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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【12】

『お? 繋がるんだな、良かった。なら、このまま話そう。この方がクリアに聞こえるしな』

 繋げたと同時に、男の声が響いた。

 声質は自分よりも年上で三十代といった所か。

 ACSを装備すると、外部との会話はマイクを使って行う。装備が分厚過ぎて声が通らない為だ。回線はACSを装備した仲間同士で行う為のもの。それを知っていると言う事は仲間なのかもしれない。

 ドナヴナは返答すべきかどうか暫時迷う。

「……お前、先生の言いつけ守る真面目野郎か?」

 結局返答する事にした。


『何の事だ?』

「やたらめったら殺すなって言いつけだ」

『なんだ。あの女を助けた事が気に食わなかったか?』

「今回は好きに殺っていいって言われてんだ。邪魔するんじゃねぇ……」

『……俺はやるべき事をやったまでだがな。それよりもお前の名前は?』

「普通は最初に名乗るだろうが。……まぁいい。ドナヴナだ。お前は? いつ入ってきた? そのACSは何だ。先生の新作か?」

『あ~、名乗る程の者じゃない。とりあえず太郎君でいい』

「タ、タロウ……クン? 馬鹿にしてんのか」

『それよりも、入ったってのはお前の仲良しグループにって事か? じゃあ、他にもいるって話だな。何人いる? 拠点は何処にある? 目的は?』

 

 あ~そうか、とここで確信した。

 この男……タロウは先生の部下じゃない。

 まともに名乗る事すらせず、一方的にこちらの情報を得ようとする。

 ACSを使って仕事をする組織が他にもあるのだろう。

 その事実には素直に驚く。だが何より、このタロウという男の態度が癇に障る。


「……てめぇ……誰だ。何者だ?」

『タロウと名乗ったが? で、先生ってのは? 名前を教えてくれ。それとそのAC……』

「何者だって聞いてんだっ。答えろっ」

『そうだな。少なくともドナヴナ、お前の味方ではないな』

「……なら、ここで殺す」

『いや、もう少し会話しよう。知りたい事が沢山あるからな。でだ、話を戻してそのACSは誰が作った? そのせんせ……』

 タロウの言葉は最後まで聞かなかった。

 質問に答える義理は無い。故に聞く必要もない。

 ドナヴナは自身の最大脚力で地面を蹴り、全力で走った。肩を前に突きだし、分かり易いタックルの体勢を取る。

 相手がどんな原理で不可思議なパワーを得たか分からないが、少なくともこちらの方が質量的に上なのだ。スピードを乗せた高重量のタックルがまともに当たれば、それなりにダメージは通る筈。仮に避けられたならば、余計に好都合。


 地面を揺らし、土を蹴り上げながらドナヴナは走った。衝突する直前、タロウがサッと視界から消えた。

 予想通りの行動にドナヴナはニヤっとほくそ笑んだ。

 すれ違う瞬間、手を伸ばしてタロウを捕らえた。両腕もろともガッチリと拘束したのを認識し、即座に反転する。そして踏ん張り、タックルの勢いを殺して止まる。

 ほぼ確実に、こいつは紙一重で避けるだろうとドナヴナは読んでいた。

 小馬鹿にしてくるようなタロウの態度。初手から見せつけて来た機動力。

 お前の攻撃は見てからでも避けられる、と言わんばかりに余裕を見せる筈。

 ドナヴナはそう踏んでいて、そして見事に的中した。


「お前は機動力が売りなんだろ?」

 大きな手で鷲掴みにし、見下す角度でタロウに語りかける。

『まぁ、そうだな。そこそこ自信がある』

「この状況をお前はどう見る?」

『……あまり良いとは言えないな』

 そうだろうとも。

 見たところ、武器は背中に取り付けてある刃渡り一メートル程度のブレードのみ。

 どんなに余裕を見せたとしても、この状況が覆る事は無い。


「このまま握りつぶせば終わりだ。分かってるだろ?」

『そうだな』

「なら、質問だ。お前は誰だ。何処から来た」

『空の上からだ』

「……馬鹿にしてるのか?」

『いや、事実だ。俺もお前に聞きたい事があるしな。その前にお前の質問にも答えよう。正直にな。で、他にもあるか?』

「……そのACSは誰が作った。ここに来たのはそいつの指示か?」

『基本設計とシステムは博士達。作り上げたのは技術者達だな。もう生きてないのが寂しいが。それと、この島にいたのは偶然だ。仕事で来たんだが、まさかこんな事になるとは俺も思っていなかった』

 先生のような者達が他にも居るという事なのだろう。

 この情報は先生への良い土産になりそうな気がした。


「偶然だと? 不時着した空船の船員か?」

『違う。なんにせよ、お前が大人しくしてれば、わざわざ対応する必要はなかったんだ』

「それは悪かったな。しかし、俺は今日、楽しい一日を過ごすと決めている」

『目的は? 襲う事だけか?』

「俺はな。ついでに金になる物があれば適当に」 

『なるほど。本命はあっちか』

「お前、クドパスに来る気はないか? そのACS、壊すには惜しい。先生と会わせてやる」

 ムカつく奴だが、ACSを壊すのは確かに惜しい。

 一度こちらに引き入れて装備を奪った後、作った人物の情報と目的を引き出し、残りカスになってから殺してしまえばいいのだ。


『ほう。クドパスか……』

「基本的な仕事は遺物船の中身を頂く事だ。他にも邪魔な奴の排除とか色々だが、金は良い。どうだ? やらないか?」

『……そうだな、その先生とやらには会ってみたいな。先生は常にクドパスに居るのか? お前のその装備、先生がつくったんだろ?』

「ああ、そうだ。先生は忙しい方だからな。動くのは基本的に俺達だけだ」

『なるほど……。しかしな、俺は他者とつるむのがあまり得意じゃないんだ。別行動の奴がもう一人いるらしいが……それ以上多いとな……』

「まだ仲間は少ない。他に二、三いるくらいだ。顔を合わせるのも招集がかかった時だけだしな。どうだ? こないか?」

()()()()()()()……なるほど。悪いがドナヴナ、その誘いは断る。俺も忙しい身でな……とりあえず今はお前から情報を引き出すだけで良いと思ってる。最初の質問にはだいたい答えてくれたが、残りはゆっくりと聞こう』

「情報だと? 仲間にならないお前に与えると思うか?」

『ドナヴナ、お前馬鹿だろう?』

「なに?」

『俺が言った最初の質問。殆ど答えてるぞ?』


 言われて数瞬考えた。

 確かに、言葉巧みに誘導された気がする。

「てめぇ……。この状況、お前の今の立場。……わかってんだろうな」

『まぁな。動けなくなった奴に質問責めする立場だな。拷問付きで。勿論、俺がする側だが』

「余裕かますのも大概にしろよ」

『正直少し残念なんだ。そのACS、想像よりもしょぼくてな……』

「もういい。お前は……死ね」

 ドナヴナはリミッターを解除した。腕からプシューと煙を吐き出し、油圧システムを稼働させる。

 高すぎる握力で何もかも破壊してしまう行為を避けるリミッター。それを解除すれば、通常稼働に加えて、二本の油圧システムがどんな物でも押しつぶしてくれる。

 ドナヴナは徐々に圧力を上げて、ギリギリとタロウを締め上げた。

 少しずつ少しずつ、体が内側へ寄っていく。


『原始的だなぁ。それでACSとか……。語るだけでも恥ずかしくなるぞ』

「な、なんだ……? 嘘……だろ」

 内側に寄った体が、元に戻って行く。圧力を上げ続けているのにそれを押し返すのだから、ドナヴナの力よりもタロウの方が上回るという事だ。

 ドナヴナは「く、くそっ」と独り言ちて、一気に最大握力まで引き上げた。

 だが、ビクともしない。むしろ逆に手が開き、バキバキと関節が悲鳴を上げている。

「これならどうだっ」

 強制的に押し広げられる指を包むように、もう一方の手で握った。

 両手でならば、そう易々と押し返されないだろうという判断。

 実際にタロウの抵抗はピタリと止んだ。


「このまま潰してやるっ」

 そう叫んだ瞬間、今度はタロウが重くなった。

 タロウの足がズンっと地面に着き、ドナヴナは前かがみになる。

「ど、どうやって、こんなに重く……」

『これはな、加重制御って奴だ。重くする事に特化している。知ってるか?』

「そ、そんなもの……何処で……」

『何処といってもな。これは基本装備なんだ。外部オプションを使えばもっと重く出来るぞ。戦闘において重さは非常に重要な要素だ。デカい図体のお前なら分かるだろ? まぁ他にも慣性制御とか、それを補助する道具とか、必要なものはあるがな』

 重さの重要性は良く分かる。だが、加重に特化したシステムがあるなんて聞いた事がない。慣性制御なるものも初めて聞いた。


『って、まぁいい。さっさと済まそう。そうだ、忠告なんだが、この手は離した方がいい。攻撃手段が減ってしまうぞ?』

 言うとまたバキバキと関節が悲鳴を上げ始めた。

 両手を使って全力で締めているにも関わらず、指は徐々に開いてくる。

 ビルダーの攻撃手段は、殴る、握る、刺す、切ると単純明快。ほぼ全てが両手、両腕に集約しており、破壊されれば攻撃手段の選択が大きく減る事になる。

 ドナヴナは手を離してタロウを解放し、バックステップで距離を取った。

 悔しいがタロウの忠告をきいた。まだ、勝つ手段はあるのだ。


「その体でそのパワー……」

『性能の差だな。諦めてくれ』

 ドナヴナはここにきて漸く気が付いた。

 ACSにはオリジナルがあり、自分達が装備しているものはその模造品であると先生から聞いている。

「まさか、先生の言うオリジナル……か……?」

『……なるほど、なるほど。先生とやらは本物のACSを持っているのか。で、複製を作るべく日々研究をしていると』

 余計な事を口走ってしまった。

 ドナヴナはぐっと口をつぐみ、次の攻撃へと移った。

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