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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード1】 四章 朝日と温もり
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朝日と温もり【7】

 自室にある装備ユニット、正式名称【Armed(A) construc(C)tion system(S)】の前でロクセは冷静に現状況を分析した。

 アズリの話をしていた影響で、彼女が生きていると短絡的見解をしてしまったが、実際その根拠も無く、むしろ敵手存在の方が現実的と考えられた。


 昼間の作戦時にはサーモグラフィー以外にも索敵をかけていた。

 その時点で同種の存在は確認しておらず、先程も甲板から立ち去る直前に、念の為もう一度索敵をかけた。しかし、何の反応も示さなかった。


――アズリとは関係無く、戦闘が起きていた……? いや、それらしき反応は無かった。高性能ステルス(HPS)モジュール装備のリアクターでもなければ索敵を避ける事は出来ないのだが。


 装備によりけりだが、素の状態で索敵妨害を可能にしているのはロクセの国のみ。他国にその技術は無く、専売特許として使っている。しかし、自分が眠っていた数百年の間にその技術は一般的になったとも考えられる。


――HPS-モジュールが基本となれば索敵を避ける事が出来るが、この星でそこまでの技術があるのか?


 リアクターが稼働している反応は見受けられず、現在も広域救助信号が発信されている。とどめを刺さず、放置されているのは何故なのか。


 当然のごとく Identifica(I)tion frie(F)nd or foe(F) 機能にも反応すらない。敵か味方かも分からないのであればリアクターが完全に機能していないと考えられる。


――罠か? ……しかし、俺の存在は知られてないはず。昼間に索敵された様子も無かった。


 考えれば考える程分からなくなってくる。

 索敵された様子もなく、こちらが索敵しても反応はない。

 遠くで戦闘が行われたのだとしても、それらしき認識はなかった。しかし、アズリが行方不明になった方角から何の兆候も無く不意に救助信号が発っせられ、放置されるが如く現在も継続している。


――あの森まで、直線距離で四十数キロ程度。ドンパチやれば、俺なら気づく距離なのだが……。


【Reinforced replica soldier】通称Replicader(レプリケーダー)同士の戦闘が行われた場合、対人間とは比べ物にならない程の熱量を発する。勿論、装備や状況によりけりだが、エネルギー媒体を使用する何かしらの攻撃があった場合は必ず感知できるし、激しい戦闘があった場合も身体の熱量から少なからず反応は見つけられる。

 それすらも無いのであれば、考えられるのは二つ。

 圧倒的力量差の肉弾戦で、蓄熱すらもしない一瞬で事をすませた場合と、完全なステルスを可能とする兵種のみ。


――仮に戦闘が起きていたとして、それに勝利した側は味方である可能性が高いのかもしれないな。ならば、罠ではないのか?


 力量差という点で考えるならば、こちら側が有利なのは当然。根本的に性能が違う。何の装備も持っていなかったとしても、フル装備の相手と互角以上の戦いができる。しかし、それはロクセの認識。今、この星に存在するレプリケーダーは我々を超えているのかもしれない。


――どちらにせよ、一定の装備は必要か。隠密に行動するならばインナーだけで行くべきだが……。


 アズリの生死について、この件は一切関係がないと思い始めたが、もし勝者が仲間だった場合は無暗に人間を殺す事はしない。保護していると考えるべだ。とはいえ、信号の発生地点へ安易な考えで向かうべきではない。出来る限り索敵されない様に、周囲を確認しながら向かうべきだと考える。となれば、下手に目立つ装備構築は除外するに越したことはない。

 インナーだけでも装備していれば、戦闘能力はかなり向上する。スーツとアタッチメント、そして武器に関しては最小限に留めるに限る。

 

 等とあまり悩む時間も無い。


 ロクセは服を脱ぎ、無造作にテーブル横の椅子へ投げ捨てる。裸になってACSを起動させると空中に操作パネルが表示された。

 人の体と思しきライン状の骨格が描かれ、周囲に多様のカテゴリーが並ぶ。

 ロクセが手早くそれらを操作すると、インナーが設定され骨格表示が描き変わる。


――地面の蔓が気になるが……飛行装備はやめておこう。熱が籠る。スーツの一部、スパイダースパイクのみ使えれば構わないな。


 続けて操作すると、足の部分だけが少しだけ描き変わった。


――武器はナックルかワイヤーか、それとも……。


 ロクセはチラリと床に置いてある長方形の箱に目をやる。しかし、数瞬考えた後、かぶりを振って「いや、やめておこう」と言い、ACSに目線を戻した。


――ナックルとワイヤー、両方あれば良いだろう。後はウエイトオペレーションとIFF-サーチか。


 これ以上の装備を重ねれば静かに行動する事も容易ではなくなる。自身の兵種がステルスに特化した物では無い為だ。そもそも、それに対応した装備は殆ど持ち合わせてはいない。幸いなのは基本ボディーとインナーが兵種共通でステルス性能完備な事くらいだ。

「ダンサーのACSがあれば楽だったのにな」

 ロクセは独り言ちる。


 ダンサーとは偵察、暗殺に長け、重力(グラビティ―)操作(オぺレーション)加重(ウエイト)操作(オペレーション)を巧みに使い、恐ろしい程の機動力を有する兵種だ。当然、肉弾戦においても前線に立てるレベルの働きが出来る。戦闘時の動きも含め、全ての動きがまるで踊っている様に見える為、その名がついた。


 他に、ビルダー、レイン、キューブ、スカイ、トレーダー、ドームと全部で七種類ある。その中でロクセはキューブという兵種についている。


 隊長機であるため特別な能力を有してはいるが、正直、一番中途半端な兵種だとロクセは思っている。キューブ以外の兵から特徴的な部分だけ寄せ集めた、自慢すべき部分が何も無い兵種。

 周りはバランスが取れてて一番信頼出来ると語るが、自身はそう感じていない。

 キューブという名の由来も六面、六種の特徴を兼ね備えるという意味で付けられた名だが、全ての兵種において、命名者のセンスが如何なものかと疑問すら沸いている。


 ロクセは軽い溜息交じりでパネルを操作する。するとACSの全面がスライドしつつ蜘蛛の足が開く様に口を開けた。

 昼光色に染まった部分と、様々な電極が走る精密機械の密集する部分との対比が、このACSの存在を大きく形作っている。


 これが手元に在るのと無いのとでは、今後の行動に天と地程の差をつける。

 溜息をついてしまった手前ではあるが、安心と信頼を持ってロクセはそれに身を預けた。

 昼光色の部分に背を当てると、自動的に蓋が閉まる。これもまた、蜘蛛が足を閉じる様にだ。


 ネジの回る音、何かが組み合う音。様々な音が大きな黒い箱から漏れ出す。皆、寝静まった頃合いだが、驚いて起床する程の音は出ていない。ただ淡々と静かに何かが組み上がる音がロクセの部屋に舞った。


 時間にすれば二、三分といった所で音は止み、完了の合図であるシステム音が鳴る。そしてまた気持ち悪い動きで正面の口が開いた。

 ロクセはゆっくりとACSから降りて、歩み出る。手を開閉させて、足から腕にかけて装備を確かめた。


「状況的に心もとないが……まぁ、仕方がないか」

 そう呟いたロクセの体には、超耐熱マグネシウム合金と高密度筋線維ジェルを主として、数種類の金属を固溶強化した合金やナノセル等の様々な物質を、ナノマシンで構築したファイバーシートが張り付いている。

 着るというより張り付いていると表現すべき Replicader Reinforced in(インナー)ner suit は、三角筋、上腕二頭筋、大胸筋等の各部位に亀裂が入り、場所によっては分厚く、より大きく強化されている。腹斜筋と胸鎖乳突筋に至っては、まるで甲虫類の腹の様にも見える。

 頭部に関しては目も鼻も口も無いのっぺりとした薄いフルフェイスヘルメットを着用している様相で、サイドと中央をメインに甲羅にも似た幾何学的なラインが入っている。


 ロクセがもう一度手を開閉させ体全体に力を込めると、インナーに彫り込まれたラインに沿って足元から順に青い光が走った。

 問題なく機能している証拠だ。


 左腕には手甲の様なワイヤーナイフが装備され、右手にはコンパクト且つ高性能なインパクトナックルが装着されている。

 左右の肩には小型のIFF-サーチがあり、背骨にはそれに沿う様にウエイトオペレーションがある。

 それぞれ型式やブランド名を持つが、基本的にそれらで認識してはいない。

 続いてロクセは軽く屈伸する動きをした。

「数百年ぶりの稼働だが、問題ないようだ」


 全体的にシンプルな装備だが、足元だけは違う。

 足にはショートブーツ程度の外骨格パーツに繋がる様に、全面のみ脛まで局所装備が施してあった。

 兵種キューブのスーツ、その一部分だ。

 そこだけがインナーとは違い武装然としているが、搭乗用外骨格機兵とは異なり、洗練されたデザインが他国と頭一つも二つも秀でた代物である事を示している。

 ロクセは眼前に表示される文字を隈なく確認する。

 フルフェイスの内部は顔全体が覆われていると思えない程に、クリアな視界と様々な情報が映し出されていた。

 その一つに目線を合わせ、カラーを選ぶ。

 迷わず選んだカラーはブラック迷彩。

 夜間の森で行動するにはこれが一番だと判断したためだ。

 瞬間、高性能なナノセル粒子が反応し、インナー色が変わる。それに呼応する様に追加装備も変色する。


「さて。行くか」 

 サーモグラフィーを起動させ、周囲に誰も居ない事を確認した後、ロクセは堂々と部屋を後にした。

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