逃走
(やっちまったー!!!)
心の中で何度も叫ぶ。
いくら胸を揉まれたからとはいえ、王に手を出してしまった。
これは流石にやばいよな、やばいよね、ヤッヴァーイよねーーー!!!。
一人で勝手にやってしまったことの大きさに気づいて心の中でやばいを何度も連呼する。
だが、魔王は満面の笑みで笑う。
「よくやったぞ!勇者よ!、胸がスカッとしたぞ!」
俺はなんとか意識を保って、魔王のいる場所まで駆け上がり救出する。
やってしまったものは仕方ない。
正直言ってこの王様の言いなりになるのは勘弁してほしいものがあった。
「王に手を出した以上、タダで帰れると思うなよ!」
衛兵達が口々に叫びながら俺たちを囲む。
アリ1匹見逃さないほどの密度の濃い肉壁が出来上がった。
正直かなりやばい。
レベルの下がった俺では衛兵一人倒せるかも怪しい。
「そいつらを捕らえよ!、一人たりとも逃すな!」
王の号令と共にジリジリと衛兵達が近づいてくる。
(まずいな...、どうする?)
俺は慌てず、この場を切り抜ける方法を考える。
こんな局面は何度も出くわしている、別に今日が初めてって訳ではない。
息を整えて、試しに衛兵へパンチを食らわせる。
俺の拳は確かに衛兵にヒットしたのだが、衛兵はそこまで痛そうにしていない。
ふつうに考えて、戦闘のプロである衛兵に庶民の拳など効くわけがないのだ。
衛兵のレベルは約30ほど、ばらつきこそあるが大体そんなものだった。
(レベル差がひどい...)
ユウリは一度距離をとる。
確実に距離を詰める衛兵達はもうそこまでにせまってきている。
その時衛兵の群れから声が聞こえた。
「紅蓮剣!」
「蒼波十字斬!」
「奇跡!聖なる壁!」
3度声が城内に響き渡ると、衛兵達の群れは吹き飛んで一直線上に道が出来上がる。
その直線上に二つの光り輝く壁が作られていて、衛兵達の侵入を阻んでいる。
俺は声のした方向を見ると、ユウトのパーティが立っていた。
「ユウト!、いつからいたんだ?」
「最初からいた!、この鈍感勇者が!」
「さっきの技はお前たちの技だよな?」
ユウリはユウト達の技をある程度は知っている。
なぜなら、力比べのように何度か対峙したことがあるからだ。
しかし、ユウリが知っている紅蓮剣よりも精度も性能も大幅に向上していたので驚いていた。
「ああ、いつもお前に負けてはいられないからな、俺なりにスキルを上げていたんだ」
「ふっ、負けず嫌いが...」
全盛期の俺ほどではないが、この状況を打破するには充分な火力だ。
それにユウトパーティの僧侶がいい仕事をしてくれている。
見た目は弱々しい紫髪の少女だが、呪文は随分と高度な魔法を使っている。
「奇跡、聖なる壁」は高密度の光を凝縮し、その場に壁を作り出すというものなのだが。
彼女の壁は分厚く長い。
1日や2日で身につくような技量ではないことは誰の目にも明らかな程に見事な魔法だった。
(レベルは49か、ユウト達の中では低めだが、魔法の熟練度は高いな...)
「成長したな!カナメ!」
俺が僧侶を褒めるとにっこりと笑う。
「ここは俺達に任せてくれ、お前達のレベルが低いことはよく分かってるからな」
ユウトの言葉に俺は感動する。
「まじか!、あのユウトが人のために動いている...、俺は感動して泣きそうだ!」
確かに感動はしているが別に泣きそうではない。
カナメが声を張り上げて魔法の強度を上げながら言葉を発している。
「早く行って下さい!、私の奇跡も万能ではないです、これだけの大群に攻撃され続けたらいつ壊れるか...」
仮面の剣士はひらけた道を剣で指し示しながらユウリ達に言う。
「ユウリ様、道は私達が切り開きました、城の外にも衛兵はいると思いますが、ご武運をお祈りしております...」
魔王はそんな3人を見てはしゃぎながら礼を言う。
「余は感激したぞ!、もし余が元の力を取り戻したらお前達を余の配下に加えてやろう!」
嬉しそうな表情で三人を褒め称えるが、ユウト達は子供の言うことと思っているので真に受けてはいない。
「ありがとうございます!、この恩はそのうち返しますから!」
レスカも3人に礼を言う。
「貸しだからな、ユウリ!」
「勿論だ、そのうち返してやるよ!」
ユウリパーティは駆け出した。
ユウト達に手を貸してもらい、逃走を開始した。