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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【6】

 六瀬と別れた後、多々良はハヴィの側付きに案内されてACS(アクス)の元へ向かった。

 案内してくれた側付きの子はニャチ。獣の頭部に人間の目を付けただけの不思議な顔をしていたが、妙に愛着が湧いた。ずっと頭を撫でてあげたい気分にすらなる。


「お急ぎですのに、少し離れた場所で申し訳ありません」

 ニャチは丁寧に頭を下げてから「こちらです。ついて来てください」と急ぎ足で案内してくれた。

 見た目だけでは判断出来ないが、声の感じからすると生まれて二十年か三十年といった所。若くして側付きになるのだから、きっと優秀な子なのだろう。

「ウメ様のお噂はかねがね……」とか「ハヴィ様の楽し気なお声は久方ぶりでした……」等と話しかけて来る。多々良はそれに答えつつ、今回の装備構成を考えていた。


 まず集落の西側に案内されて、三つ並んだ通路まで進んだ。選んだのは中央の通路。その通路をずっと奥まで進む。すると大きな鉄の扉があった。

 ハヴィは大切に保管していると言った。

 確かに、きちんと門番まで立たせていて、厳重に管理されているようだった。

 軽い挨拶を交わした後、門番は大きな扉を開けた。

 その先には円形状の空間があった。かなり精密なドーム型の広場になっていて、怪魚達の進化した技術に素直に感動した。

 パーテーションの様な物で仕切られた区画や棚だけが並ぶ区画があった。奥には石造りの倉庫が三つ並んでいて、かなり綺麗に整頓されてあった。

 ACSはその倉庫に置いてあるという。

 

 多々良は「本当に大切に扱ってくれてるのね。ありがとう」とニャチに礼を言った。すると「この倉庫には海底の船から持って来た物ばかりが保管されています」と答えた。

「え? この倉庫の中身全て?」

「はい。殆どがそうです。壊れていますが、黒い箱も幾つかあります」

「……その箱と一緒にあった……遺体は?」

 わざと遺体をいう言葉を使った。

 ACSは壊れているのだ。協定破りの者達に襲われたのだろうと容易に判断出来た。

 であれば、恐らくその使用者は大破している可能性が高い。


「機械のご遺体も保管してあります。ですが、殆ど原形を留めていないものばかりです」

 正解だった。

 どこの国のレプリケーダーか分からないが、味方だったのならば、出来る限り復元したいと思う。しかし、原形を留めていないというのだから、復元は難しいかもしれない。頭をやられていれば確実に無理だ。


「ウメ様と出会って暫くしてから船の中身を回収するようになったと聞いています。しかし、ウメ様以降、生きた方と出会った事がありません」

「そう……。因みに、回収する理由は何?」

「武器とアクセサリー以外の用途は殆ど分かりませんが、人が回収するのであれば価値ある物なのだろう、という判断のようです。いつか役にたつかもしれないとハヴィ様がおっしゃっておられました」

「私達にとっては大いに役立つわ。近い内にさっき居たおじ……六瀬と他の仲間も連れてくるから、ここにある回収品、じっくり見せてくれない?」

「ハヴィ様にお伝えしておきます」

「ありがとう」


 まさかこんな所で、未使用の遺物と出会えるなんて思わなかった。

 ACSは一部の者を抜かし、使用者以外は絶対に扱えないシステムになっている。

 元の使用者がいなければ、基本的にゴミとなる物。だがそれでも、壊れていたとしても、大量の素材は手に入るかもしれない。

 多々良は、出来るだけ早く六瀬とヴィスを連れて来て確認した方がいいと思った。


「では、こちらへどうぞ」

 ニャチが右の倉庫を開けてから招く仕草をする。

 倉庫は長方形になっていて奥に長かった。天井には光苔を繁殖させた石が吊るされていて、そこそこ明るい。

 銃や装備や道具が置いてある棚。アクセサリーや宝石や希少性の高い貴金属が置いてある棚。そのどれもが整理整頓されており、見た目の雰囲気だけとはいえ、分かる範囲で分類分けされていた。

 預かって貰っていたビルダー用ACSは一番奥にあった。


「ここにはウメ様の私物と使えそうな物だけが保管してあります」

 ACSは一つだけ。

 しかし、倉庫の隅に中身の分からない特殊装備品が多く積んであった。私物以外に八つもある。

 レプリケーダーは自身専用のオリジナル装備を持つ場合が多い。その用途は使用者の好みや得意とする戦法により多岐にわたる。これはACSと違い、味方同士なら誰でも使える。他国の武器だったとしてもシステムさえ弄れれば使う事が可能。とはいえ、上手く扱えるかは本人次第。そもそも所有者が自分用にカスタマイズし、調整しまくった装備なのだ。下手をするとACSから調整、又は改造しないと扱えない物もある。だが、強力な装備である事は間違いない。中身を確認しない事には分からないが、八つもあれば、戦力、戦法の幅がかなり広がる。


「意外と多いわね」

 素直な感想だった。

 レプリケーダーにとって役に立つ物が多い。

「しかし大体が壊れていますので、使えそうなのはここにある物だけです」

 それでもこの倉庫は宝の山と言える。

 眠っていた数十年の間に怪魚達が溜めこんだ宝達。

 早急にハヴィと交渉し、譲って貰えるものは譲って貰わねば、と考えた。


 多々良は軽く周囲に目をやるだけにして奥へ進んだ。

 実の所、既にIFF-サーチの情報は殆ど届いていなかった。

 集落よりも奥に進んでしまった事が原因だが、そもそもIFF-サーチ自体、自分の装備品では無いのだ。

 敵のスピードは遅いが、三十キロ圏内に入って来ている。あまりゆっくりもしていられない。だが、

「え? これって……」

 多々良は足を止めた。


「それが何か?」

 宝石が置いてある棚に、赤い石と白い石が置いてあった。

 赤い石は拳サイズの物が一つ。あとは親指程度のサイズで数個と更に小さい物が数個。

 白い石は各サイズで倍以上の数がある。

 多々良はその石達に視線を向けて「この価値知ってる?」と聞いた。

「私達は白の宝石、赤の宝石と呼んでいます。綺麗な石ですが、然程価値は無いと聞きます……」

 多々良は成程……と頷いて、親指サイズの白い石を手に取った。

「この白い石一つで小型艇……小さい船が一つ買える」

 それから今度は小指の先程度の一番小さい赤い石を手に取った。

「こっちの赤い石はこのサイズで大きな船が一つ買える」

「それは……凄い事なのですか?」


 怪魚はまだ人間の価値基準を深く知らないのだと悟った。

 この倉庫の宝と交渉するにあたって、友人のハヴィや命の恩人である怪魚達を騙す事はしたくない。

 出来るだけ分かり易く、各品々の価値を教えてあげたい。

「そうね……」

 多々良は少し悩んだ後、赤い石を自身の胸元に当てた。

「この石が私の中に入っているの。これが私の命」

 命と同価値と伝えれば、一番分かり易い。

「そ、そうなのですか⁈ い、命の石……ハヴィ様にお伝えしておきます」

 ニャチは飛び上がりそうなくらいに驚いた。

「そうして貰えると助かるわ。この石だけはもっと厳重に管理して貰いたいし」

 恐らく、ここにある石だけで、国一つが買える。余裕で国同士の奪い合いが始まる。

 白い石はベリテ鉱石。赤い石は……母星を破壊した原因の一つ。

 倉庫の棚に、他の宝石と混ざって転がっている代物ではない。


「……これらの石の価値を知る為に、一度人間にあげた事があると聞いています。ですが驚く様子も喜ぶ様子も無かったと……」

「ネードには船掘商会無いしね。価値を知らない人も多いわ。でも、知ってるのなら、持ち主を殺してでも……って考えになりかねない物よ」

「そう……なのですか」

 石を貰った者は既に殺されているかもしれない。もしくは普通に奪われただけで済んでいるか……。

 貰った物の価値を知り、何処かに隠していれば良いのだが……と多々良は願った。


「って、お話はもう終わりにしなきゃね。急いで準備しないと」

「し、失礼しました」

 会話を始めたのは多々良。だがニャチが謝った。

 多々良は「あなたが謝る事じゃないわ」と言って、ACSの前に立ち、服を脱いだ。

「ごめんね。この辺に服、置いとくわ」

 畳んでる暇は無い為、服は適当に床に投げ置いて、ACSの装備設定を始めた。


「綺麗な体です」

 後ろでじっと見ていたニャチが言う。

 人に近い骨格をしているが、体毛が多いニャチ。

 人間の体を見て綺麗だと言うが、多々良からしてみれば美しい毛並みのニャチの方がずっと綺麗で可愛い。

「ありがとう。擦れてない、男を知らない体だって言われるよりはずっと嬉しい」

 裸体鑑賞をしていた男の言葉を思い出した。

 その男の事は一度ボコボコにしてやった。それ以降、会う度に中途半端な部下の様な振る舞いで挨拶する為、かなりウザい。


「男を知らない?」

 と、不思議な顔をするニャチ。

「あ、そうか。雄の義務的な遺伝子提供だけで、そもそも交尾しないものね。怪魚は」

「交尾の概念は知っています。ウメ様もなさるのですか?」

「出来る事は出来るけど、興味ないわ。した所で何も得られないしね、私の体じゃ」

 多々良は小さく溜息をついた。

 そして軽く頭を振って「って、何の話してるんだか……」と独り言ち、設定を進めた。


 ビルダーの特徴は三層の装甲と、強力なシールドで自身が不沈兵となれる所。

 基本的な役割は敵のヘイトを稼ぎつつ敵陣へ突っ込む事なのだが、戦局によって臨機応変に対応しなければならない。

 強力な近距離砲と白兵戦用武器が主な装備となるが、今回は白兵戦装備に限定すると決めていた。    

 理由は二つ。

 もし、近くにアズリ達が居た場合、砲撃に巻き込まれる可能性がある事。それと個人的にぶん殴るのが好きな事。

 恐らく、こちらへ来る相手はスカイだと思われる。飛んで逃げられたら面倒だが、逃がさなければ良いだけの事。よって、装甲は機動力重視の一層のみにする。二体ともこちらへ来た場合を考慮すれば、余計にその方が良いという判断。

 ビルダーの弱点は、低機能の重力(グラビティー)操作(オぺレーション)しか持っておらず、超高加重仕様の加重(ウエイト)操作(オペレーション)が基本装備という所。爆風や攻撃で吹き飛ばされないようにする為、ビルダーとドーム、トレーダーとレインは自身を軽くするという機能に弱い。特にビルダーとトレーダーは、自身を常に重くしている。

 

 多々良は一層だけの装備設定にして、念の為シールドだけは持つ事にした。次いで武器を決める。

 私物である特殊装備もあるが、今回はやめた。それはオーバーキルとなってしまう恐れがあったから。よって、通常のロックアンカーとインパクトナックルだけにした。

 Saburaf(サブラフ)社製のインパクトナックルは六瀬も好んで使う装備。

 小さい頃からの知人、六瀬。レプリケーダーのみで構成される特殊機動隊の中で、三本の指に入る有名人。

 そんな六瀬を幼い頃から見て来た為、接近戦の方が好きという所は似てしまったのかもしれない。

 

 衛生兵から接近戦を好むビルダー兵となってしまった多々良。

 なるべくしてなったと友人に言われた事がある。

 キレたら怖い等と噂され、自覚もしている。


 アズリが怪我でもしていたら……。

 一緒にいるティニャという少女を含め、他の者達に危害を加えたら……。

 

 多々良は大きく深呼吸した。

 冷静になるように自分に言い聞かせて、多々良はACSを開けた。

 蜘蛛の足の様に開くACSを見て、ニャチが小さく驚いた。


 数十年ぶりの戦闘。

 手加減出来るか少し不安だった。

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