船上
俺は梯子を登り船上へと上がる。
俺が甲板に立つと一斉に声援が上がる。
「やるじゃねぇか嬢ちゃん!」
先ほどの体格のいい男が叫んでいる。
「正直海に飛び込んだ時には生きていないと思ってたんですけどね、あなたの力を見くびっていました」
ナツキも反省したような表情でこちらを見てくる。
その後手を差し伸ばしてきて握手を求める。
「あなたのような勇敢な人に会えたことを光栄に思います」
俺は照れ臭そうに手を握りしめる。
「まあ、俺も勇者だからな...、当然のことだ」
「面白い冗談をつく人ですね...、でもあなたの働きは勇者と言えるでしょう」
ナツキは俺のことを勇者だとは思っていないようだったが、俺の働きぶりは認めてくれたらしい。
俺が鼻で笑っていると、社長の男が拍手をしながらどこからともなく現れる。
「いやはや、さすがですな!、私の目に狂いはなかった」
俺を不気味な笑みで見てくる男に身震いしたが、これ以降会うことはないだろうと思い込むことにした。
「これでいいんだよな?、火の大陸に渡るための障害は排除したつもりだが」
「お見事、その通りでございます、このまま火の大陸へ渡られますかな?」
男の言葉に俺は少し考えた。
レスカを冒険に連れ出してもいいものかと。
今更感はあるが、これから先の大陸では、これまでと比較にならないほどの強敵たちがいることは間違いない。
そのような危険な場所に、恋人を連れて行っていいものかと。
だが、あの時のレスカの表情を思い出すと、どうしても連れて行かずにはいられなかった。
「一度町へと引き返してくれ、もう一人仲間がいるんだ」
「わかりました、あなた様がこのタコを仕留めた様なものですからな、皆様も一度町へ戻ることに異論はありませんな」
男は両手を振りかざして皆の前に立つ。
不満そうな者もいたが、ユウリが攻撃のチャンスを作った功労者としては認めているようで、了承してくれた。
(レスカ...、待ってろよ...)
俺はなんとも言えない気分のまま、町へと引き返した。
「そう言えば、だいぶ霧が晴れてきたな」
先ほどまでの視界の悪さがある程度良好になっていた。