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タコの魔物

 大型船に乗り込んだ俺たちは、海上を進んでいた。

 海上には霧がかかっていて視界が悪く、さらにジメジメした嫌な暑さが気持ち悪い環境だった。

 ユウリは汗をぬぐいながらマオの方を見た。


「なんだか暑い...」


 マオも気持ち悪そうに汗を拭いている。

 さっきまで晴天だったのが嘘のようだ。

 これもそのタコの魔物がこの近くにいる証拠なのだろうか?。

 ユウリがそんなことを考えていると、突然船首のほうから砲撃の音が聞こえて来た。


「何事ですか!」


 ナツキは決死の表情で叫ぶ。


「現れました!、化け物です!」


 船員達が慌てふためく中、冒険者達は落ち着いていた。

 皆そこそこに経験ある冒険者なのだろう。

 ユウリは見切りのスキルで他の冒険者のレベルを見ていたが、平均レベルは28ほどだ。

 少なくとも今のユウリよりかは遥かに強い。

 冒険者達は船首の方へと向かう。

 白い霧で少し見えづらいが、霧に影が映し出されている。

 足だろうか?、無数に伸びるその足から吸盤のようなものがいくつも見つかる。

 足の一つだけで港町の灯台くらいの大きさがある。

 俺たちの乗って入る船を絡め取ろうと船底に張り付いているのだろうか?。

 最初は船首だけにあった足はいつのまにか船を囲むように出現し、進路と退路を塞いでいる。


「お客様がお見えになられましたぜ!っと」


 先ほどの体格の良い男が斧を片手にタコ足を切り刻む。

 相手のデカさに臆することなく戦闘することができるのはさすが冒険者といったところだろうか。


「僕達も負けていられませんね」


 ナツキと老人も攻撃を開始する。

 腰の剣を引き抜いてナツキは老人を守るような位置に立つ。

 老人はなにやらブツブツと詠唱を始める。

 老人にタコ足が向かってくるのをナツキは鮮やかな剣さばきで守る。

 ナツキの剣撃は相手のタコ足に傷をつける。

 一定時間が経つと老人の詠唱が終わる。


「炎撃呪文、モエリャー!!」


 老人とは思えない迫力のある声で呪文を唱える。


「演劇呪文!?」


 マオがその言葉に目を輝かせる。

 老人の手のひらから無数の火球が飛び交い、タコ足に命中する。

 火球の一つ一つはそこまでの威力はないが、一点に集中放火された火球は見た目以上の威力を生んでいた。

 タコ足の一本を焦がすほどのエネルギーは確実にダメージを与えていた。

 周りから歓声が上がる中、その呪文を見たマオはしけた面をのぞかせる。


「なんだ...、ただの火球か...」


 残念そうに甲板をけるマオ。


「本物の遊戯スキルを見せてやる!」


 マオはタコ足に突っ込んで行く。


「馬鹿っ!、よせっ!」


 俺は止めようとしたが、コンマ1秒遅かった。

 俺の傍をすり抜けて全速力でダッシュして行く。


「くらえ!、タコタコ星人!」


 マオの目が光、そこから怪光線が放たれる。


「マオビィィィム!!」


 光輝く怪光線はタコ足に命中するが、派手な見た目とは裏腹に、そこまでのダメージはないようだ。

 見た目以上にシュールな技をみた俺は、戦闘中だというのに吹き出してしまった。


(幼女の目からビーム...ぷっ...ww)


 老人の火球と違い、焦げ跡一つつかないが、どこか満足げな表情でドヤ顔を晒している。


「派手な割に威力そんだけかよww」


 つい本音が漏れてしまう。

 ドヤ顔をしていたマオも攻撃したタコ足がピンピンしているのを見ると顔が真っ赤になる。


「ち...、違うぞユウリよ!、わざと弱く撃ったのだ!」


 必死にタコ足を指さして抗議してくるマオの醜態に俺は腹を抱えて笑う。


「笑うな!」


 いかん、笑うなというのが無理だ、あれだけのドヤ顔を見せた上で撃破に失敗しているのだから。

 そんな二人のやり取りを見たナツキが怒ったように叫ぶ。


「あなた方は何をやっているのですか!」


 ナツキが叫び終えると、マオの体を絡め取るようにタコ足が伸びてくる。


「捕まったー!!、ああーー!!」


 マオは叫びながらタコ足とともに海の中へと引きずりこまれた。


「マオ!」


 はっと我に帰った俺はマオが海に引きずり込まれるのを目にした。


(あいつが死んだら、俺はずっと女のまま....)


 なんとも言えない絶望感に飲まれた俺は、マオを捕らえているタコ足の後を追い海に飛び込もうとする。


「待ってください!」


 ナツキに声をかけられて一瞬そっちを向く。


「残念ですが...、もうあの子は助からないでしょう...、自分から魔物のテリトリーに飛び込むという無茶は許可できません!」


 ナツキの言うことは一理ある、だが俺はふっと笑い勇者らしく振舞う。


「仲間助けるのに無茶しないんだったら、いつ無茶するんだ?、お前も勇者なんだったら無茶しないといけない場面くらいわかるだろ」


 ナツキはハッとしたように俺を見てくる。


(今の俺多分カッケェよな...)


 ナツキを言い負かした俺は、マオを追って海に飛び込んだ。

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