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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【10】

 狙うは大きな頭部。

 殆どの生物は脳と心臓が弱点。この敵に脳はあるのか、そもそも頭部にあるのか分からない。が、やってみる価値はある。

 アズリは敵の頭部を狙って瞬きをする……が、出来なかった。

 左右のステップを繰り返し、近くにある木の幹へ隠れつつ様子を伺う敵。

「え? あ、そんなっ。早いっ」

 ロクセ曰く、目標セットをロックオンと呼ぶらしい。

 弾道が変化して命中した理由……ロックオンというシステムを、敵は即座に理解したのかもしれない。目標が決まらなければ、脅威ではないという判断か。

 しかしそれでもアズリは無我夢中でロックオンした。そしてトリガーを引く。

 頭部を狙ったが中心から外れたような気がした。

 弾は屈折を繰り返して飛んでいく。

 被弾する直前、敵は腕を重ねてガードした。

 弾は両腕を貫通し、後方にある木の幹にも穴をあけた。敵は頭部をガードした体勢でピクリともしなくなった。


――どう……だったの? 倒した?

 

 漸くレジェプー達が来た。

「な、何だ? それは」

 一度敵の様子を伺った後、開口一番にスピースリーへの疑問を投げるレジェプー。

「え、えっと……」

 どう答えたら良いのか。

 私にも分かりませんと答えるのが正確な解答だが、ここは遺物船で見つけた古代人の銃と答えるのが無難だろう。

 なんて事を考えていると「げふっ」とパウリナが血を吐いた。レジェプーの肩にびちゃっと血が付着する。

 驚いたレジェプーはぐったりしたパウリナの顔色と息づかいを確認して「強い圧迫で胃がやられたか。息は普通だ。肺の損傷じゃないだけ幸いか」と言い、ティニャは半泣きしながら「パウリナさん」と彼女の手を握った。


 アズリはパウリナと敵の様子を交互に伺った。

 ミラナナ達が来るまでここに留まるべきか、このまま遠くへ逃げるべきか。

 相手は既に死んでいると仮定すれば、ここから下手に動かない方がいい。パウリナの状況を考えれば尚更。

 まだ生きているのであれば、動かない今の内に少しでも遠くへ逃げるべき。だが、ミラナナ達の救助が遅くなる可能性と、パウリナの状態が更に悪くなる可能性がある。


――動かなくなったけど、念の為あと二、三発くらい……。


 選択肢はやはりここから動かない事。

 であれば、安心出来る程度の追い打ちを与えておきたい。

 そう思ったアズリは照準を向けた。次は何処を狙うべきか、と少し悩む。

 すると敵が動いた。

 ゆっくりと腕を下ろし頭を上げる。

 貫通した弾は、頭部中心から大きく外れていて、側面を少し削っただけだった。

 空気が震えていた。

 ビリビリとした威圧を体中に感じてしまい、アズリは畏縮してしまった。

 実際にシャァーと噴射音が聞こえていて、生暖かい風が流れて来る。

 半ば気を失っているパウリナはぐったりしたままだが、レジェプーとティニャは敵の変化に気づいている。二人もアズリと同じく、畏縮している雰囲気だった。


 これは……まずい……とアズリは肌で感じた。

 そう。理屈じゃなく、本能的な危機感。

 咄嗟にスピースリーの形態変更を選択した。最初の銃は第一形態。今度は第二形態だ。

 ロクセに説明された通り、まず最初に出力を決めた。自身だけならメモリ一つ。範囲を伸ばしたいなら一メートルにつきメモリ一つ増やせばいい。ここには四人いる。集まっているが、範囲としては半径三メートルは必要だろう。

 アズリは焦りつつも即座に判断し、出力設定をした。そして決定ボタンを選択する。すると銃がまたニュルニュルと動いて形を変えた。

 基本的に全ての選択は目線移動と瞬きで行う。慣れればもっと素早く使えると思えた。

 第二形態は細い杖の様な形。杖の中間に手がある感じで、これも手首まで固定されている。動かせる指は一本だけ。今度は中指だ。

 

 スピースリーの変形と同時にズガッと強い力で土を蹴り上げる敵。

 一直線に突っ込んで来る敵のスピードはあまりに早く、一瞬で距離を詰めて来た。

 その勢いは恐怖でしかなく、皆、ビクッと硬直してしまう。

 しかしアズリは必死に恐怖を取り除き、杖を地面に刺した。そしてトリガーを引く。


 間一髪だった。

 腕のブレードで四人いっぺんに始末しようとしたのだろう。敵は突っ込む勢いと共に腕を振ったがしかし、刃は四人に届く事なく軌道を逸らし、ついでに自身の体も軌道を変え、その先に生えていた太い木の幹へとぶつかった。

 幹を砕いて滑る様に地面へ転がる敵。砕けた大木が倒れて来て、更に追い打ちをかける。

 何が起きたのか理解出来ずに茫然とするレジェプーとティニャ。勿論、初めて使用する機能にアズリもまた驚き、茫然としてしまう。


 ハッと自身を取り戻したレジェプーがきょろきょろと周囲を見回して「何だ……。これは……」と呟いた。

 アズリとティニャも彼に続く。

 四人を取り囲むように青味がかった半透明の膜があった。敵のブレードが当たった部分と体がぶつかった部分だけが壊れたモニターのようにザザっと歪んでいる。角ばったパズルをはめたような模様も薄っすらと見えた。模様の線を光が通り、歪んだ部分に集まってくる。

 形は円。実際には地面より下は見えない為、半円形。

 その円は杖の先端を中心として発生しているようだった。

「膜……いや、壁……か? これが俺達を守ったのか?」

 レジェプーが円に触れようとした……が、触れられなかった。数センチ先で手が止まる。

「ツルツルと押し戻される感じだ。それにピリピリする」

 触れようとした部分がザザっと歪んだ。

「アズリ……。本当にそれは何なんだ?」

 杖に変化したスピースリーを見ながら言うレジェプー。

 問われても困る。使用者である自分も同じ意見なのだ。

「遺物船で見つけたんです。本当、何なんですかね……これ」

「俺はこういった物には詳しくないが、流石にこれは……普通じゃないぞ」

「で、ですよね……」

 やはり、スピースリーは見せびらかす物じゃないと悟った。

 今回は使うべき状況だったのから仕方がない。むしろ判断が遅すぎてパウリナに大怪我を負わせてしまった。

 パウリナを見た。ぐったりしているが何故だろうか、安心して身を預けている空気を感じる。

 ともかく、スピースリーの存在は出来るだけ誤魔化しつつ、自身と仲間を守る為に使うべき時には使おうと決めた。


 バキバキと大きな音が鳴った後、ズンと地面が揺れた。

 敵は大木を押し上げて、ひょいと投げた。

 ダメージを受けた様子は一切なかった。今度は普通に歩いて近寄って来る。

「ど、どうする。もう一度さっきの銃で戦うか?」

「ま、まだ慣れてないので、その……操作に時間がかかります。さっきもギリギリだったし」

「この壁がどこまで耐えられるかだが……。そ、そうだ、怪魚は?」

 と、ペペを探すレジェプー。

 アズリも追ってペペの状況を確認する。

「だ、だめか……」

 ペペは倒れたまま動かない。死んではいないだろうが、確実に気を失っている。

「ペペ……」

「あいつが動ければその間にもう一度さっきのやつをぶっ放せるんだがな」

「出力を上げればきっと次は……きゃっ」


 話している間に敵の攻撃が始まった。

 あっという間に至近距離までやってきた敵は、壁の向こうでブレードを振う。更に殴ったり爪で引っ搔いたりと連撃を行っている。恐らく壁へのダメージを確認しているのだろう。

 当たった部分は歪みが発生し、攻撃される度にヴゥンヴゥンと音を出す。模様から光が流れてきて、その都度修復する様子をみせた。

 アズリは気が付いた。パネルの左上にゲージがあり、それが少しづつ減っている事に。

 減り方はゆっくりだが、最初よりも一割近く減っていた。表示は93%となっている。

 これもロクセの説明にあった事だと思い出した。

 使い方によってエネルギーは即座に枯渇するらしい。特に第二形態は消費が激しいと言っていた。

 低出力のレーザー弾二発。範囲レベル三の壁。そして、その修復。費やしたエネルギーは8%だ。

 このまま敵の攻撃が続けばいつまで耐えられるだろうか。一時間か二時間か。いや、そこまでは無理だと思えた。今現在、一、二分程度の連撃で3%が失われた。残り90%……。攻撃され続ければ、一時間と耐えられない。


「こ、壊す気か⁈ 大丈夫なのか?」

「な、長くはもたないかも……」

「く、くそっ。このままだとジリ貧だぞ」

「仮に今、ミラナナ達が助けに来たとしても……こ、この状況じゃ……」

 どうしようもない。

 ミラナナ達が隙を作り、その間にもう一度レーザー弾を撃ち込む。今度は出力を上げて。

 作戦はこれしかないが、アズリには無理な作戦だと思えた。

 敵はこちらの装備を理解している。悠長に変形する時間を与える訳がない。仮にミラナナ達が援護に回ったとしても無視していれば良いだけの話。普通の銃なんて効かないのだ。

 どんな物にも限界点がある。この壁にも限界があると踏んでいるからこそ、敵は攻撃の手をやめないのだろう。


 ティニャが袖を掴んで来た。

 片手でパウリナの手を握り、もう片方でアズリの袖を掴む。涙を浮かべたままでぐっと奥歯を噛み、敵を睨んでいる。涙はパウリナに対して。怒りは敵に対してだ。

 強くて優しい子だな、とアズリは思った。妹のマツリよりも小さいのに自分よりも大きな存在に思える。本当の所、自分は足がすくんでいる。冷静になって考えているつもりだが、怖くて仕方がない。ロクセと出会ってからは強くなったような気がしていたが、実際はこの程度なのだ。

「ティニャちゃん。大丈夫。何とかするから。こんな奴、怖くない」

 ティニャは答えなかった。だが、じっと睨んだままコクリと小さく頷いた。


 敵の連撃は続いた。時間の経過と共に更にゲージが減っていく。

 大丈夫。何とかする……と言った手前だが、どうすればいいのだろうか。と、考えあぐねるアズリ。

 そんな時、ズドンと何かが降って来た。

「そんな……」とアズリは絶望し、「う、嘘だろ……」とレジェプーも絶望した。

 敵が増えた。もう一体鉄の塊が出現し、真っ直ぐに歩いて来る。

 黒と黄色で構成された色合いに、意志を持ってデザインされた様な外見。昔、遺物船で見つけた鎧という物に似ている気がした。顔は人のようで人ではない。笑っているようでもあり怒っているようにも見える。

 色も外見も雰囲気も違うが、普通に考えて同類としか思えない。


 敵の攻撃が止んだ。敵ももう一体の同類を見つめて、じっと立っている。

 黄色い方が自身の側頭部を指先でトントンと叩いた。そしてそのまま静寂を保つ。

 黒い奴と黄色い奴……二体共立ったままピクリともしない。

「な、なんだ? 何が起こってる?」

 見つめ合う二体。仲間同士で意思疎通を図っているのかもしれない。

 と、思ったその時。一瞬で黄色い方の姿が消えた。

 いや、消えてはいない。レーザー弾の弾速よりは遅いが、それでも驚異的なスピードで距離を詰めたのだ。

 刹那、黒い奴が勢いよく吹っ飛び、再度木の幹を砕いて転がった。


「な……仲間割れか?」

「……違う……と思う」

 ペペは助っ人が来ると言っていた。

 もしかしたら……。

「ソノママ、ココニイテ」

 トーンが少し高い、女性的な機械音でしゃべった。


――やっぱり……。味方……なの?


「話せるのか? まさか、あの怪魚が言う助っ人て、こいつか?」

 レジェプーも察した。

「……みたい、ですね」

 パウリナ、レジェプー、ティニャの順で様子を伺う助っ人。最後にアズリへ顔を向け、体中を観察し始める。

 まるで獲物の品質チェックをするみたいに足の先から頭の先までチェックしている感じがする。

「あ、あの……」

「オワルマデ、カイジョシナイデ」

「え?」

 解除とは、スピースリーの事だろう。

「お、終わるまでって、どういう……って、おいっ」

 レジェプーの声は完全に無視して去って行った。

 起き上がり始めた黒い奴に向かって真っ直ぐに歩いていく。


「お前の装備(それ)といい、あいつといい、すまん……さっきから色々と……理解が及ばん」

「私もです……」

 機械的な女性の声。少し感情が乗っていた気がして、ルマーナの店の女性達が着けているチョーカー(変声機)を思い出した。

 そして何故だろうか。

 聞き覚えのある……空気を感じた。しかも、身近で感じた事のある空気を。

 もしかしたら、あれは”着ている”だけであって、本当は”中身”があるのではないだろうか。

 古代人が残した機械でもなく、生き物でもなく、ただの服……否、鎧……なのではないだろうか。

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