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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【17】

 死体となったドナヴナを茫然と見つめながら「参ったなこりゃ……」と六瀬は独り言ちた。

 通常のACSと同じく、素体状況やACS管理データをユニットへ送っている事は知っていた。だが、頭の中に爆弾を仕込まれている事までは予測していなかった。

 熱反応やスキャンでもすれば良かったのに、そこを怠ったのは自身の不徳の致すところだと反省した。だがしかし、知った所でどうする事も出来なかった。頭をくり抜いて取り出す訳にもいかないし、そもそも通信妨害装置を持って来ていないのだ。仕方がないと諦めるしかなかった。


 六瀬はしばらくの間ACSモドキを観察し、念の為送信機と思しき場所を壊した。そして飽きが来た頃「もう終わったぞ。出て来てくれ」と適当に叫んだ。

 すると、数体の怪魚がどこからともなく現れ、六瀬を囲む様に集まった。

「お前の戦いはみていた」

 一番体の大きい怪魚が声をかけてきた。この個体もまた、えげつない姿をしていた。

「途中からだろ? 手を出してくるんじゃないかと冷や冷やしたぞ」

「手、だしても足手まとい。そんな事はしない」

「それが賢明だ。でだ、それよりも申し訳ない話なんだが、こいつを生きたまま連れ帰れなくなった。恐らく多々良の……じゃないな、ウメの方も失敗した可能性が高い。で……どうする?」

 念の為、多々良とのパーソナル通信は切っている。よって、可能性という言葉を選んだが、ほぼ確実にあっちも失敗しているだろうと思っている。

 生きて連れ帰り、情報収集を行った後、怪魚達への土産にする予定だったがそれも叶わなくなった。


 怪魚達の望みは仲間を殺された恨みを晴らす事。

 死体を持って帰った所で、何の役にもたたないだろう……と思っていたが「持って行く。中身だけほしい」と怪魚は返答した。

「こんな奴でも弔うのか?」

「それはしない。これは人間じゃない。人間を捨てた別の物だ」

 ならばどういった事に使うのか……。

 考えても良いイメージが一切思い浮かばない。

 六瀬は「ま、どうするかは自由だ。これ以上は聞かないでおこう」と言って、考えるのをやめた。


「因みに、俺も人間じゃないぞ?」

 少し意地の悪い質問をしてみた。

「お前はお前という存在。ウメと一緒。別物」

 ハヴィと同じ、分かり切った答えが返ってきた。

 怪魚には差別という概念が殆ど無いのかもしれない。一応、似た様な外見の者達で家族を形成しているが、基本的には全てが家族なのだろう。

 驚くくらいに多種多様な個体で存在しているのにも関わらず、同じ腹から生まれる家族。差別なんてそもそも論外なのだろう。

 仮に差別があったとしても、それは恐らく敵か味方か善か悪かの判断によるものだけ。

 もしくは女王の意志の元、判断を下すのか。

 等と考え、六瀬は沈黙した。


「どうした?」

「ん? ああ、すまん。とにかくまぁ、そう思ってくれるなら幸いだな。さて、女王の元へ戻るとしよう。手足がバラバラになってしまったからな。運ぶのを手伝ってくれるか?」

「わかった」

 六瀬は胴体を担ぎ、怪魚達はそれぞれ手足を担いだ。

 残った怪魚は広場へ向かった。

 六瀬はふとルマーナを気にかけた。

 義手の接続部分が壊れ、恐らくあばらも折れている。あばら骨が折れた場合、息を吸うだけでも相当な痛みがある。それでも辛い顔をせずに戦い、そして仲間と共に全力で退避した。

 なんというか、強くて良い女だな、と素直に思った。





 

 広場に戻って来たルマーナは、ボロボロになってしまった愛船ラブリー☆ルマーナ号の甲板にいた。がに股で座り、女らしさを捨てた格好でライフラインに背を預けている。

「おい。いい加減医務室へ行け」

 オルホエイが半ば命令口調で言った。

「もう少し待ってちょうだい」

 じっと一点を見つめたままのルマーナはぶっきらぼうに答えた。

 見つめる先にはラパが居た。心配そうにしている仲間を無視して石の上に座っている。ピーヤは出血が止まらない為、他の仲間と共に何処かへ行ってしまった。集落があると言っていたから、きっとそこに向かったのだろう。

「ルマーナ様、ここは私達が」

「そうでさ、おいら達がいるでさ。早く診て貰った方がいいでさ」

 キエルドとレッチョまで医務室へ行けという。

 だが、断る。

 痛む体に鞭打ってでも仲間の連絡を待つラパ。彼を見ていると、自分もそうしなければならない、そうあるべきだ、という義務感が生まれる。

 腕には包帯が巻かれている。血が染みて、殆ど赤く染まっているが一応の応急処置は済んでいる。


「うるさいね。安心出来るまであたいはここから動かないよ」

「そうは言いますが……顔、真っ青ですよ」

 救急箱から新しい包帯を取り出すキエルド。何だかんだ言っても、ルマーナの意志を尊重する。キエルドは困り顔のまま黙って包帯を替え始めた。

「ありがとね」

「いえ……しかし、さっきの爆発音は一体……。あれ以来静かですが……」

「さぁね……」

 全力で走って広場に着いた時、大きな爆発音が聞こえ、少し地面が揺れた。急いで甲板へ行くと、遠くで土煙が舞っていた。そして直ぐに二度目の爆発音が聞こえた。二度目は何かが破裂したような音だった。

 その音を最後に、しんと静まり、かれこれ二十分は過ぎている。

 勝ったのか負けたのか……。

 恐らくきっと……前者だとルマーナは思う。


「いつの間にか怪魚も増えてるでさ。おいら達を守ろうとしてる意志が伝わるでさ」

 広場に着いた時、数体しか居なかった怪魚が何倍にも増えていた。全員がこの広場を守るように位置取っていた。

「いい奴らだよ。怪魚は」

「ですね」

 彼らとは今後も上手く付き合って行きたいとルマーナは思う。

 皆恐ろしい姿だが、それさえ受け入れられれば人間の良き隣人になるだろう。

「おい、ルマーナ、動きがあったぞ」

 オルホエイがひょいひょいと指差ししながら言った。

 数体の怪魚が現れ、他の者達と話している。すると直ぐにラパの隣に居た怪魚が歩いて来た。

「一体こっちへ来るぞ。本当に大丈夫なんだろうな」

「あたいを信じて。絶対に撃たないで」


 人間よりも手足の関節が多い個体だった。細く長い手足と、昆虫のような顔が目立つ。

 味方だと知らなければ絶対に撃ってしまう。

 もう少し警戒されない子を送ってよ、とルマーナは密かに思った。

 ラブリー☆ルマーナ号の真下まで来ると、その怪魚はぴょんと跳ねてライフラインに立った。

 仲間達は皆「うおっ」と驚き、銃口を向ける。同時にルマーナは「撃たないでっ」と叫んだ。

 流石は船長だけあって、オルホエイは微動だにせず怪魚を見つめていた。

「あなた、名前は?」

 名乗れば皆の警戒も落ち着くと考え、結果を聞く前に名前を聞いた。

「ヤンマよ。ごめんね驚かせちゃって」

 声の感じと口調から察するに、この怪魚も雌なのだろう。

 雌雄の判別が難しいのが怪魚の悪い所かもしれない、とふと思う。

「気にしないで、こっちこ……」

「あ~そのなんだ。ヤンマ……お前たちはその、本当に人間の味方なのか?」

 オルホエイが口を挟んだ。

 船長自ら会話に臨む姿勢は、皆の安心を産む。

 その意図と気持ちを汲んで、ルマーナは一度口を閉じた。


「ええ。そうよ。信じられないかもだけどね」

「人間以外に会話出来る生物がいるなんて知らなかった。狩猟商会でも知らないぞ。今まで何でコンタクトを取って来なかった」

「まだ早いって言われてたからよ。でも、この島に船が不時着するなんて事件初めてだし、今後またあるかな~って思ったけど多分無いだろうし、タイミング的に今かな~って。それに、お客様もいたしね。頃合いかな~って皆思ったの。母も了承してるし。いい機会かもね~」

 見た目に反してペラペラと楽し気に話すヤンマ。しかも、口調が若い。そして声が可愛い。整備士のフィリッパの口調を早口にした感じだろうか。

「今後はどうするつもりなんだ?」

「え? 分からない。わたしに聞かれてもね~。普通にお話出来ればいいってわたしは思うけど。でも、そんな事今はどうだっていいでしょ。後から考えようよ。わたしより頭いい子達いっぱいいるしね。そういうのは任せるつもり。それよりも、伝言伝えるのが先。その為に来たんだから。あ、そうそう、その銃下げてくれる? わたしこう見えて超弱いの。体硬そうに見えるでしょ? でもこれ柔いのよ。バーンって撃たれたら死んじゃう。びっくりでしょ? わたしもびっくり。もっと強靭な体にしてよ……って思った所で今更だけどね」

 ああ、そうか、この子を寄越したのはこの為か、とルマーナは察した。

 皆の強張りが薄れ、肩が下がっているのが分かった。彼女のこの口調と雰囲気が緊張をほぐしてくるのだ。


「すまんな。お前達、銃を下ろせ」

 オルホエイが指示すると、皆直ぐに銃を下ろした。

「ありがとね~。で、どうなったかって話だけど、黒い奴死んだっぽいからもう安心していいって。一応、船が飛べるようになるまでわたし達は待機してるから大丈夫。何かあったら知らせるから、後はのんびりやってて~だって。あ、そうそうルマーナさん」

「何?」

「今度ゆっくり遊びに来いって、ラパが言ってる。お互い怪我が治ったらな、だってさ」

「勿論よ。でも、こっちは船が直ったらってのも追加ね」

「了解。伝えとく。じゃね、またね」

 そう言うとヤンマはまたぴょんと跳ねて地面へ着地し、手を振りながら去って行った。


「……驚いたな。あんな見た目なのに殺意が感じられない。ギャップが凄すぎて笑い話にすらならんぞ」

 とオルホエイ。その言葉に皆も頷く。

「ちゃんと話すとね、いい子達だって分かる」

「……だとしてもだ、凶悪な怪物というイメージは根強くあるみたいだぞ。ネードでは特に」

「そうね。でも人間なんかよりずっと信頼出来るかもしれない。良い関係、築けたら……ってあたいは思う」

「今後、人間側がどれだけ歩み寄れるか……。全てはそこからだろう。信頼できる奴等だと個人がいくら叫ぼうとも大多数が否定してしまえば……そこで終わりだ」

「……そうならないで欲しい……ってのは、あたいの我儘かもね。……ああ、駄目。安心したらどっと来たよ。キエルド、レッチョ……後は頼んだよ」

 言ってルマーナは倒れた。

 新しく巻いて貰った包帯も既に赤く染まっていた。





 

 仮に中身が人間だったとしても、こんな戦い方が出来るだろうか……。

 反射神経は一体どうなっているのか。拳一つ振るっただけで鉄の塊を爆散させる。その破壊力は一体何処からくるのか。

 アズリは茫然とそんな事を考えながら二人の戦いを見守っていた。

 隣にいるレジェプーは「なんだありゃ……」と言っただけでそれ以降は無言だった。

 襲って来た黒い奴が一方的に追い詰められ、木の幹へ頭を叩きつけられてからボコボコに殴り散らかされた。顔面が歪に凹み、ひび割れる。そのひびから薄っすらと赤い血液が染み出ている。バラバラになった腕の付け根からも血が出ている。


――血……。やっぱり、中身があるのかも。もし、人だったら……。


 そう思うと何だか少し悲しくなった。

 船を襲い、ルマーナ達を酷い目に遭わせた。パウリナを苦しませた挙句、そのまま全員を殺そうとした。そんな凶悪な存在だが、一方的になぶられる姿を見ていると、目を覆いたくなった。

「……終わったか?」

 黄色い助っ人が殴るのをピタリとやめた。

「た、たぶん……」

 そしてじっと佇んだ後、ペペの様子を伺い始めた。

 漸く意識を取り戻したペペはふらつきながら体を起こし、木の幹へ体を預けた。

「ごほっ……。久しぶりですね……ウメ……」

 咳き込みながら挨拶するペペ。

 黄色い助っ人……否、ウメは無言で頷いた。

「私の事は心配しないで下さい。……ここは任せてウメはそいつを連れて行ってください」

 言うと直ぐに怪魚が増えた。のっぺりした仮面の様な顔の怪魚で、両腕が刃になっている。心配そうにペペに寄り添い、ウメへ顔を向けた。

 再度ウメは頷き、意思疎通をする。そしてこっちに顔を向けてもう一度頷いた。

 スピースリーを解除しても良いという意志表示だろう、と気づいた。

 アズリは壁を解除し、グローブの形へ戻した。


「そいつのおかげで助かった。ありがとう」

 レジェプーがグローブを見ながら言う。

「いえ、私も使うの初めてですから、びっくりしてます。あ、これの事は内緒にしておいてください」

「今日の事は話した所で誰も信じないだろうよ……。気が狂ったと思われるのがオチだ。俺はそんな馬鹿な真似はしない」

「……ありがとうございます」

 話している最中、敵の頭を掴んで引きずりながらウメは去っていった。

 何か声をかけるべきだと思ったが、何故か言葉が出なかった。

 

 パウリナを船へ運び、皆ほっと一息つく。会話もせずに暫くぼーっとしていたら、小型艇の飛行音が聞こえてきた。

 大きな木をなぎ倒す程の戦闘があったのだ。ミラナナ達が気づかない筈は無い。

 アズリは船から出て「おーい」と大きく手を振った。

 サイドハッチを開けて顔を出すメンノが見えた。

「おまっ! アズリ、何でお前がいる⁈」

 開口一番、予想通りのセリフを吐くメンノ。

 これから色々と誤魔化しつつ説明しなければならない。

 アズリは少し、面倒だなぁと思った。

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