TS人狼少女と少年の日常 耳掃除編
ひょんなことから一緒に住むことになった人間族の少年と人狼族の少女の日常的な物語
設定
クリティナ:人狼族(17)転生者、それなりの力あり(いわばチート持ち)
キュレン:人間族(11)現地人、駆け出し冒険者
「いやです、止めてください~!」
「待て待て~!♪」
今日も普段と変わらない日常を家で過ごしていた僕たち。
少し早めの夕食を終えた僕たちは、本当なら今頃は食器の後片付けをするはずだった。
それなのに、今は何故なのか、僕はとある件から一緒に住む人狼族のクリティナさんから逃げ回るはめになってしまった。
その理由は本当に些細なことで......。
クリティナさんと夕食を食べていた時に「耳がかゆい」と小声で呟いたのがきっかけだった。
僕としては独り言を呟いただけなんだけど、耳の良いクリティナさんには、はっきりと聞こえていたみたいで、彼女は金色の目を爛々と輝かせて、自分が耳掃除をしたいと言い出した。
「ほらほら、私がやってやるから良い加減、観念しろって」
「い、嫌ですー! 自分で出来ますからー!」
耳掃除をしたいと言ってきたクリティナさんに僕は最初は断った。
何故かというと、恥ずかしいから。
小さい頃は、お母さんに良く耳掃除はしてもらったけど、今は僕だって立派に成長したので耳掃除くらいは、1人でも出来る。......成長したと言っても、まだ11歳だけど......。
でも、クリティナさんは納得せずに、しつこく迫ってくるので、今はこうして家の中を逃げ回っている。
「キュレンー、そろそろ良いだろー?」
「で、ですから、耳掃除なんて僕1人で出来ますから!」
「駄目だって、キュレンの耳掃除は私がしてやるから、早くお姉さんに任せろよ~?」
「遠慮します! あ、諦めるまで逃げますからね!」
「むー! そんなこと言って、このまま逃げるなら無理矢理にでも捕まえるぞー?」
「ええ!? そんなー......」
人狼族といえば、亜人種の中でもとりわけ高い俊敏性、怪力性を誇る種族だ。
そんな人狼族の彼女が本気を出せば、僕みたいな人間族――しかも子供では、すぐ捕まってしまう。
でも、クリティナさんはすぐに捕まえようとはしてこない。
こうして追いかけ回すのも、僕とのやり取りを楽しんでるんだろうな、というのは容易に想像が出来てしまう。
「隙有り! おりゃ!」
「うわっ!? んぷぅっ!?」
クリティナさんに飛び掛られ、すぐさま後頭部を掴まれた僕は、そのまま彼女の胸に顔を押し当てられる。
ムギュ~!
く、苦しい......!
クリティナさんは僕よりも6つも年上で、身長も彼女の方が大きい。
だから、彼女の胸の谷間に僕の顔はすっぽりとハマッてしまい、息が上手く出来ない。
僕は何とか逃れようと手をバタバタと動かすけど、彼女は僕の頭をガッチリと手で掴んでいるので全然離してくれそうにもない。
「ンー!? ンー!」
「ん? ん? 降参か? キュレン? 大人しく耳掃除させるか?」
「クリティナさ......ん......んぷ......く、苦し......ふぎゅっ」
「ほらほら、降参するまで離さないからなー? うりうりー♪」
「ングッ! は、離して......うぷっ......」
「ふふっ、降参するまで、だーめ」
クリティナさんが着ているのは、薄い布地の服に、その上から皮製の上着を羽織っているだけなので、彼女の、その......柔らかさが服越しに嫌でも分かってしまう。
そんなんだから、恥ずかしさと息苦しさで......僕は頭がクラクラしてしまいそうで......。
というよりも、本当に息が出来ない! も、もう無理――限界ぃっ!
「ンー! ンンー!」
「どうだ~? 大人しく耳掃除させるなら首を振りたまえ、キュレン君~?」
「――コクコク」
「よっし、勝った!」
「ぷはっ! ハァハァ......死ぬかと思った......もう、クリティナさんは強引なんですからぁ......」
「へッへーン! キュレンの耳掃除が出来るなら、なんだってやるもんねー!」
彼女はそう言うと、僕に向かって笑顔でピースサインをする。
本当にもう、この人は......。
クリティナさんは上機嫌なのか、銀髪の上の獣耳をピコピコと動かしながら、彼女の尻尾は今にもはち切れんばかりに左右に動いている。
人狼族だから、どちらかと言うと狼なんだけど、今の様子はどう見ても犬みたい。
うーん、それを言ったら怒るだろうな......。うん、絶対、言えない。
「じゃあ、耳掃除はキュレンの部屋でしようぜ。先に行ってるからな~」
「あっ、待って――」
僕の制止も聞かず、クリティナさんはそそくさと僕の部屋へ行ってしまった。
「そんなに耳掃除するのが嬉しいのかな?」
「クリティナさん入りますよ?」
自分の部屋のはずなのに一声掛けてから部屋に入る。
扉を開け部屋の周りを見渡すと、クリティナさんは既に僕のベッドに腰掛けていた。
「おっ? 来たな~。早くこっち来いよ」
「あの、クリティナさん。耳掃除のことなんですけど......出来たら、あんまり痛くしないで欲しいんですけど......」
「んー? 大丈夫だって、とっておきのがあるからさ」
「とっておき?」
「そっ、とっておき。じゃっじゃーん! 綿棒だー!」
「綿棒......?」
「そっ、綿棒。こっちの方が耳掃除しやすいからさ。私の力を使って作ってみた」
自信満々なクリティナさんの片手には小さな棒状の物が握られていた。
それは白くて、棒の両端には同じような白い丸みが帯びた玉みたいなのが付いている。
「なんだか、不思議な形ですね......」
「そうか? ああ、こっちの世界には綿棒はないもんな。まっ、お試しっていうことでさ、キュレンもこっちの方が気に入ると思うぞ?」
「うーん、そうでしょうか......?」
僕たちの世界の一般的な耳かきは、木の枝で作られている。
だから、クリティナさんが作ったという「綿棒」という見た事のない耳かきは、僕にとってはあまりにも不思議な物で、ついつい首を傾げてしまう。
「ほーら、いつまでもそこに突っ立てないで、お姉さんが耳掃除してやるから、早く私の膝に来なって」
そう言うとベッドに腰掛けていたクリティナさんは、自分の膝を手でポンポンと叩いている。
「うっ、分かりました」
扉の前にいた僕は「早く来い」と催促するクリティナさんに近付いていく。
ベッドに腰掛けていたクリティナさんの背後では、人狼族の象徴でもある彼女の銀色の尻尾が左右に動いているのが見て取れた。
僕が一歩前に出ると尻尾がブンブン動いている。
でも、少し下がってみると尻尾がシュンと垂れてしまう。
それを見てしまった僕は、ちょっとした悪戯心が芽生えてしまった。
一歩前に
尻尾がブンブン
少し下がると
尻尾がシュン
また一歩前に
尻尾がブンブン
また少し下がると
尻尾がシュン
うっ......クリティナさんの反応、尻尾だけで分かりやすい――けど可愛い......。
出来るなら、もうちょっと見ていたい......かも?
「なあ、キュレンー? 何か......遊んでね?」
「い、いえ! そんなことはないですよ!?」
バレちゃった......。
「じゃあ、あの、クリティナさん、宜しくお願いします」
「おうっ! 任せとけ!」
僕はベッドに横になる前に、ペコッと頭を下げてからクリティナさんの膝に頭を乗せる。
クリティナさんが穿いているのは、丈の短いホットパンツなので、僕の頭が彼女の膝に直に乗ることになってしまう。
それだけでも恥ずかしいのに......柔らかな太ももと、彼女から漂う優しい匂いが合わさって、僕は恥ずかしさで、顔が真っ赤になってしまいそう。
「ん? もしかして、緊張してる? 大丈夫、なんにも心配はないからな?」
クリティナさんは、優しい手付きで頭を何度も撫でてくれる。
暫くして僕の髪を撫でていた手が離れると、今度は耳輪の辺りをゆっくりとなぞるように指で触れてくる。
優しく何度も触られると、とってもくすぐったくて......。でも、それが不思議と心地良く感じてしまうのは何でだろう?
「ふぁ......」
「ちょっとは落ち着いたか? 今から始めるからなー?」
「は、はいぃ......」
「それじゃあまずは、耳の表面からっと......」
クリティナさんの持つ綿棒がゆっくりと僕の耳の表面を掃除していく。
耳の縁を沿うように、何度も何度も優しくなぞられて、ゆっくりと綿棒が耳の溝を掻いていくのが分かる。
「うん、耳周りは綺麗になった。じゃあ、次は先端を変えてっと。キュレン、今から耳の中を掃除するからな? 変に動いたりするなよ?」
「はい......お、お願いしましゅ......」
緊張しすぎて噛んじゃった......。
でも、遂にこの瞬間がやってきたんだ。
あの奇妙な形をした綿棒というものが、耳の中に入ってくるのを僕は緊張した面持ちで身構える。
そして、僕の耳に、あの白くて太いのが――――挿入って――きた!
「うあっ!? あああぁぁ......」
「プッ! 変な声出すなよ、キュレン~。ビックリしちゃったか?」
えっ? えっ? なにこれ!?
こんな感触初めて!
サクッとした軽い音と共に耳の中に柔らかい物が入る感触を感じてしまい僕は変な声を漏らしてしまった。
今まで使ってきた耳かきとは違う、綿棒の未知なる柔らかさと刺激に僕は驚いて思考が追い付かない。
昔、お母さんに初めて耳掃除をしてもらった時よりも凄くて.....、それに耳輪を触られた時とはまた違う気持ち良さに僕の体はビクンと震えてしまう。
「こーら、動かない。ほらほら、ここなんかどうだー?」
「ああ......あふっ」
綿棒を耳の奥に入れる時は力を強めて入れてくるのに、逆に引く時はゆっくりと弱めに引いてくる。
器用に動かしながらも、その絶妙な力加減が気持ち良くて、言葉にならない声が僕の口から次々に漏れてしまう。
クリティナさんも僕の反応なんて最初から分かっているのか、耳掃除をしながら時折、僕の髪を優しく撫でてくれる。
「ん~、その反応なら気持ち良いみたいだな。でも、もし痛かったら言えよー? あっ、ここなんか溜まってそうだぞ? ほぉら、どうだ~? クリクリクリ......」
「ああ......ふあぁ......」
クリティナさんのしなやかな手付きによって、耳の中に入った綿棒がクリクリと音を立てながら動き回っている。
最初は一箇所の部分を重点的に掻いていたけど、段々と角度を変えて耳壁の中を優しく掻いて僕に満足感を与えてくるような感覚に、今はもう抗えそうにない......。
耳の中だけでなく外でも、人差し指と親指で耳たぶを優しくマッサージするかのように揉んでくるので、それもまた僕にとっては気持ちが良かった。
クリクリ、クリュクリュ.......クリクリ、クリュクリュ......
綿棒が耳の中で動くせいで音が聞こえてくる。
でも、決して不快じゃない音。その音と耳道で動く綿棒の感触が不思議と心地良い......。
「あっ、そこ......」
「キュレン。分かるか? 今、お前の耳垢がちょうど取れてるから、もう少しだけ我慢だからな?」
「ふ、ふあい~。あ、あ、あぁぁ」
「ふふっ、良い子、良い子。もう少しだぞ~」
クリクリ、クリュクリュ.......クリクリ、クリュクリュ......
耳の中に入った綿棒が小刻みに動き、中の耳垢を取っていく。
ガサガサと耳の中から音が聞こえてくる。痒くて不快な耳垢が取れていく爽快感に、僕はもう嬉しくて、早く取れて欲しいと願ってしまう。
それにクリティナさんからのテクニックのあまりの気持ち良さに、僕は瞼がトロンと閉じかけたり、涎が出そうになるのを堪えるのに必死だった。
「おっ! でっかいのが取れた! 」
「ふあぁ......」」
「じゃあ、仕上げな? フ~」
「ふひゃあ!?」
クリティナさんの顔が近付いたかと思うと、次の瞬間、僕の耳にフゥッと息が吹きかけられ、僕は言葉には出来ない感覚が耳から全身にかけて襲われてしまった。
「ほいっ、左耳終わりっと。キュレンどうだった――って、ありゃ?」
「ひにゃあ......ああ......」
耳掃除が終わった後、僕はもう耳掃除という快感のせいで、意識が遠い別の場所に行きそうな感覚に陥り放心してしまった。
それを見たクリティナさんは口元に手を当ててクスクスと笑った後、僕の頬にそっと唇を寄せてきた。
「頑張ったな。じゃあ、ご褒美......んっ」
「ひゃっ!?」
彼女の柔らかい唇が僕の頬に押し当てられた。
唇が押し当てられた後には、温かくもザラザラとした彼女の舌が僕の頬をペロペロと縦横無尽に這い回る。それを受け入れてしまった僕は、なすすべもなく、ただ情けない声をあげるしかなかった。
「んう......ひうぅ......」
「んっ......レロ......んっ、チュプ......ぷはっ! はい、ご褒美タイム終了~!」
「うあぁ......。い、いきなり何するんですかぁ!?」
クリティナさんの顔が離れた瞬間に、僕は勢い良くベッドから飛び起きる。
さっきのことがあまりにも衝撃的なのと恥ずかしくて顔も合わせられない。
舐められた感触がまだ温かく頬に残っている。
多分、今の僕の顔は茹でられたかのように真っ赤に染まっていると思う。
というよりも顔だけじゃなくて身体全体が羞恥で赤く染まりそうだった。
そんな僕とは対照的に、クリティナさんは舌をチロッと小さく出して笑っていた。
「へへっ、ごめんごめん。昔見た漫画みたいだったら、こんなのが喜ぶかなーと思ってやってみたんだけどさ」
「うぅ......ま、マンガ......ですか?」
マンガって何だろう?
クリティナさんが異世界からの転生者ということは知っている。
でも、彼女がたまに話す用語は、僕には良く分からない。
「まっ、そんなことより、どうだった? 私の耳掃除はさ? 良かったか? 良かったろ? な? な?」
ベッドから立ち上がったクリティナさんは、そう早口に話しながら顔をずずいと寄せてきて、僕に耳掃除の感想を求めてくる。
あまりに近すぎて、お互いの鼻がくっつきそう......。
僕はクリティナさんが好きだ。
だから、こうして間近で見られると、彼女のことを強く意識してしまい、さっきの恥ずかしさも合わさって、彼女の金色の瞳から視線を逸らしてしまう。
でも、クリティナさんは相変わらず僕に笑顔を向けて感想を待っている。
「ほらほら遠慮せずに言ってみろよ~? もし痛かったら今度から直すからさ」
「いえ、 痛くなんかなかったです! えっと、その、恥ずかしかったですけど.....、耳掃除はとっても気持ち良くて......、その、ご褒美も......凄かった......です」
「――っ! そ、そうか! それなら良かった......うん! ......あっ! い、一応、言っとくけどな!? さっきのご褒美は誰にだってあんなことする訳じゃないぞ? お、俺だって恥ずかしかったんだからな!?」
腕組みをして僕に念押しするクリティナさんの頬は真っ赤に染まっている。
彼女の後ろでは銀色の綺麗な尻尾がフリフリと激しく動いているのが見えてしまった。
それを見た僕は、そんな彼女の様子が可笑しくて、自然と笑みが溢れてしまう。
「ふふっ。あっ、えっと、耳掃除ありがとうございました、クリティナさん。じゃあ、耳掃除も終わりましたし、僕は食器の片付けをしてきますね?」
「ん? 何言ってんだキュレン? まだ終わりじゃないぞ?」
「え? え? それってどういう......。あっ......ま、まさか......?」
「うん、そのま・さ・か♪」
そう言ったクリティナさんの手には新しい綿棒が握られていた。
それを持ちながら僕にニッコリと笑って手招きをする彼女は僕にこう言うのだった。
「じゃあ、今度は右耳な?」
読んでいただきありがとうございました。
耳掃除の描写をもっと上手く出来たらなと反省しております。