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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【7】

『手ごたえは……微妙ですね』

 と、キエルドが言った。

 ルマーナの居る場所からだと敵の姿を確認出来ない。

 少し開けた場所ではあるが、やはりそこら中に落ちている岩が邪魔だった。とはいえ、隠れたり敵の攻撃から身を守るには最高の場所ともいえる。

「微妙って何。正確に答えな」

『一瞬怯んだ様子を見せましたが、それだけです』

「ダメージは?」

『良く見えませんが、恐らく無傷かと。距離も距離ですからね。ここからでは当然の結果です』

「あんたの腕が悪いんじゃなくて?」

『ショック! ちゃんと命中しましたよ』

「相手との距離を測りながら何度か試してみてちょうだい」

『了解です』


 尻尾を巻いて逃げるか否か。

 出来る事ならまだ距離がある今の段階で判断するべきだが、たった一発で決断するには早すぎる。距離が近ければ、多少はダメージを与えられるかもしれない。

「ルマーナ様。安全に撤退するなら今の内でさ」

 岩陰から身を乗り出したまま、レッチョが言う。

「分かってる。でもまだ早い」

 ダーンと二発目が撃たれた。

 キエルドが持って来た弾数は三十。五発入る弾倉を六つ持って来ている。

 本来はもう少し余裕を持ちたかったが、船に在庫が無かった。こんな戦闘を余儀なくされると思っていなかったが故に、そして、お金が無かったが為に。

 本来は今頃、バカンス気分で美味しい魚料理を堪能している筈だったのだ。


「怪魚の二人が見当たらないでさ」

「何処かにいる筈だよ。心配しないで、あたい達はあたい達の仕事をすればいい」

 ここは怪魚達のホーム。岩の配置や地形だって把握してるに違いない。

 先手を取れる有利、岩が多いという好条件、そして土地勘のある怪魚。

 この状況下ならば、少しは足止め出来るかもしれない。気合いで、ギリギリまで、戦ってみせる。

 ルマーナはそう思いつつ、じっと耐えた。

 キエルドは続けて引き金を引いていた。既に六発撃っていたが、まだ連絡がない。

 どうなんだい? と、こちらから催促したかったが我慢した。集中しているキエルドを邪魔してはいけない。


『手ごたえ有りです』

 十発目になって漸く結果が見えた。

「どうなんだい?」

『距離三百で小さな傷を確認しました。ムモールの皮膚より幾らか柔らかいですね。近距離ならば、もう少しいけるかと』

「レッチョのハンマーとあたいのブレードならどう?」

『可能性はありますね。あくまで可能性ですけど』

「分かった。なら、ここまで引き付けてちょうだい」

 距離三百で傷がつくのなら確かに期待が持てる。近距離で放てば外装の貫通、最低でも凹み傷くらいはつけられるかもしれない。それが可能ならば、高振動ブレードでも一定の効果があるだろう。

 ロクセを好きになった時、ルマーナはムモールという大型生物に襲われていた。ムモールは異常に硬い外皮を持つ生物で有名だった。

 そのムモールにも弱点はある。生物には必ず弱点がある筈なのだ。

 狙うのは動きのある部分。どんな生物でも関節部分は弱い。人型ならば尚更だ。


「レッチョ、聞いてたね」

「聞いてたでさ。おいらのハンマーでもいけそうでさ」

「まずはあたいがグレネードで煙幕を。その隙に行くんだよ。あんたは相手の注意を引いてればいい」

「分かってるでさ」

 連絡後も続けて銃声が鳴り響く。

 弾はまだ使うんだから、もう少し節約しなさい等と思うが、こういう時節約しないのがキエルド。

 お金お金と節約を迫るキエルドだが、銃の弾だけは好き放題ぶっ放す癖は治らない。

 因みにレッチョは食費。

 誰にでも浪費癖はあるのだ。


 ドスンと何かが地上に落ちる音が聞こえた。

『距離百五十。別行動になりました。飛んでる方は戻って行きます』

「やっぱり二手に別れたんだね」

『ええ。最初からそのつもりだった、という雰囲気です。ですが……』

「何?」

『降りた方は上手く岩陰に隠れながら移動してます』

「……なるほどね」


 恐らく、キエルドの銃撃がうるさかったのだろう。

 本来ならば、皆がいる広場まで飛んで移動するつもりだったのだろうが、予想外の急襲に作戦変更せざるを得ない、という状況になったのだ。

 最初は二体同時に相手する予定だったが、応援が来るのであれば分散させた方が良いというのが今の考え。こちらとしては思い通りの展開になる。自分達に引き付け、広場に到着する前にダメージを与える計画が実行できる。


 そして一つ確信を得た。

 まず先に面倒な急襲者達を一掃してから目的地へ向かう判断をする事。

 キエルドの銃撃を避ける行動を難なく行える知能を持つ事。

 それは、その辺の野生動物では無いという証明。

 怪魚の様な高い知能を持った存在……とも考えられるが、鎧のような装甲を纏った人間である可能性の方が高いとルマーナは思う。

 そもそも、機械的な飛行音が聞こえるのだ。人が作り出した物以外に何があるというのか。


「キエルド。残弾は?」

『十一です』

「撃ち過ぎだね」

『いや~気持ち良くて、つい』

「……ここに来るまで温存しなさい。無理して撃たないで」

『……そうですね』

 分かりました、ではなく、そうですね。

 ちょっとやり過ぎたな、と反省しているのだと分かった。


 ズンズンと足音が近づいてくる。

 ルマーナは息を潜めて待った。キエルドも撃たずにじっとしている。

 動きは遅いようで、姿が見えるまで幾らか時間がかかった。

 敵はキエルドの居る岩の下で足を止め、下から覗く様に見上げた。

 大きい。それが初見の感想だった。

 ラブリー☆ルマーナ号の甲板に降りた敵は高身長の人間と変わらないサイズだった。だが、こいつは違った。

 二メートルを優に超え、三メートル近くある。

 少し小さい胴体から太くて長い腕と足を生やしている。四肢があまりに太く、全体的に見ればずんぐりむっくりといった感じがした。頭部は大きくてなだらかなヘルメットをかぶっているような見た目。光る眼が横並びで五つもある。

 これが鎧であるというのなら、こんなサイズの人間は存在しない。

 人が着ているのならばどうやって? 人が動かしているのならばどうやって?

 と、考える。


『撃ちます』

 キエルドが言った。

「やってちょうだい」

 跳弾を避ける為にルマーナは一度顔を引っ込める。

 ダーンと銃声が響き、ギィンと弾を弾く音がほぼ同時に鳴った。

 ルマーナは直ぐに確認した。

 キエルドが狙ったのは肩口だった。

 見ると少し大きい傷と凹みが出来ていた。だが、ダメージとしては皆無に等しい。

「弱そうな部分を狙いな」

 次は二発連続で撃った。しかし、これも弾かれる音が響いた。

 キエルドは頭部、否、眼球を狙ったようだった。

 敵はそれを見越していて、腕で防いでいた。

 片腕を上げただけだが、顔を隠せる程に太いのだ。十分に防御出来る。


『いけそうですね』

 キエルドが言う。

 ルマーナもそれに同意した。

「目を狙いな。援護する」

 防御する。イコール弱点。

 やはり、どんな生き物にも弱点はある。特に目はほぼ全ての生物に当てはまる弱点なのだ。

 計画ではキエルドが援護役だ。が、ここは臨機応変。目を潰せるのならば、先に潰してしまった方が格段に有利をとれる。

 ルマーナは岩陰から身を出してシュポっとグレネードを放った。

 弧を描いて敵の足元に着弾し、爆発と共に薄い煙幕が撒かれた。

 足元の爆破に怯んだ敵は若干バランスを崩した。

 そこへ二発の銃弾が飛ぶ。内一発がバキンと今までに無い音を鳴らした。

 煙幕の先に鈍く光る眼。数は四つに減っていた。

 ルマーナはすかさずグレネードを二度放った。

 全て足元を狙い、敵のバランスを奪う。

 キエルドがその隙を狙い、更にもう一つ眼球を潰した。


「レッチョ!」

「行くでさ!」

 レッチョがハンマーを担いで飛び出した。

 敵の懐に飛び込み「うぉりゃ」という掛け声と共に膝付近を後ろから殴った。

 ズカンとパイルバンカーが飛び出す音が聞こえた。

 煙幕のせいでどの程度ダメージを与えられたかはっきりと分からないが、少なくとも敵は片膝を地面につけている。

 レッチョはその隙を逃さず真上からハンマーを振り降ろした。

 これは腕で防がれたようだった。しかし「歪み確認! 効果ありでさ!」と叫んだ。


「レッチョ! 下がりな!」

 ルマーナも叫んだ。もうイヤホンマイクなんて使っていない。

 レッチョが言われた通りに敵から距離を置く。

 十分離れたと思うと同時にグレネードを放った。グレネードは股下辺りに着弾し、敵は爆風をまともに食らった。


 このタイミングで怪魚も戦闘に加わった。

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