。


(なんなんだよこいつら...、これじゃあ、ナツキの方が主役みたいじゃないか!)


 この状況になった時に、一番最初に頭に浮かんだのが今の言葉だった。

 自分の立ち位置が、囚われたヒロインのイメージしかしない...。

 緊迫した空気の中、ユウリだけはつまらなそうな顔をしていた。

 戦いが始まる。

 クロリアはどこからともなく魔剣を出現させる。

 クロリアの魔剣は生きているかのように鼓動している。

 ナツキはそれを見て、気を引き締め直し迎え撃つ。

 攻防一体のいい勝負だ、両者の実力差に、天秤は傾かない。


「やりますね...」


「そっちこそ、妾と互角とは驚いたぞ...」


 ふふんと笑うクロリアは一度距離を取る。

 ナツキが余裕そうな表情で彼女を見ながら交渉するように語りだす。


「僕の仲間が今頃囚われた女性達を解放しているはずです、諦めて投降しなさい!」


 クロリアの表情が一瞬曇る。


「ふむ、少々部が悪いようじゃな...」


 彼女はそういうと、武器を収める。


「今回の戯れはこのくらいにしてくとしようかのう、ではレスカちゃん...、またどこかで...」


 レスカにウィンクをするとそのまま闇と共に消えた。


「気味の悪い瞬間移動呪文ですね...」


 ナツキがそう言い終わると、チャラい男にかかっていた催眠が解けたのか、俺を離してくれた。


「借りを作ってしまったな...」


「いえいえ、これも勇者の務めですから」


 俺はナツキの方を見て苦笑いしながら感謝していた。




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