悪魔流の特訓
「なんだその屁っ放り腰は!」
私はメイシスに弾き飛ばされました。
魔王城の訓練場で毎日のようにしごかれています。
武器の扱い方から、魔法の唱え方までを1から10まで教えてくれます。
普段は私を毛嫌いするメイシス様ですが、訓練の時だけは気合いが入った稽古をつけてくれました。
女の子である私に対しても、メイシス様は手加減してくれません。
むしろ全力で戦ってきます。
私はどんな武器を使ってもいいのですが、メイシス様は素手で相手をしてきます。
私相手だと、本気でやるまでもないと以前おっしゃっていましたし、私自身もメイシス様に勝てるとは思っていません。
「ザーク様のメイドなれば、強く美しくあれ!」
メイシス様が私に毎日言う言葉です。
ザーク様の近くにいるためにも、この訓練を辞めるわけにはいきません。
剣がダメだったので、今度は槍を構えます。
毎日違う武器を扱っているので、大抵の武器は使えるようになりました。
勝てるとは思っていませんが、実力を少しでも上げるために本気で戦います。
何度打ちのめされてたって負けたっていい、けれども立ち上がることをやめることだけは決してしないこと。
主人を守るものとして、戦って死ぬことは名誉あることなのですが、戦うことを放棄して逃げることだけは許されないのです。
私は槍を振りかざしてメイシスに特攻する。
槍のリーチの長さを生かして薙ぎ払うが、メイシスは拳一つで受け止める。
腕力の差がありすぎるのだ。
私は呪文による攻撃に変更する。
私が詠唱を始めた瞬間にメイシスが私の腹に拳をめり込ませる。
何が起きたのかすら分からずに、私は腹を抑えてうずくまる。
「立て!、軟弱者め!」
立てない私の右腕を踏みつけてグリグリと動かす。
私は悲鳴あげようと口を開けた瞬間に吐きそうになり、口を左手で押さえる。
しかし、今日食べたものは食道をつたり、口から排出された。
まだ原型を保っている食べ物と胃酸の匂いに気分が悪くなり再び嘔吐する。
情けない私の姿を見たメイシスは、呆れたように私を見下して足を退ける。
「立てないのか...、ならば今日はここまでだな、それは自分で掃除しろ」
メイシスは私の嘔吐物を指差してから訓練場から立ち去る。
数分うずくまった後、私は生まれたての子鹿のようによろよろと立ち上がり、自分で出したものを自分で掃除した。
自分の弱さに嫌気がさしますが、これは自分の実力がこの程度だということを受け入れるしかありません。
弱いことは決して悪いことではありませんが、私は強くなりたい、ザーク様の隣にいるのは強き者でなくてはならないのです。
(ザーク様、私はきっと強くなりますから...)
私は訓練場に一人残り、訓練できる残り時間を、素振りにあてることにしました。