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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード4】 一章 迷いの糸廊
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迷いの糸廊【2】

 【ダニーの家】で大勢の子供達と食事をしていると”家に帰って来た”と実感する。【ダニーの家】で過ごす皆は、アズリにとって家族なのだ。

 そんな家族の元へマツリと共に尋ねたアズリ。だが、今回は二人だけでなく珍しいゲストを二人も連れて来た。


「船掘業辞めて【ニア】と孤児院(ここ)で働けば良いと思うわ」

 リビの様子を見つつ、呆れ顔でレティーアが言う。

「私もそう思う」

 アズリもレティーア同様、リビの様子を見ながら答えた。

 少し早い夕食となった食卓は一か所だけ無法地帯となっている。

 【ダニーの家】のテーブルは三つある。一つはダニルとユンゾ派の子供達がそこそこ静かに且つ、二人に甘えつつ食事をする小テーブル。二つ目は年長組が静かな年少の子供達の面倒を見ながら食事をする中テーブル。そして、言う事を聞かないやんちゃグループを一か所にまとめた大テーブル。その大テーブルはカナリエとエイミューラとタタラが担当しており、相変わらず忙しそうに手を焼いている。

 

 だがしかし、今回はそのテーブルにリビが居て、ほんの少しだがカナリエ達の心の余裕を作っていた。

「ん? どうした。飽きたのか? でも食べなきゃ大きくなれないぞ」

 食べ物で遊び始めた女の子に声をかけるリビ。自分のフォークで野菜を取って「ほら、あ~ん」と女の子の口へそれを運ぶ。すると直ぐに長い髪を掴まれて逆隣の男の子に呼ばれ「どうした足りないのか? よし、お姉ちゃんのをやろう」と自分の食事を分けてあげる。

 そんなリビの様子を伺うアズリとレティーアは中テーブルで静かな子達の面倒をみている。


「天職って感じしない?」

 と、レティーアに問われ「うん。孤児院に欲しい」とアズリは答えた。

 怒って躾けようとするカナリエとエイミューラ。常に笑顔で優しく躾けるタタラ。そして純粋に楽しんでいるリビ。

 リビはマツリやティニャに妙に優しい。子供が好きなのか可愛い存在全てが好きなのか。

 ……きっと、後者だろうとアズリは思う。

 菓子作りが趣味だし、嫌々言いながらも【ニア】の超絶可愛い制服を着るし、子供も好き。口が悪くて手が早いのは、それらを誤魔化す為なのかもしれない。


「私は初めてじゃないけど、リビは今回来るのが初めてだもんね。あの様子だと今後個人的に通うと思うわよ。お手製ケーキ持参で」

「だとしたら皆喜ぶと思うし、いい事じゃないかな」

「子供が子供をあやしてるみたいで変な感じだけどね」

「おいっそこ! 聞こえてるぞ」

「はいはい、ごめんねー」

 ギッと睨むリビに、適当な謝罪をするレティーア。普通はこの後も言い争いは続くが、今回は「ちっ。覚えてろよ」と言っただけでリビが素直に引いた。

 背の小さいリビが子供達と共にいると、違和感無く溶け込んでしまう。

 レティーアの意見に同意したのは心に留めておく事とする。


「それにしても、相変わらず凄いと思うわ。子供達、絶対わざとやってるでしょ」

「何が?」

「全裸ダッシュ」

「ああ……。たぶんそうだと思う。困らせたいんじゃないかな」

 最近は子供達のシャワーをタタラが担当している。だが今夜は、孤児院に初めて顔を出したリビが、勢い余ってタタラと共に参加し、常識外の状況に困惑する事となった。

 殆ど毎日行われるシャワー後のいたずら。床をびちゃびちゃに濡らす行為はもはや諦めの境地に達し、カナリエもエイミューラもユンゾも何も言わなくなった。そんないたずらを、タタラは自身が全裸であってもお構いなしで追いかけて連れ戻す。今回もまたそれが発生し、リビが嘘だろ……、と言わんばかりに目を見開いたままシャワー室の影から顔だけを出していた。

 大人であるダニルやユンゾが居てもお構いなしのタタラと、それに一切動じない孤児院の皆の姿を見たら普通は驚く。レティーアが初めて来た時はエイミューラが追いかけていて、その時も「噓でしょ」と驚いていた。


 そんな環境で数年過ごしたアズリは、誰かに下着程度見られた所で動じないし、気にしない。でも船内で孤児院以外の人達と過ごす機会も多くなり、最近はそれが少しズレている感覚なのだと自覚し始めた。

 ただ、普通は違うと理解しただけで自身の感覚としては今の所変わりはない。

「タタラさんの馴染みっぷりも凄いわね。まだひと月程度でしょ?」

「最初は私もびっくりしたよ。仕事始めて四、五日くらいで全裸ダッシュだもん。みんなに懐かれてるから安心して任せられるってカナ姐が言ってたし、私も今じゃ凄く信頼してる」

「船掘の給料も殆ど孤児院に入れてるんでしょ? ……凄すぎ」

「……だね」

 出来る事なら自分もそうしたいと思っているが、マツリの薬代がある為難しい。

 因みにマツリはユンゾ達のテーブルで平和に食事をとっている。


「給料で思い出したけど、ルマーナさん達はボーナスと別に貰ったりするの?」

「しないって。自分達がみつけた物だけって限定。だから七割なんだって」

「それって破格に思えて、むしろ難しくない?」

「探索して最初に遺物船見つければ、その中身も含めて七割。解体と輸送はこっち持ちだから、経費を考えれば丸儲けみたいなレベルだって。でも、見つければ……の話だから、何も収穫ないとタダ働き。私もちょっと難しい条件だと思ってる」

「本当は報酬度外視で、他に乗る理由あるんじゃない?」

「……かもね」

「だいたい予想はつくけどさ」

 予想とはロクセの事だろう。

 ロクセが乗船するかどうか確認するくらいなのだ。目的はそこだと思う。

 レティーアも二人の関係を知っているのだから、容易に察している様子。


「あ、そういえば船室ってどうするんだろ。ティニャちゃんも来るんでしょ?」

「多分だけど、ルマーナさんはタタラさんと同室。キエルドさんレッチョさんは空いてる二人部屋に。ティニャちゃんはどこだろ」

 ルマーナは、現在二人部屋を一人で使用するタタラと同室となる。空いている二人部屋にキエルドとレッチョが仲良く入る。それはほぼ確定だと思うが、ティニャはどうするのか……。

「リビ小さいからベッドで二人寝れるんじゃない?」

「俺は構わないぞ。むしろそうしろ」

 子供の世話をしつつ、こちらに耳を傾けているリビ。

「私達が決める事じゃないでしょ。いいからそっちに集中してなさいよ」

「お前の声がでかいから聞こえるんだよっ」

「あんたに言われたくないわ」

 舌打ちして子供の世話に戻ったリビ。声の大きさに関しては圧倒的にリビの方が大きい。その辺は理解しているようで、反論しなかった。


「まぁともかく、ティニャちゃんは誰かの部屋に行くでしょうね。リビか私達の所か……。フィリとルリンの部屋はないでしょうけど」

 フィリッパとルリンの部屋は足の踏み場も無い事で有名。本やら機械やらの私物が多く、ひたすらに散らかっている汚部屋なのだ。カナリエやアマネルから何度も怒られているが、片付ける様子は一切ない。

 となれば、彼女達以外の女子部屋に来る事になる。リビと同室で、リビのベッドに一緒に寝るとなれば、恐らく、その間のリビは毎日ご機嫌だろう。

 寝相が酷いミラナナを蹴って「お前は床で寝ろ」とか言いだし、ミラナナのベッドをティニャにあてがう可能性もあるが。


「だね。あの部屋足の踏み場も無いし」

「あ、フィリの部屋(それ)で思い出したけど、あの古代じ……ロクセの部屋だけどさ、何あれ。でっかい荷物増えてるんだけど」

「基本誰も覗かないから……いつの間にって感じだったね」

「あの黒い箱みたいなの。一回り大きいのがもう一つって……何処から手に入れたのか、いつ運んだのか謎。船長超怒ってたわよ。倉庫だからそこそこ広いのに、あんなの増えたんじゃ、あっという間に狭くなるわ」

 ロクセの部屋は貨物室に繋がる空き倉庫を利用している。絶対に必要だと言い張った私物がかなり大きくて、置く場所が無い為、無理やりそこを部屋としてあてがわれた。とはいえ、当時は空き部屋が無かったのも原因だが。

 ロクセの私室倉庫には簡素なパイプベッドが一つと小さな机が一つ。あとは服をかけるハンガーパイプが部屋の隅にぽつんと置かれている。私物の量は少なくて質素感この上ないが、部屋の奥に何の道具かも分からない黒い塊を持ち込んでいる。

 皆、余計な詮索はせずに無視していたが、いつの間にかソレが二つに増え、そこそこ広い部屋を圧迫していた。


 見つけたのはアズリだった。

 ロクセに貰ったスピースリーという謎の道具の使い方を再度確認したくて、滅多に訪れないロクセの部屋へと足を運んだ。

 部屋を覗いた瞬間「なんか増えてるっ」と叫んでしまい、ロクセは「必要なものですが、置くところがここしかなくて……」と申し訳なさそうにしていた。

 変な荷物を増やした事実はオルホエイもアマネルも知る事となり、「これが何なのか知らんが、下手に遺物を持ってるとこっちがヤバいんだっ」とか「何処から手に入れて何時(いつ)運んだんだっ」等と怒鳴っていた。

 結局うやむやになった感じだが、スピースリーという理解を越えた道具を持っていた古代人(ロクセ)なのだから、黒い塊も何か凄い道具なのかもしれない。


「何考えてるか分からないんだよね。あの人。元軍人だから色々凄いし、これからも【ルマーナの店】に連れて行って貰えるのは嬉しいけどさ。ホント、謎」

 レティーアの意見には同意出来た。

 考え込むと無口になって自分の世界に入る彼。

 何度もそんな場面を見て来ているが、確かに何を考えているのか分からない時がある。逆に、手に取るように思考を読める時もある。特にルマーナ関連の時。

「私達とは違うんだし、仕方ないよ」

「まぁそうだけどね」

 そんな身内話をしつつ、孤児院の夕食を楽しんだ。

 片付けが終わり、眠そうな子が出始めた頃に解散となった。

 帰り際リビは「今度来る時はうめぇケーキ持って来るから楽しみにな」と、レティーアを意識しながら言っていた。

 食事をご馳走になる礼として、レティーアは菓子を、リビは【ニア】から貰った大量のお古のスプーンとフォークを土産として持参して来た。

 子供達が喜んだのは勿論、レティーアの菓子の方。

 リビは悔しそうにしていて「俺もそっちにすべきだったか。くそっ」とぼやいていた。

 今後は本当にお手製ケーキ持参で遊びに来るだろう。

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