逃走②
息を乱しながら俺たちは階段を駆け下がる。
もしも衛兵に追いつかれたら一貫の終わりなので、素早く動く。
「勇者よ!、余の城から脱出した際に使った瞬間移動呪文を使う時だ!」
魔王は勇者に提案するが、勇者はニヤッと笑いながら事情を話す。
「へへっ、俺もそう思ったんだが、どうやら城内には対策されているみたいなんだよ」
「そんなに王様はユウリを逃がしたくなかったのですか?」
「そうだとしたら勇者は人気者だな!」
魔王の言葉に違和感を覚えるが、人気者ってのはあながち間違いでもないのかもしれない。
ただ、厄介なことに巻き込まれるので人気者と言うよりは単に勇者という肩書きが引き起こす現象なのかもしれないが。
とはいえ、正直あんな王様の娘を嫁にもらうなんてお断りだ。
娘が相当いい人だったとしても、俺にはレスカという心に決めた人がいるのだから。
ある程度階段を下ると、下に衛兵達が待ち構えているのが見えるようになってきた。
「勇者よ!、衛兵達が待ち構えているぞ!」
「言わなくても分かるわ!、くそっ、結局この王都内にいる限りは王の掌の中って感じか?」
そんな二人を見ていたレスカがある提案をする。
「ユウリ、私の呪文で身を変化させればいいと思います」
「レスカってそんな呪文覚えてたっけ!?」
「正しくは真似写しの呪文、模写する対象がいれば、そのまま生写しのように姿形を一定時間変化させることができます」
レスカは一呼吸のうちに呪文を唱える。
「変化の呪文、マネイシーヤ!」
レスカが唱え終わると3人の姿はモブ衛兵そのままの姿となった。
「すっごい、どうなってんだ!?、あれ?声も変わってる...」
魔王は驚いたように口を開く。
「ふふふ、衛兵の一人に全員を変化させただけですよ、効力は10分程なので早く突破しましょう」
堂々と階段を降りていく。
そして衛兵たちに声をかける。
「勇者達がもうすぐここにやってくる、こっちから出迎えれば挟み撃ちの形にできるぞ!」
ユウリが声を張り上げてそういうと、衛兵達は次々に階段を駆け上がっていく。
(ちょろすぎるな...)
呆れた表情で駆け上がっていく衛兵達を見上げる。
「早く行きましょう...」
レスカがユウリの肩を叩き、細々と呟く。
出来るだけ自然な流れで衛兵達と距離を置いていくが。
魔王の鼻のあたりに虫が飛び交い、ムズムズしてきたのでつい。
「ハクション!」
魔王がくしゃみをして変化の呪文が解けてしまった。
衛兵達は声に気づいて一斉に振り返り、こっちに向かってくる。
「馬鹿野郎!、大事なところで変化を解くんじゃねーよ!」
勇者は魔王に大声で怒るが、今はそんな場合ではない。
魔王はえへへと頭を掻いているが、この状況なので無視をする。
なんとか城の外へは出れたが、ここからは王都内に入る。
城とは違うので逃げ場や隠れる場所が豊富だ。
ここまでくれば勇者達の方が身軽に動けるだろう。
こっちは民衆に紛れて逃げ切ればいいのだから。
瞬間移動呪文を試して見たが、まだ使えなかったので王都内では使えないように結界のようなものが貼られているのだろう。
昔魔界の塔の結界を壊したことがあるのでなんとなく壊し方は分かる。
だが、それよりも王都内から脱出する方が簡単だと勇者は考えた。
後ろから足音が迫ってくる。
「急ぐぞ!」
勇者達は王都へと足を踏み入れた。