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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【14】

 古代人の遺物。大陸中の至る所に落ちている遺物船。その中から見つかる宝。人類の祖先が作り出したものであり、未だおびただしい数の品が空の上で眠っている。

 機械や設備、武器や道具に関しては、今の人類が理解し、扱えるものは半分もないという。用途不明、又は修理不可能なものも多い。故に、見た事もない道具があった所で驚く事はない。

 だが、流石にこれは度を越えているとフォンは思う。


 これといって気になる所もない普通で地味な女。

 そんな地味ガキは、自身に似つかわしくない小奇麗なグローブを身に着けていた。

 殺してから土産に貰おうと思った程度だったが、そのグローブは小型の銃……のようなものに姿を変えて、ACSをいともたやすく撃ち抜いて来た。

 弾道は常軌を逸した曲がり方をして、狙ったであろう場所へ的確に着弾する。

 一発目は手首を貫通し、グラップルフィンガーの稼働に障害を出した。弾痕は二センチ程で、ピリッとした痛みも与えてきた。

 素直な感情は怒りだった。

 人間の、それも然程可愛くも無い地味ガキが、全てにおいて格上の私に傷をつける。舐めたまねをしてくれる。ウリオゲのような肉と内臓の塊にしてやる。

 そう思ったがしかし、一度大きく深呼吸して冷静になるよう努めた。


 格下の地味ガキとはいえ、強力な遺物を扱うのだ。下手な行動は自分の身を危険に晒す。

 銃の特徴は目標を指定した上で発射すると、指定した部位まで弾が追って来る事。鉛玉ではなく、純粋にネオイットを消費するレーザー弾である事。

 一度見れば誰でも分かる事だが、それ故に対処法も想定出来た。

 最大の利点である追尾は目標を指定しない限り発揮されない。むしろその利点を生かせなければ、弾速が遅くて人間ですらギリギリ避ける事の出来るゴミと化す。

 ならば、出来る限り目標指定をさせなければいい。翻弄し、正確な指定をさせなければいい。


 フォンは左右へ不規則に移動し、太いベーオの幹に隠れつつ徐々に距離を詰めた。

 女は視線を目まぐるしく動かし、焦っている様子をみせた。だが、直ぐにトリガーを引いて二発目を放った。

 フォンは咄嗟に両腕を重ねて頭部を守った。

 頭部と判断した理由は生物の基本的な弱点を狙っているだろうと予測したから。そして女と目が合ったような気がしたから。

 予測は当たっていた。太い腕を二本とも貫通した上で、頭の端を掠り、ベーオにも穴を開けた。

 立ち止まれば狙い撃ちにされると理解していたが、フォンはそのままの体勢で、得た情報を整理した。

 

 護身用と思われる小型の銃で、強力なレーザー弾を二発も撃った。であれば、普通に考えて残り二発か三発程度。もしかしたらもっと少ないかもしれない。無暗に連発は出来ないだろう。

 それとわざとらしい瞬き。素早く二回瞬きした後にトリガーを引いた。その瞬きが目標を決める決定指示なのかもしれない。

 瞬きだけで扱える銃。追尾型のレーザー弾。そしてその貫通力。

 フォンは考えを改めた。

 左右に揺さぶる程度では次は殺られるかもしれないと。

 

 ならば選択肢は二つ。同じ行動を繰り返し、弾が無くなるまで翻弄するか、イチかバチか一気に距離を詰めるか。

 安全なのは断然前者だが、フォンが選んだのは後者だった。

 相手は女。十五、六歳程度のガキ。故に銃を持つ手が少し震えている感じがする。だったら恐怖を与えてミスを誘う方が良いかもしれない。

 博打好きの性分では、やはり後者を選択してしまう。


 思うと同時に飛行システムを稼働させた。徐々に噴射を強くして、重力制御はオフのままにする。体勢をゆっくりと戻し、女を見た。驚いた顔のままキョロキョロと目を泳がせている。ただ焦っているだけに見えたが、何か違う。

 フォンは腰を落とし、重力制御をオンにする準備をした。

 とその時、女の銃がまたも変化した。今度は棒状だった。

 瞬間的に、これは……まずい……とフォンは思った。

 棒状の武器はどんな攻撃を仕掛けてくるのだろうか。正直想像もつかない。

 遊びながら一人ずつ始末して、それからゆっくりと目的を果たそうと思っていたが、そんな余裕は既に無い。一気に始末しなければ、謎の遺物でこちらが殺られる。


 フォンは即座に自身を軽くして、思いっきり地面を蹴った。

 飛行用の噴射の勢いと脚力を使って、驚異的な瞬発力とスピードを得る。

 相手との距離は五十メートルもない。三秒後にはブレードを振るって四人全員を真っ二つに出来る。がしかし、それは叶わず、気が付くとベーオをなぎ倒してその下敷きになっている自分が居た。


――イラつく……。何なのよ。あのガキ……。


 数日前、ネード海の島に遺物船が落ちたとの情報が入った。

 直ぐに船内確認と物資確保の命令が下り、先生が一番信頼をおいている部下が現場に向かった。

 結果として得る物は何も無かったが、一つだけ珍しい物を見つけたと報告があった。

 オーカッド空漁商会の青年。その青年の首から下がっていた物。それはベリテ鉱石を遥かに凌駕する珍しい石だったとの事。

 その青年の殺害と所持品の確保。招集があった日、フォンにその命が下った。

 遺物船回収はどこかの船掘商会が行い、現場への先導はオーカッド空漁商会が行う。現場へ向かうタイミングで船を襲い、青年を探し出して殺害。そして所持品の回収をする。少し面倒な仕事だったが命令は遂行しなくてはならない。

「面倒な仕事ね」

「報酬には色を付けますよ」

 愚痴る事を予想していた先生はそう即答し、報酬額が書かれた青年の写真を渡して来た。

 報酬額は毎日大好きな博打を打って過ごしたとしても、ひと月程度はそのまま遊んで暮らせる程だった。

 ドナヴナは「何か奢れよ」と言って羨んだ。

「あんたの態度次第ね。ま、サクッと終わらせてくるわ」

 そう軽口を叩いて得た成果は、失敗、だった。


 怪魚が邪魔をし、運悪くレインシャークが現れ、ガッバードにも襲われた。

 レインシャークの針はドナヴナのプレッシャーニードルよりも強力で、ACSの装甲を容易く砕いて来た。ガッバードはひたすらにウザったらしく、それ故に目標を逃がしてしまう。小型艇の墜落位置は確認出来たが、ACSの飛行システム、正確には噴射機構の破損により一時撤退の判断へと至る。

「まあまあ、そんな日もありますよ。急ぎ修理しますので、次は頑張って下さいね」

 先生は笑って許したが、その態度がむしろ気に入らなかった。

 そして修理後、再度仕事を行う。

 結果は青年だけを発見できず、且つ地味ガキの反撃に苛立っている状況。

 ここ数日、何もかもが上手く行かない。


――あんなの見た事ない。追尾型のレーザー銃だと思ったら今度は壁? どういう原理よ。意味が分からないわ。


 フォンは邪魔な木をひょいっと投げて、女の元へ向かった。

 青い半透明の壁を展開したまま、仲間内で何やら会話している様子。

 即座に銃へ変形させて狙い撃てばいいものを……馬鹿な奴らだ、とフォンは思う。だが同時に、もうそんな隙は与えないが、とも思う。 

 壁の前に立ち、数瞬観察した。

 ブレードと体がぶつかった辺りだけが揺らぎ、エネルギーと思しき光が集まってきている。

 ネオイットによる壁の展開と考えれば、光の集合イコール破損又は接触があった部位を一定強度に保つ作業、と思った所で差異は無い。ならば、そのエネルギーが枯渇するまで、修復作業を継続させてやればいい。

 そう判断したフォンはとにかく攻撃だけを繰り返した。

 女の持つ遺物は、一度に二つの事が出来ない。銃を扱うには、壁の展開を解除しなければならないだろうという判断。よって、適当に腕を振り回しているだけで十分。


――厄介だけど、かなり面白い遺物ね。銃なんだから銃器の類? でもこれって自身を守る壁……よね。道具……なの? ってどうだっていいわ。壁が消えたらこのガキの腕ごと貰っていくわ。高く売れそうだし。


 先生への土産、又は自身が使うという判断には至らない。

 金になりそうな物は全て換金し、遊びに使うのがフォンの価値観なのだ。


――それよりも隣の小さい子、良~く見たら……うん、かなり可愛いわね。びっくり。地味なこのガキと雲泥の差。私だったら並んで歩かないわ。そうだ、この子は連れて帰ってもいいかも。買い手は腐る程いるだろうし……絶対高く売れる。いいわね。そうしましょ。


 そう、金になりそうなものは、全て、金にする。


 さて、あとどれだけ維持できるだろうか。既に五分は経った。半分は消費しただろう。残り五分か十分か。

 フォンは適当にそんな事を考えつつ、高値で売れる戦利品が二つも手に入った事に密かに歓喜し、仕事への意欲と気分を乗せた。

 青年の居場所を聞いた後、気を失った女とそれを抱える男は頭を潰して仲良く殺す。地味ガキは腕を切り落とした後、足先から順に踏みつぶしてあげる。少女は小型艇に積んであったロープで縛って適当に放置しておき、その後ゆっくりと青年を探すことにする。勿論、寝ている怪魚にきちんと止めを刺した上で。

 等と今後の計画を立てた。


 ズドンと衝撃音が聞こえたのはそんな時だった。

 上空から見た事も無いACSを装備した第三者が落ちて来た。

 驚いたフォンは攻撃を止めた。


――誰? こいつ。


 飛行システムを持っている様子はなかった。なのに、落ちて来た。

 第三者は真っ直ぐ歩いてきて、途中で立ち止まり、側頭部をトントンと叩いた。


――仲間? 新入り?


 通信の要求は仲間である証拠。フォンは直ぐに繋げて「あんた誰?」と聞いた。

『……何してるの?』

 名乗らず、逆に質問で返す新入り。

「何って、仕事よ仕事。見りゃわかるでしょ」

『へぇ。それが……。いたぶるのが好きなの?』

「だったら何? あんたに関係あるの? それよりも名乗りなよ。あんた誰」

『……ウメ。あなたは?』

「フォンよ。ウメ、何しにここに来たか分からないけど邪魔しないで。それとも協力してくれる? 先生に言われて来たんでしょ?」

『怪我人が一人……あなたがやったの?』

「そうよ。殺しそこなったけどね。そうだ。協力してくれるなら、男を一人探してきて貰いたいわ。生きてる筈だけど、仮に何処かで死んでたら知らせて。私はこいつらの処理してるから」

『処理って?』

「処理は処理よ。生かしておけないでしょ。男が何処にいるか知ってる筈だけど、この状況じゃぁね。聞こうにも聞けない。少し時間がかかりそうだし、先に探してて貰えると助か……って、ちょっ! 何っ」

 最後まで聞かずに、何故か新入りが突進してきた。初動の無い異常な突進で、あっという間に眼前まで迫る。

 フォンは殴りかかる動作を視認して直ぐにガードしたが、簡単に殴り飛ばされ、先と同じくベーオを砕いて転がった。


――ふっ、ふざけんな! 何なのあいつ。仲間じゃないの? あーもうっ。イラつくっ。


 いい所で邪魔が入った。

 レインシャークの時といい、今といい、どうしてこうも邪魔ばかり入るのか。

 せっかく仕事への意欲を取り戻し、気持ち良くなってきたというのに、ふりだしに戻ってしまった。苛立ちがこめかみを痙攣させて、余計にストレスが溜まる。

 フォンはガードした腕を確認した。大きく凹んでいて、グラップルフィンガーの稼働が更に悪くなっている。

 

 スカイの攻撃手段は掴む、切る、以外に無い。先生曰く、高機動且つ飛行能力がある為、それ以外に余計な物を付けていないとの事。

 ドナヴナが持つプレッシャーニードルの様な奥の手も無く、ビルダーと比べたら戦闘能力はかなり低い。

 唯一奇襲に役立つものといえば、グラップルフィンガーを射出して遠くのものを掴み、一気に引き寄せる事が出来るという部分のみ。

 軽く故障していると思える状況で、何処まで役立つだろうか。

 残るはブレード。もうそれしか信頼できる攻撃手段が無い。


――でも相手の武器はナックルのみ。殴り合いがしたいなら付き合ってあげる。切り刻んでバラバラにしてやるわ。

 

 フォンは立ち上がりつつウメを観察した。やはり何処からどう見てもほぼ手ぶらで、ナックルのような物だけしか見えない。だが良く見てみると、両腕の甲の形が違う。


――いや……でも何か仕込んでそうね。


 ウメが仲間でないとすると、先生の部下でもないという事。であれば、何処のどいつだろうか。他の組織でもあるというのだろうか。何が目的なのだろうか。

 でも、そんな事、今はどうでも良い。敵対するのであれば、全ては敵なのだ。

 フォンは深呼吸して、相手を殺す事のみに集中した。

 

 無言で歩いて来るウメ。その余裕の態度は理解出来る。

 驚異的な瞬発力で突進し、パンチ一発でACSの装甲を凹ませた。それだけの事が出来るのだから、自信の源はそのパワー。百八十センチ程度の小柄な体の何処にそんなパワーがあるのか不思議だったが、ネタが分かれば怖くない。

 相手の得意とする戦法は自身の機動力を生かした突進と、その勢いに任せた強力な一撃。だが裏を返せばそれだけと言う事。突進という加速を付加した上で漸く装甲を凹ませるのだから、至近距離での殴り合いにおいてはその威力も半減する。ならば、そうするだけの事。

 そもそもこっちも高振動ブレードという斬撃が基本となる。故に否応なく、近距離戦になってしまう。となれば、軍配が上がるのは斬撃を持つ側。ナイフと素手の格闘戦のようなものなのだ。


――最初に狙うは……両腕か。腕が無けりゃただの鉄クズ。


 何か仕込んでいたとしても、切り落としてしまえば何の問題も無い。

 フォンは飛行システムを稼働させ、ゆっくりと横歩きを始めた。

 ウメは立ち止まり、様子を伺っている。

 近くに生えているベーオまで来ると、フォンはその太い幹に姿を隠した。そして一気に上空へ。ベーオの枝をバキバキと折りながら突っ込み、突き抜けると直ぐに下降する。着地目標はウメの目の前。相手に突進攻撃をさせず、こちらから距離を詰めるという算段だった。

 フォンは着地と同時にブレードを振るった。

 ウメは予測していたと言わんばかりに避けた。そして反撃をする。

 フォンはガードした。ガスンと衝撃は強かったが、予想通り大した威力ではなかった。フォンはニヤリと笑い、再度ブレードを振るう。勿論ウメはそれを避けて殴り返す。お互い一歩も引かず、それを繰り返した。


『……他には無いの?』

 そんな中、ウメが話かけてきた。

「あんたは何か隠してそうね」

『何も無いわ。武器はコレだけ』

 コレとはナックルの事だろう。

「嘘。他に何か仕込んでるでしょ」

『身を守る為の道具とあなたと遊ぶ為の道具だけよ』

 自らネタばらしするなんて馬鹿がする事だと思った。

 とはいえ、言葉の意味と用途が分からない。ならば、

「なら、見せてみなさいよっ」

 直接体験してみればいい。


 フォンはセリフと共に思いっきりブレードを振るった。すると滑るように弾き返された。一歩下がって手を止めると、ウメも同時に攻撃を止めた。

 ウメの腕に楕円形の盾があった。半透明の青い盾で、中央から外側に向かい光が波打っている。

「へ~。面白いの持ってるじゃない」

 地味ガキが展開した壁。それと良く似ていた。

 これも遺物の類だろう。

 素直に、欲しい……と思った。

『念の為だったけど、もう使わない。必要ないって分かったし』

 そう言って、盾を消すウメ。

「言うじゃない。永遠と避けるつもり?」

『そうね。でももうおしまい。ねぇ、あなたって怪魚嫌いなの?』

「何? 急に。嫌いもなにも、普通にうざったいでしょ。アイツら。気持ち悪いし」

『だから殺すの?』

「それ以外に何があるの……馬鹿なの?」

『……そう』

 呟くウメ。そして空を仰ぎ見て、ゆっくりと息を吸った。

 スピーカー越しに大きな溜息……否、深呼吸が響く。

 自身の気持ちを落ち着かせるような深く長い呼吸音だった。


『……じゃあ、続きやりましょ。覚悟してね』

「あんたがね」

 言うと同時に戦闘を開始した。

 フォンは自由に展開できる盾を狙った。欲しいと思えば、絶対に欲しい。もう使わないと言っているのだから、必要ないだろう。だったら頂戴。

 その程度の気持ちだった。

 拳がブレードに敵う筈はない。集中して盾を狙い、腕ごと切り落とした後、他の部位も切り刻む。

 その程度の判断だった。


 再戦して一撃目。

 フォンはブレードを失った。

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