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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
幕間
158/172

お花畑の真ん中【1】

 三十年程度生きて来て、恋した人数は……覚えていない。

 ルマーナにとって恋とは趣味であり、愛を追う事が日常だった。

 昔から片思いだけをひたすらに続けている。両想いだと感じた事は今まで一切無く、実際、そんな体験をしたためしも無かった。

 

 小さい頃は、好きな男の子を陰ながら見守る、という尾行を時間の許す限り行い、両親にいつも叱られていた。

 ロンライン二番通りで仕事をするようになってからは【ルマーナの店】の店内で好きな男と二人の時間を満喫するのが唯一の楽しみだった。勿論、こちらから誘っているのだから、全額無料であり時折土産も渡す。好きな男からプレゼントを貰う……なんて素晴らしい出来事は無くとも、自分自身が満足出来ればそれでいいと思っていた。


 ”男にいいように使われている”……これが現実。

 ルマーナ自身、それは察していて、最後の砦である体だけは絶対に許さなかった。

 男関係全てが、いつもこんな感じ。

 

 唯一例外があるならばオルホエイを好きだった時だけ。

 リンダが経営するバーに出没するオルホエイを狙って、ルマーナも幾度となく顔を出した。飲み代は常に、お互い自分の飲んだ分だけ。プレゼントを貰った事は無いが、高い酒を一本奢って貰った事がある。旨い酒と料理を堪能するだけの男達と違って、オルホエイは互いを尊重し合う大人の付き合いをしてくれた。

「それ、知り合いと飲んでるってだけでさ。感覚的に」

 と、レッチョに言われた事がある。

 ただの知り合いとして酒に付き合ってくれている。一方的な片思いで、勝手に嬉しくなっているだけ。

 ……言われなくても分かっている。

 

 だが、それで良かった。

 自分の店から遠く離れた別の店で飲む、という行為だけでデート気分を味わえたから。

 彼が既婚者と知るまではその片思いを続け、良い思い出を作って貰った。

 あとになってから、実は随分前に妻を亡くしていた、という事実を知る。

 これをチャンスと取るか否か。

 ルマーナは後者だった。

 相手の寂しさに付け込んで……という低俗な恋はしたくなかったから。よって、彼の事は諦めた。

 

 それ以外は結局、いつも通り似た様な性格の男ばかりを好きになる。

 というか、皆、似た様な性格になる。

 こちらが懸命に尽くせば、自動的にやって来る豪華な生活に皆どっぷりと浸かってしまうのだ。

「男運ないですね」

 と、キエルドに言われた事がある。

 ……言われなくても分かっている。

 

 ……が、今回は違った。

 タワーロックで命を助けて貰った時、ビビッと来た。

 普通の男達……否、普通の人とは何かが違うロクセ。

 直観的にそう感じ、運命すらも感じた。

 【ルマーナの店】に呼び、様子を伺うが、ここでもまた普通の男と違う行動を示す彼。

 招待された礼として服をプレゼントしてくるし、下着まで贈るという変態的な”好意”を見せた。

 サラ曰く、これは特殊なプレイとの事。

 これは紛れも無く両想いなのでは? という結論に至る。

 が、冷静に考えるとそれは少し浅はか、とルマーナは思う。

 こちらが勝手に判断しているだけで、相手の気持ちはまだ分からない。とはいえ、両想いでなくとも、幾ばくかの愛情は感じている。

 その理由は店に顔を出す度に花束を持参してくるから。


「店の玄関にでも飾ってくれ」

 今までの男は土産持参で来店した事がない。花束持参は彼だけ。

 当然、花は自分の部屋に飾る。店の玄関になぞ飾るわけがない。

 初来店から数えて三度しか来店していないが、出来るだけ長持ちするように管理させている為、今でもロクセの花は部屋を彩っている。

 彼は同じ商会のアズリやレティーア、ザッカやメンノの内、誰かを必ず連れて来る。

 その行為はきっと、一人で来るのが恥ずかしいからだろう。又は自身の好意を知られないようにする術か。

 どちらにしても、今までの男とは全く違う行動を見せてくる。

 そして今日、信じられない事態が起きていた。

 

 それはデート。


 未だかつて、好きな男とデートといえるデートなんてした事がない。

 デートとなった経緯はこう。

 今朝、朝早くにロクセが”一人で”店に顔を出した。

 怪我はどうだ? 船は修理に出したのか? 等と様子を伺いに来た。

 それだけでも嬉しかったが、なんという事か、一緒にバイドンの元へ付き合うと言って来た。

 まだネードに滞在していた時、義手の件で軽い世間話をした。その際、互いにバイドンとは知人であることを知った。

 それによる派生。

 ロクセもバイドンに会う予定があり、ついでだから一緒にどうだ? という事態になったという訳だ。


「ほ、他にも行きたい所あるんだけど。それも付き合って貰える?」

 と、本当は何の予定もないが、勇気を出して嘘をついた。すると、

「ああ、構わない。俺もジャンク通りを見て回る予定だったしな」

 と、彼は即答した。

 そんな経緯で、初デートをゲットした。

 心中舞い上がり過ぎて、少し漏らした。

 着替える前で良かった……と思った。

 

 ロクセを丁重にもてなし、準備が整うまで待って貰う。

 その間に急いで仕度をした。夜通し仕事をしていたのにも関わらず、まだ自宅へ帰っていなかったルミネを呼んで速攻で仕上げた。

 化粧は自分で。髪はルミネに仕上げて貰った。化粧しつつ、デートプランをうんうん悩んだ。結局何も思い浮かばなかった。

 服と下着には迷わなかった。初めて彼からプレゼントされた一式を着たから。

 と、いうことで今に至る。


 ルマーナは鼻血と尿漏れに似た何かを我慢しつつロクセの隣を歩いている。

 ロクセはいつもと変わらない表情で、しかしチラチラと出店や店先の商品を吟味しながら歩いている。

 ジャンク通りもいつもと変わらない盛況ぶりで、機械が好きな男達が暇を持て余すようにぶらついていた。商店街と比べると若干重い雰囲気を出すジャンク通りだが、旨い店や雰囲気の良い喫茶店が意外と多く存在する。それを求め、女性達も一人、もしくはグループを成して歩いていた。

 ルマーナはチラリととある建物の二階を見た。

 ガラス張りの店内が良く見えた。窓際にパームの姿が見えた。恐らく彼女と一緒にティニャがいる。

 デートどうでした? 等と後でしつこく聞かれるだろうと思いつつ目を逸らし、デートに集中する。

 

 会話は無かった。

 こちらから何を話せば良いか分からず、終始無言で歩いた。飲みの席とは明らかに空気が違った。正直言って……今の方が良い。

 ロクセは無言の空気を気にしている風では無く、むしろナチュラル。

 そんな彼と一緒に歩いているだけですこぶる楽しい。

 人混みを避ける為、時折彼にぶつかった。手が触れたり、肩が触れたりする程度でも、心中ギャーギャーと叫んでいた。

 あばらが傷む……が、気にならない。あばら程度でデートを失う訳にはいかない。


 そんなこんなで、いつの間にかバイドンの店へ辿り着いた。

 術後の腕を見せて、今後の義手について話し合った。その間、ロクセは様々な仕様の義肢達を眺めていた。

 ルマーナの私用が終わると、今度はロクセの番。ロクセは一枚の紙きれを渡しただけで終わった。

「それだけ?」

 聞くと「ああ。後はフリーだ。何処へ行きたいんだ? 付き合うぞ」と答えた。

 まだ昼前。時間はたっぷりある。

「ああ……えっと……そうだね……」

 言葉に詰まり、悩んでしまった。何も考えていないのだから当然。

 ロクセが訝しげな視線を向けて来た。

 ヤバい……デートが終わる……と密かに切羽詰まる。

 すると、こちらを観察していたバイドンが「東商店街とジャンク通りの間に新しい店がポツポツ出来たんだ。結構面白い物扱ってるらしいからな。行ってみたらどうだ?」と、アドバイスをくれた。

「へ、へぇ~。そりゃ気になるね」

「ん? 行きたいところがあるんだろ?」

「そ、そうだね……そうなんだけど、またの機会でいいかなって思ってね。バイドンの話も面白そうだし、そっちに行ってみない?」

「君がそれで良いのなら構わないが……」

「じゃあ、そうしましょ」

 バイドンが小さくウインクした。

 ルマーナは「義手、仕上がったら連絡ちょうだい。ありがとね。感謝するよ」と、さりげなく”アドバイス”への感謝を述べて店を出た。


 中級街には東西と中央の三つの商店街がある。東商店街はジャンク通りから歩くには少し遠いが、二人の時間を満喫するには最高の距離と言えた。

 歩いていると、ロンライン二番通りで働く女達とちょくちょくすれ違った。

 皆、声を出さずに「頑張ってください」と伝えて来たり、すれ違いざま小さく手を振ったり会釈したりしてくる。

 気を使っているのが分かった。

 ルマーナはその都度目線だけで答えた。

「ルマーナ様じゃないですか」

 そんな女達がいる中、声をかけてくる娘がいた。

「ステイラじゃない。何か用?」 

 二番通りの中間辺りにある店【ビッグバルーン】で働くステイラだった。

 ロンライン二番通りで働く娘達の名前は殆ど知っている。ステイラはそんな娘達の中で、悪い意味で印象深い娘だ。


 ”性的に誘惑する強引な客引き”は禁止になっている二番通り。

 様々なルールがある中、ステイラはその禁止事項を何度も破っている。

 罰として行う数日間のロンライン出禁は、稼ぎたい娘達にとってかなりの痛手になる。

 その罰を何度も受ければ普通は懲りるものだが、彼女はまったく懲りずに再犯する。いや、聞くところによると結構凹んでいる……と言う話だが、再犯してしまう。

 彼女の家庭環境を鑑みれば致し方ない……と理解しているし、出禁の日数も出来る限り少なくしているが、やはり周囲への示しの方が大事。その辺りをいい加減理解して、普通に接客して欲しいといつも思う。


「今忙しいんだけど」

「ああ~確かに忙しいみたいですね」

 チラッとロクセを見ながら彼女は答えた。

「どうも」

 顔見知りに挨拶するかのようにロクセが会釈した。

「ステイラ、彼と知り合いなのかい?」

「う~ん。まぁ。でも、ちょっとだけ立ち話した程度ですけどね」


 ここでハッと気がついた。

 この娘はいつもの強引な客引きを、彼……ロクセに行ったのではないのか⁈ と。ベタベタ引っ付いて、大きな胸で誘惑したのではないのか⁈ と。

 気づいた瞬間、怒りが込み上げて来た。

 いつも気遣ってやっているのに、まさか愛する彼にまで……という怒りが顔を痙攣させる。否、嫉妬か。

「そ、そう。でも彼と話すのは次の機会にしてちょうだい。今は遠慮して」

「ん? ルマーナ、君に声をかけて来たんだ。俺じゃないだろ?」

「そうですよ~ルマーナ様」

「……」

 恥ずかしかった。

 嫉妬は勘違いすら発生させるものなのか。


「……で、何?」 

 軽く咳払いをした後、気まずさを隠すように尋ねた。

「この先に出来たお店見るのって、ルマーナ様は初ですか? っていうか初ですよね? この辺普段歩かないですし」

 何故知っている? と一瞬思ったが、知ってて当然か……と思い直す。

 ルマーナの行動範囲は、基本上級街と中級街の一部とロンラインに限定される。ジャンク通りを歩くのは実は比較的珍しい事だし、ジャンク通りの先にある船掘商会の事務所へ行く際は、車を使う場合が多い。


「ま、まぁね。面白い店が出来たって聞いたからね。ちょっと気になったのさ」

「そうなんですね。じゃあ、お勧めを二店ほど」

「え?」

「この先の角を曲がると、作業服用のインナーを売ってるお店があります。結構物が良くて評判ですよ。あとその向かいに裏市レベルの掘り出し物が売ってるお店があるんです。アクセとか色々置いてあって、見るだけでも結構楽しいです」

「インナーの店はともかく、その掘り出し物の店、堂々としてるみたいだけど大丈夫?」

「店内にある物はギリギリの範囲ですけど問題ないです。ですので、合言葉”綺麗な奥さんですね”が必要です。そうすると奥の部屋へ通されます。店主結婚してないですけどね」

「ああ……それ系の店ね」


 そう。この手の店は意外と多い。

 上の連中は黙認しているが……やりすぎると潰される。

 かなり前にワンロンという老人が経営する店が潰されたと聞いた。レッチョが通っていた店だった為、噂程度には知っている。


「……ほう、面白い」

 ロクセが食いついた。

 彼が興味をそそられるのなら良い。

「ジャンク通りの路地には幾らかあるの。店によって合言葉違うから、知る為には店主に信頼される必要があるけどね」

 と、ステイラ。

 その知識は男絡みだろうな、と思った。

「なるほど。それは知らなかった」

 軽く頷くロクセ。

「じゃぁ、そこ行く?」

「いいのか?」

「ええ」

 好きな男が興味を持つ店へ。それは同時に自分の興味となる。

 好きな男が喜ぶのならば、それだけで満足出来る。


「ありがとうね。助かったよ」

「いえいえ~」

 ルマーナが礼を言うと、会釈だけしたロクセは一足先に立ち去った。

 後を追ってルマーナも立ち去ろうとした時「ルマーナ様、ちょっと」と袖を引っ張られた。そしてひそひそ話の体勢を取らされた。

「インナーのお店も実は合言葉あるんです」

「え?」

 服を取り扱う店はまっとうな店ばかり。合言葉なんて必要なのだろうか。

「合言葉は”お花畑の真ん中”です」

「……なにそれ」

「下着売ってくれます」

「インナーのお店でしょ? 当たり前じゃない」

「下着とは思えないくらいのエッロいのを売ってくれますよ。使うタイミングは限定されますけど物は良いですし、リーズナブルなんです。私、そこの常連なんですよ」

 

 良く見ると紙袋を一つ持っているステイラ。

「……買ったの?」

「買いました」

「彼氏の趣味?」

「私の趣味です」

 ニッと笑うステイラ。

 チラッとロクセを見ると、彼はこちらを気にする様子も無く歩いている。

「行くかどうかは別として……そうだね……必要な時は利用するよ」

「是非に」

「ところでステイラ」

「はい?」

「強引な客引きは禁止してるんだ。ロンライン二(ウチ)番通りのルールは守りな」

 言うとビクッと畏縮したステイラ。

 やはり、罰は効いているようだ。

 とはいえ、良い情報を聞いたのだ。ここは等価交換とする。

「……()()()()()……ね」

「はい。ありがとうございます。()()()()()がんばります」

「じゃ、またね」

 がんばりますと言っても、何処まで信用できるのか……。

 彼女の事だ、ほんのちょっとだけ善処します……程度だろう。

 なんて考えていても仕方がない。それよりも店の方が気になる。


 ルマーナは急ぎ足でロクセを追った。

 二人並んで角を曲がると、薄汚れたショーウィンドーの目立つ店があった。その向かいには店かどうかも怪しいボロボロの看板を掲げた店があった。

 ショーウインドー側が作業服用のインナー店で、怪しい方が裏市モドキの店だと分かった。

 ロクセは真っすぐ怪しい店の方へ歩いていく。その間、ルマーナはインナー店への誘い文句を考えていた。


――どうやって誘えばいい? ああ、こんな時サラが居てくれたら。とにかく、どうにかしてあっちのお店に……。か、彼の好みを……聞き出して……。そして……。


 インナー店へ引っ張って行き、合言葉を使ってお得意様用の品を見せて貰う。そして、彼に……選んでもらう。

 考えただけでゾクゾクした。

 サラの言うプレイ。

 好きな人が選んだ物、もしくはプレゼントした物を身に着けるプレイ。否、身に着けさせるプレイ。

 そんなプレイあるのか⁈ と未だに若干疑問を持っているが、仮にあったとすれば、それはそれで支配されているようでゾクゾクする。

 そもそも初プレゼントで下着を贈る人なのだ。あり得る。

 サラが居ない今、ここはストレートに自分の意思を伝えるべきだろう。


「ね、ねぇ」

 ロクセは店の扉に手をかけたまま「ん?」と振り向いた。

「あたい、あっちの店に行きたいんだけど。あ、後からでいいから」

「ああ。わかった。付き合おう」

「え、選んで貰いたいんだけど」

「よろこんで」


――は? えっ? 即答⁈


 まさか、女の下着選びに即答するとは思わなかった。

 男物も女物も取り扱っている店のようだし、男が来店しても違和感はない。だが”私の下着を選んで欲しい”なんて願い、恋人同士でなければ聞き入れて貰える訳がない。そもそもそんな願い、恋人同士でなければ言えないが……。

 ともかくあっさりと、彼は了承した。


――ちょ、ちょま……。ほんと? 本当に?


「本当に……い、いいの?」

 声に出てしまった。

「ん? ああ。問題ない。っとすまん。先にそっちの店に行くべきだったか。君に付き合うと言ったんだ。そっちの用事を優先しよう」

 言って、ロクセはインナー店の方へ踵を返した。すると、

「そうだ。渡す物があった」

 そう言って、ポケットからくしゃくしゃになった小さな紙袋を出した。

「それは?」

「まぁ、日頃の礼って奴だな。後は……見舞いみたいなものか。いや、違うな。まぁいい。受け取ってくれ」

 ルマーナは震える手を限界まで抑え、ポーカーフェイスを作った。

 一度受け取ったが、片手で開ける事は出来ない。

「開けて」

「おっと、そうだったな。すまん」

 戻された袋を彼が開ける。

 中から綺麗に梱包された長方形の箱が出て来た。

 明らかにプレゼント使用の箱だった。

 道のど真ん中で渡すのはいかがなものか。だが、そんな事はどうでもいい。

 好きな人からの二度目のプレゼント。今までの男とは、本当に、全然、まったく違う。


「破かないで。丁寧にお願い」

「む? ……分かった」

 リボンを解いて、丁寧に包を開くロクセ。

 包装紙を破かない理由は簡単。その包みすらも宝物にしたいから。

 箱を開け、差し出すように中身を見せて来た。

 ルマーナはそれを手に取った。

 箱の中身はネックレスだった。やや大ぶりのチャーム。デザインはロンライン二番通りのマークを模った物。チェーンはシンプルだが、エンドパーツは細かい細工が施されていて綺麗だった。

「これを……あたいに?」

「ああ。気に入って貰えると助かる。いや、常に身に着けていてくれ」

 嬉しかった。

 嬉しすぎて泣き崩れそうだった。

 ガチガチと口が震えた。

 泣くのを堪え、息が止まる。興奮し、血圧が上がる。

 無理矢理息を吸おうとして、ふぐぅふぐぅと鼻息が荒くなった。

「ど、どうした? 大丈夫か?」

 心配そうにロクセが顔を覗いて来る。

「だ、大丈ぶひっ」

 ぶひっと鼻血が少し漏れた。

「ちょ、おいおい」

 ロクセに抱えられて、店内に入り、暫く休む事となった。


 鼻血をふき取って少し落ち着いてから例の合言葉を使い、奥の部屋に通される。

 彼は真剣に、真摯に、選んでくれた。

 彼は初プレゼントで下着を贈る人。しかも今、自分好みの下着を選び、身に着けさせようとしている。

 サラの言った事は本当なのかもしれない。

 選んでくれた下着と彼の顔を交互に見る。……それだけで興奮出来た。

 すると彼はスッと会計に割込み、支払ってくれた。

 彼が買ってくれた下着は、股の……クロッチ部分がパックリと割れる花柄のショーツと、それに合わせたブラだった。


 ”お花畑の真ん中”


 良い合言葉だと感じた。

 勿論、この店はお気に入り登録された。

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