表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/172

大丈夫か?

 私は声を上げて目覚める。

 汗だくなった自分の体を見て何が起きたのか理解しようとしていると。

 車内の後ろからダインが顔覗かせた。


「大丈夫か?、嬢ちゃん...」

 ダインは心配そうに私を見ている。


(少し眠ってたのかな...)


 さっきと比べれば、だいぶ気分が落ち着いていた。

 私は無理に笑顔を作ってダインに向けるが、困惑したようにダインは頭を掻いている。


「あのな嬢ちゃん、辛い時は無理に笑顔作らなくていいんだぜ、泣きたい時は誰にでもあるし、俺にだってあった」


 急な自分語りをするダイン。

 私が立ち上がろうとすると足に痛みが走った。

 痛みのする部分を見ると、包帯が巻かれている。

 ダインの方を見ると親指を立てて、こっちを見てきたのでおそらくダインが手当てしてくれたのだろう。


「ありがとうございます...」


「いいってことよ、ユウリの仲間だしな」


 雰囲気が悪い、当たり前だ。

 自分が悲鳴をあげながら倒れたのは覚えている。

 あの時の自分の精神状態は異常だった。

 好きな人に置いていかれる絶望を味わったのは2度と味わいたくない感情だったのだ。

 分かっている、疲れた状態で戦闘に行くのが間違っていることなど誰にでもわかる。

 それでも、やっと会えたユウリと片時も離れたくもなかった。

 危険なところも二人一緒ならば乗り越えて行ける気がしたのだ。

 いや、ユウリは勇者だ、たとえ一人でも解決策を編み出して必ず解決していくだろう。

 私という存在は不要なのかもしれない。


「私は...、不要なのかもしれないですね...」


 ついこぼれてしまう本音をダインは聞き逃さない。


「嬢ちゃん、それはないと思うぞ」


 その発言を聞いた私は、つい喧嘩ごしでダインに噛み付くように言葉を投げつける。


「あなたにユウリの何がわかるんですか!、ユウリはたった一人で魔王を倒したんですよ!、...ああそうだった、私なんかがいなくても魔王を倒せるほど強い人なんですよ!、私なんかがいなくても...、ぜんっぜん平気なんですよ!」


 自分で自分が何を言っているのかわからなくなる。


「嬢ちゃん..、だからそれは違う」


 ダインの言葉に腹がたつ自分がいる。

 ユウリと長い時を過ごした私の方がユウリのことを知っているに決まっている。

 私が言葉を発しようとするとダインに先に発言された。


「嬢ちゃんは勘違いしている、あいつは嬢ちゃんのことを大事にしていたし、嬢ちゃんのことをずっと思っていたのも間違いない」


「どうしてそう言い切れるんですか!、あなたはユウリのことをろくに知りもしない癖に!」


 レスカの乱心っぷりにダインはため息を吐いた。

 数秒開けてダインは口を開く。


「昔な、俺は泥棒をやっていたんだ、その時だったなユウリにあったのは」


 唐突な昔話を切り出すダイン。


「俺は人から物を盗んで生活していたんだ、今はもう足を洗ったがな、俺が泥棒であいつが勇者、あいつは俺をあっさりと捕まえて警備兵につき出そうとしたが、俺の話を聞いてくれた」


 そこまで話すと少し間を空ける。


「当時は働いても大した金額は稼げなかったんで泥棒しても仕方なかったんだが、あいつは俺に稼ぐ方法を教えてくれた、それがこの竜車だ、人や物を乗せて危険地帯を運ぶだけで金がどんどん入った」


 いつのまにか話をおとなしく聞いていた私。


「ユウリは他にも俺に与えてくれた、まあ見返りもかなりしたけどな、今回格安でこの町まで走らせたのもその時の名残ってやつだな」


 苦笑いしながらも嫌な顔はしていない。


「まあだからよ、俺もユウリのことを何も知らないってわけじゃないぜ、一緒に旅をした時期もあるし、なんなら嬢ちゃんが知らない情報だって知ってる、一緒にいた時間全てが仲の良し悪しを決めるもんじゃない」


 一理あると思い込ませるだけの人生経験をダインは積んでいるようだ。


「そん時の経験から言うと、レスカの嬢ちゃん、あんたはユウリの思い人であり大切な人だ、だから今回も置いて行ったんじゃないか?、あいつは危険な仕事を一人でやる癖みたいなもんがあるからな、俺と組んでいた時もやばい仕事は一人でやっていたしな、だから今回もそれだと思うぞ」


 竜車を100ゴールドで借りたのはユウリだ。

 この話の信憑性は限りなく高い。

 私は唸りながらもダインの話を信用するしかなかった。

 ユウリの一人で抱え込む癖を知っているのがそれに拍車をかける。

 それでもそわそわする私を見たダインは、笑ってこう言ってくれた。


「そんなに心配なら聞きに行こうぜ、大丈夫、俺も後ろについて行ってやるからよ!」


 私が驚いていると、ダインは背中を押して私を竜車の外へと連れ出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ