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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード4】 一章 迷いの糸廊
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迷いの糸廊【9】

 早朝だというのに、オルホエイ船掘商会の事務所には三十五名もの船員が集まった。

 商会のトップである為オルホエイとアマネルは無論出席。孤児院運営ペア、カナリエとダニルは当然の如く稼ぎに来る。カズンとザッカは解体班として必須だし、ペテーナとルリンは医療班として必ず呼ばれ、必ず来る。メンノは飲み代を稼ぎに、レティーアは私生活を安定させた上で趣味のショッピングを行う為に働く。そしてそれに負けじとリビも働き、リビが居るからとミラナナも働く。フィリッパは空船内が一番落ち着くという理由で参加する。

 この辺りはほぼレギュラーメンバー。他は私用との兼ね合いで参加したりしなかったり。

 アズリはマツリの体調との兼ね合いで稀に参加しない時もあるが、最近はレギュラー入りしている。


 レギュラー入りと言えば、ここ数か月殆ど顔を出している古代人のロクセと、船員に加わってから一度も休んだ事の無いタタラも居る。

 オルホエイ船掘商会の女性達は真面目だなぁと思いつつアズリはタタラを見つめた。

 昨夜、調べたいと言ってマツリの薬を一本買い取ったタタラ。これで二つ買ってねと、倍の金額を無理やり渡して来た。

 たった一晩で何かを得られる筈もないが、もし、特効薬的な発見があれば、直ぐにでも知らせて欲しいとアズリは思う。

 知った所で何も出来ないが、希望という精神薬は投与されるだろう。


「……という訳で、しばらくの間こいつらも参加する事になった」

 オルホエイの説明を話半分で聞いていたアズリは当事者達に目を向けた。

「ルマーナよ。皆あたいの事は知ってるね。よろしく頼むよ」

「先日は大変お世話になりました。改めましてキエルドです。こっちはレッチョ。船が直るまで重ね重ねお世話になります。部外者のようなものですが、ルマーナ様共々仲間に入れて貰えれば幸いです」

「でさ」

 相変わらずルマーナは少し上から目線で挨拶し、キエルドはネードの礼を含めつつ丁寧に挨拶した。


「あと、あたいの娘も参加するから」

 ルマーナの隣にポツンと立っていた人形が小さく前に出た。

「この子はティニャ。頭いいから医療班。手ぇ出したら殺すからね」

「ティニャです。よろしくお願いします」

 そして挨拶した。

 作り物のように整ったティニャの顔。最初は皆、ルマーナとの親子関係を疑う。

 実際、引き取った少女なのだから血のつながりは無い。無いのだが……何故か、妙に納得してしまう。

 レティーアもパウリナも言っていた。髪の色も目の色も違うのに、何処か似てるのよね……目元かな? と。


「ルマーナ嬢に娘なんていたか?」

「お前ネードん時居なかったのか。とはいえ、娘の件は噂になってたろ。引き取ったってな。知らなかったか?」

「何処の子だ? いいとこの嬢ちゃんに見えるが」

「下級民だったらしい」

「ほう……そりゃすげぇな」

「だがあの容姿だ。引き取りたくなるのも分かる」

 周囲からぼそぼそと聞こえた。


 母となったルマーナ。その話はかなり有名らしいが、知らない者もいたようだ。恐らく、ロンラインや噂話に興味のない者は知らないのだろう。

 ティニャを引き取るにあたって、ルマーナは住民データを一度確認した。ティニャのデータには不正で住民登録されたか、又は何かしらの改ざん形跡があった。ルマーナはそれを見なかった事にして、無理やり娘として登録したらしい。かなりの金を積んで、つつく所の無い潔白なデータに書き換えたとの事。

 この事実はキャニオンスライム事件に関わった者と【ルマーナの店】の者しか知らない。

「ペテーナ、ルリン。それとタタラ。この子は将来有望な子だ。頼んだぞ」

「あいよ~」

 ペテーナが気怠そうに返事をし、ルリンは興味津々に頷いた。タタラも微笑みながら優しく頷く。

 ルリンは今年で十三歳だった筈。そう年も離れていないから、友達になれそうな気がする。

 

 オルホエイに代わって、アマネルがルマーナ達の部屋割りを決めた。

 ルマーナはタタラと同室。キエルドとレッチョは空き部屋に二人で。そしてティニャはリビ達の部屋に。

 ルリンとフィリッパの汚部屋を避け、体の小さいリビと同室同ベッドという予想通りの部屋割りとなった。

 リビが例えようのない表情をしていた。


「さて……」

 新顔の紹介が終わり、オルホエイが深呼吸と共に本題へ切り替えた。

「向かう場所は”注がれる(あか)”だ。そこに戦闘艇が落ちたらしい」

 後ろの地図を、指し棒を使ってタンっと叩くオルホエイ。

 ブリーフィングテーブルにも地図が映し出され、皆それに注視する。

 ”注がれる紅”は一度だけ見た事がある。

 少し歪んだ丸形の盆地に、深紅の森が広がる場所だったとアズリは思いだした。

 年に一回、白い葉を深紅に染める木。森林中央から徐々に色の移り変わりを見せる為、絵の具を注ぎ入れるような情景らしい。

 白い葉の時期はひと月程度。染まるのは二、三日で一気に染まる。

 そんな絶妙なタイミングを得られるはずもなく、アズリは深紅に染まりきった森しか見た事がない。


「情報は何処からっすか」

「最初に発見したのは宝食商人だ。で、肉屋……ガレート狩猟商会経由でこちらに来た」

「宝食商人が”注がれる紅”に? 何故っすか?」

「そうか、普通は知らないか。ルリン、お前なら分かるな」

 ザッカの問いをルリンに投げたオルホエイ。

 という事は植物関係だろう。

 アズリ含め、全員がルリンへ顔を向けた。

「勿論分かるよっ。”紅いミルク”でしょっ」

 ふふんと自慢げに答えるルリン。植物大好きルリンはこういった問いに喜んで答える。

「そうだ。それも含めて説明してやってくれ」

 今回のブリーフィングにはラノーラが呼ばれている。ネード以来、呼ばれる事のなかったラノーラが居るという事は、少し特殊な場所での仕事なのだ。

 アズリは一瞬ラノーラの様子を伺った。

 ラノーラは居て当たり前かのようにアマネルの隣に座り、微笑みながら同じ趣味を持つ同志(ルリン)を見守っている。


「注がれる紅にいっぱい生えてる木はね”マザーブラッド”っていう木なの。その木になる実が”紅いミルク”っていうの」

「マザーブラッド? ”レッドマリン”じゃなかったか?」

 とメンノ。

 アズリは確かにレッドマリンって名前だったな……と心中同意した。

「ううん。マザーブラッドが正式名称。聞こえが悪いから、空から見ると赤い海面のようだって誰かが言って、それでレッドマリンって普通の人は言うの。でも本当は違う。”紅いミルク”も本当は”血の母乳”っていうんだよ。怖いでしょ」

「そもそも、その……”紅いミルク”っすか? それ自体初耳っすね」

 確かに聞いた事が無い。

 アズリも首を傾げた。

「うん。激レア食材だもん。普通の人は知らないと思う。食べれないもん」

 ミルクは数種類存在する。商店街にあまり出回らない貴重なミルクもあるが、それを更に越える物なのだろう。

「それを求めに宝食商人が行くんすか」

「うん。十年? に一回……」

「十三年です」

 ラノーラが口を挟んだ。ルリンは一瞬考えて、そうそうと頷き、話を続けた。

「マザー……レッドマリンはね、一本の木に一個だけ実をつけるの。で、その十三年に一回だけ、その実の殻が割れるの。しかも一晩だけ。殻の中に風船みたいな実があってね、一晩経つと地面に落ちちゃってびちゃってなるから、それを逃すと、次はまた十三年待たなきゃなの。だから商人達は自分の担当に必死になるんだよ」

「担当?」

 今度はレティーアが尋ねた。

「うん。昔ね、それを求めて喧嘩になったんだって。商人達の。だから、セントラルにいっぱい納税してる正規の商人限定でエリア決めしたんだって。自分達の木を定期的に確認しに行って殻が割れる時期を見計らってるみたい」

「へぇ~。因みにその実って美味しいの?」

「う~ん。ルリン食べた事ないから分かんない」

 ルリンがラノーラへ視線を送った。

 ここからは”食材”に関するプロへ話を振った方がいいと判断した様子。


 ラノーラが小さく頷いて「じゃあ、ここからは僕が説明しますね」と答えた。

「頼む」

 と、オルホエイ。

 ルリンも姿勢を正して耳を傾けた。

「ルリンさんが説明してくれたように、レッドマリンに生る実は非常に希少価値が高い物になります。殻は鉄よりも硬く、自力で割って食べる事が難しい実です。よって、熟す期間も鑑みて自然に割れるまで待ちます。そこに生息する動物達も多少狙ってはいますが、基本そこまで貪欲ではありません」

「何故っすか?」

「そもそも、レッドマリンの葉と幹の皮には豊富な栄養があります。動物達はそれで満足してますから、硬い殻に覆われた実まで必要としてません。葉や皮には毒素があるので、逆に人間には無理です。食べられるのは実だけです。直径三十センチ程度の実の中には一粒の小さな種と液体が入っています。その液の味は至高……と聞きます」

「血の母乳って言ってたわね。真っ赤なのかしら?」

 と今度はカナリエが尋ねた。

「最初は深紅といった感じです。本当に血のようだと聞きます。紅いミルクは一度密閉された容器に入れて、二十日程度寝かせるらしいです。腐る直前まで更に熟成させると色は淡いピンク色になります」

「飲んだことある?」

「僕は無いですね。でも、ルマーナ様はありますよね?」

 ルマーナへ話を振ったラノーラ。ルマーナは興味無さげに「一杯だけね」と答えた。

 彼女はミルクよりもお酒派だろう……。


「どうでした?」

「濃厚過ぎて旨味がダイレクトに脳まで来る感じがしたよ。一度飲んだら普通のミルクが飲めなくなるかもね」

 ハマるかどうかは別として、一度でいいから飲んでみたいとアズリは思った。

「だそうです。宝食商人は高値で売れるレアな食材を探し、収穫してくるトレジャーハンターです。狩猟商会と違うのは主に植物を扱うという所ですが、狩猟商会との折り合いを付けながら仕事してます。納税していないモグリもいますから、その辺りが困った所です。彼らはやりたい放題ですからって、話が逸れましたね。ともかく、定期確認に行ったとある宝食商人が落ちた船を見つけ、彼らと知り合いだった僕等へ話が来た訳です」

「大切な商品をなぎ倒された奴らは泣いてるだろうがな」

「まだ知らないと思いますよ。定期的に確認しに来ますが、そう頻繁ではないので」

「まぁ、俺達の仕事は落ちたそいつを回収する事だ。被害者は運が悪かったと諦めるしかないな。でだ、落ちてきた戦闘艇は小型で被弾痕も多少ある。……が、原形は留めているらしい」

「小型っすか……あまり金にならないっすね」

 と、ザッカが嘆いた。しかし「そうがっかりするな。確認してみない事には分からないが、連合の船らしいぞ」とオルホエイが仲間のやる気を引っ張り上げた。

「お、いいね!」

 メンノが反応した。勿論他のメンバーも期待を込めた目の色に変わった。

 七ヵ国連合の船は素材全ての品質が群を抜いている。小型であってもかなりの利益が見込めるのだ。

 アズリはロクセの様子を伺った。何の反応もなかった。

 連合の船からロクセは見つかった。自身の国の船ならば、何かしら思う所もあるだろう……と心配したが、杞憂だった。


「作戦内容は?」

 と、メンノ。

「ただ吊り上げるだけだ。危険な場所じゃないからな、その場で解体したい。が、如何せんサリーナル号を着陸させる広場がない。少し離れた所に広い稜線がある。そこまで一度運んでから解体する予定だ」

「楽な仕事っすね」

「ああ。だが、一つ、注意事項がある」

「何すか?」

「解体地点の稜線。その稜線は危険度ZとCに挟まれている。Z指定の方は恐らく興味の湧く場所だろうが……間違っても踏み入るな。特にズン爺」

 カズン御指名で注意喚起をするオルホエイ。

 全員がカズンに注目した。

「なんじゃ急に。儂がか? 何処だそれは」

 アズリも気になった。カズンを見ていた全員が再度オルホエイへ顔を向ける。

「……”空船墓場”だ」

お……遅くなりました。一か月以上も更新出来ませんでした。

本当すみません。生きてました。やたらと忙しいです。現在進行形で。

掃除は無心になれます。狂いそうな精神を、そこで安定させてます。

今回も読んで頂きありがとうございます。

続きますので、明日も投稿します。

次回もよろしくお願いします。

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