表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード1】 一章 生きる者
6/172

生きる者 【5】

 配置に付き、銛班は銛のチェックをし、小銃班は自分の小銃と弾薬のチャックをする。各々が、静かに、そして手際良く準備を整えた。


 ガモニルルから五メートル程前方にカナリエとダガニルが陣取り、その左右にはガレート狩猟商会とオルホエイ船掘商会の混合小銃班が七名、そしてカテガレートも指揮する為そこに加わり計八名で横列を組んで立っている。

 ガモニルルの左右後方と真後ろには銛班が各三名づつ配置している。左右後方は狩猟商会の銛班。真後ろは船掘商会の銛班だ。オルホエイは後方から状況を把握する為に自分の銛班に随伴している。

 ラノーラとアズリは、先程まで獲物を監視していた場所で固唾を飲んで待機だ。


 洞内を崩さぬ様、気体レーザーの距離を絞りつつ一定の破壊力を得る為とはいえ、カナリエの位置する場所はガモニルルに非常に近い。カナリエとほぼ同じ位置に待機している小銃班は、引き上げ後に更に近寄り一斉射撃する。小銃班が一番危険な立ち位置での行動に思えるが、アズリにとっては移動できないカナリエが一番危険に思えた。


 そんなカナリエを見つつ、見張りの時とはまた別の緊張感で心臓の鼓動が早くなるのをアズリは感じる。両手を胸に押し付ける事で少しでも落ち着かせようとするが、そんな事では落ち着く筈もない。


 アズリが先程カナリエに話した件は、オルホエイを通じてカテガレートに伝わった。

「問題は無いとおもうが……」とカテガレートは言っていたが、準備している間にラノーラとカテガレート二人で、念の為もう一度巣を調べてくれた。巣の上に登り、破卵しか無い事も確認済みだ。


――大丈夫、上手くいく。


 アズリは、そう自分に言い聞かせ、無事に作戦が終わる事を願い両手に力を込めた。


 周囲は静まり返り、オルホエイの合図を待っている。聞こえるのは獲物の寝息のみ。

 スッとカテガレートが左手を上げ、手のひらを下に向ける。一気に緊張と言う名の空気が周囲に伝播する。

 もちろん同じ感覚がアズリにも伝わり一瞬息が詰まった。


 カテガレートが大きく息を吸い込む。

 そして手のひらを勢いよく真下に下げると同時に、

「アンカーーー!」

と、洞内全てに響き渡る程の大声を上げた。

 即座に銛班が、アンカーMSの左右後方に設置してある二本のレバーを、二人がかりで勢いよく下げる。ガスンと地面が揺れそうな程の轟音を立て、銛の両側に二本ずつあるアンカーパイルが地面深くに突き刺さる。

 同時に、カナリエもパイルレーザーのレバーを勢いよく下げ、後方に付いているアンカーパイルを突き刺した。


 深く眠りについていたガモニルルも、流石に銛三丁と銃一丁のアンカーパイルが刺さる轟音に目を覚まし、ビクリと体を揺らす。そして目が開きかけた瞬間「ってーーー!」とカテガレートの咆哮が鳴り響く。


  アンカーMS本体中央の発射台に座した発射担当が引き金を引く。ガモニルルが周囲に気がつくよりも早く、爆発音と金属が擦れる音と共に銛が発射された。左右後方の銛は、真っ直ぐに、的確に、獲物の前腕を狙い突き刺す。真後ろに位置する船掘商会の銛は若干下方を狙い、腹部に突き刺す。貫通し、ズンっと地面にめり込む音がする。


 やはり手慣れていて流石と言うべきか、威力を調節してある左右の銛は腕を貫通して直ぐの所で威力を落とす。その瞬間、閉じた傘の様な形の銛先は、ガシャンと音を立て【あご】と呼ばれる返し部分を広げた。そして赤黒い体液を撒き散らす。

 

 同時に、激痛を感じ完全に目の覚めたガモニルルは、鼓膜が破れんばかりの悲鳴をあげた。人間二、三人を一度で食らってしまう程の巨大な口が裂けんばかりに大きく開かれ、目の前に立つ皆が一瞬圧倒された。

 しかし、そんな事に一切怯まないカテガレートは、ガモニルルの咆哮に負けじと「引けーーー!」と声を上げる。


 発射台のレバーを引くと、銛先と繋がる太く頑丈な鎖が巻き取られ、発射時と同じ金属音を鳴らしながらガモニルルの身体が持ち上がった。無理やり引き上げられる身体を左右に揺らし抵抗するも巻き取れれる力の方が強く、体中央から上が仰け反っていく。腹部を動かそうとしても、斜めに入った銛が腹を貫通し地面に突き刺さった事で動かない。


 硬い甲羅の様な皮膚で覆われた胸部が正面を向いた辺りで、カテガレートがまた左手を上げた。同時に鎖の巻き取りが止まり、今度は小銃班がガモニルルの顔に向かい狙いを定める。そして「ってーーー!」と言う合図と共に一斉に銃が発射された。目を狙い何発も何発も。

 

 その間カナリエは銃の左右にあるノズルを回しつつ、上下左右に銃口を動かし狙いを定めていた。カナリエの二メートル程後方にいるダニルは増幅安定機のスイッチを入れ供給レバーをゆっくり上げている。


 ここまでの一連の動きにアズリは呆気に取られた。

 あまりにも、あっという間で、混合チームとは思えない程の統制の取れ方。事前に打ち合わせはあったにせよ、まるで昔から何度もこの狩猟を経験してるかの様だった。

 勿論、狩猟商会側は経験があるのだろうが、船掘商会側は殆どが初体験だ。それなのに、ここまで冷静でスムーズな作業をこなせるアズリの仲間は、大なり小なりこういった経験を積んでるベテランばかりであると言う証拠だ。


「すごい……」


  思わず言葉が漏れた。

ガモニルルの胸部と頭部は硬い皮膚に覆われており、銛が通らない。青色に光りながら小刻みに発射される小銃の弾も頭部に当りキュンキュンと弾かれる。しかし、硬い皮膚に覆われてない眼球は瞼ごと潰されている。暴れる為になかなか全ての眼球を潰しきれないが、もうすでに三つは潰し終えていた。

 

 今現在も使用し、一般的にも普及している小銃は10.9ミリ・ネオイットライフルと言う。ネオイット溶液という液体を気体状にして圧縮する。それを解放し、膨張した力を使って弾を発射する小銃だ。パイルレーザーとは違い、気体状のネオイット溶液が纏わりつき青く光るだけで、結局は鉛弾である。

 跳弾で怪我をする可能性もあるのに、意にも返さず打ち続ける小銃班の勇気も凄い。


「大丈夫。順調だから」

ラノーラが振り向かずアズリの感嘆に答える様に声を発した。

「……うん」


 アズリはあまりの光景にこれ以上の言葉が出て来なかった。こんな大物取りをみるのは初めてで興奮と緊張から来る心拍音が鳴り止まない。しかし同時に作戦前に感じた、どうにも言葉にならない、不安にも似た違和感が込み上げてくる。

 巣は確認したしもう問題は無いはずなのに。


――なんだろう……何か感じる……。どこから?


 違和感は強くなる一方だ。それを探す様に、アズリは目の前に広がる光景を注意深く観察し始めた。


「いけるか?」

とダニルが声上げた。

「もう少しまって! ダニル、あと十五上げて!」

 カナリエとダニルの調整もあと少しといった所。カテガレートもチラリと後ろに居るカナリエを確認している。


 獲物は身を捩りながら奇声を発してるが、もう既に眼球を五つも潰されている。後は、カナリエの一撃で決まる。


 違和感はこの一連の流れにはない。では、どこにあると言うのだろう。洞窟の入り口には仲間がいる為後ろから襲われる事もない。洞内のこの広い空間には横穴らしき物は無く、ここまでの道筋にある分かれ道の先は行き止まりだ。


「ねぇ、巣の中には何も居ないんだよね?」

「え? うん。さっき確認した時も破れた卵しか無かったし、問題なかった。子は産まれて直ぐに巣立つし、それに生殖対象の雄も狩ってるから大丈夫だと思う」

 ラノーラはアズリの質問に訝しげに答えた。

「違うの……枯れ草とか色々盛ってあるでしょう? その中」

「……そこまでは確認していない」

その答えにアズリは何の返答も無く、巣を凝視する。分厚く盛り上がった巣の中に隠れようと思えば、小柄な雄なら隠れられるかもしれない。

 今、気がついた。不安の種はやはりこの巣である事は間違いない。時すでに遅いが、いくら破卵を調べたとしても意味は無かったのかもしれない。

 そう、今はっきりとアズリが感じた違和感は、巣本体のその分厚い枯れ草の部分からだ。

 

――このまま無事に……。


 と、アズリが思った時「いけるわ!」とカナリエが声を発した。


 ガモニルルの眼球は残りあと一つだったが、カテガレートが散開の合図を送る。小銃班は残りの眼球を狙い打ちながら左右に分かれた。

 そしてカナリエが銃の引き金を引くべくハンドル型のグリップに手をかけたその時、もぞりと巣の中間に盛ってある枯れ草が動いた。


「あ!」


 不運にもアズリの勘は当たっていた。

 そこから見えたのは、特徴的なガモニルルの口先だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ