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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【4】

 ルマーナはラパと別れ、キエルドと共にサリーナル号へ向かった。

 怪魚は敵ではない事、船を襲った黒い敵が迫っている事をオルホエイとアマネルに伝えた。

 オルホエイは眉間に皺を作り、髭を触りながら「次から次へと……」と悩んだ。

 昔好きだったオルホエイ。奥さんを無くしてからは打算的で少し冷たい人間になった気がする。でも、悩んだ時にする仕草は相変わらずだった。

 昔からの仲間や知り合いは、実直で仲間想いだった頃のオルホエイを知っている。今でも時折、その性格は現れる。だからこそ仲間達は彼を信じ、ついて行く。

 ルマーナも勿論、当時のオルホエイを知っている。

 悩んでいる時の彼は、出来るだけそっとしておくのが一番良い。


「修復作業の手は止められん。確実に間に合わなくなる。全員を危険な目に会わせる訳にも行かない。少数精鋭で先発隊と守備隊を作れば何とかなりそうか?」

 案の定、ルマーナの考えと同じ答えが返ってきた。

 今行えるベストと思える判断をしてくれる。

 こんな所も相変わらずで安心出来た。


 結果、ラブリー☆ルマーナ号の甲板とサリーナル号の甲板に五名ずつ船員を配置し、硬体皮用大型ライフルを各船に一丁ずつ持たせる事になった。

 特殊なライフルを二丁も持ってる事にルマーナは驚いたが、それよりも驚いていたのはオルホエイだった。

 先発隊にルマーナ自身が行くと進言した事もそうだが、そこに怪魚が加わるという事実に心底驚いていた。

「お前が行く必要は無い」とか「怪魚が⁈ あんな奴等信頼出来るのか⁈」等と色々言って来た。

 だが、頑として先発の任は譲らなかった。怪魚についても意思疎通が出来る事を伝え、無理やり納得させた。否、実際には納得していなかった。

 守備隊の方は全て任せる。危険だと判断したら即座に撤退する。と、一方的に言い放ち、その場を後にした。

 そして、レッチョに準備させておいた装備を持ち、問答無用で広場を抜け、ラパ達と合流したのが現在。


「本当にダイジョウブなのか? ルマーナ、女。心配ダ」

 小走りで狙撃ポイントへ向かいながらラパが言う。表情は分からない。

「あら。私だって雌よ? でも、あなたにだって負けないわ」

 もう一体の怪魚は人間の言葉を流暢に扱う。

 頭部から背中にかけて羽根に似た体毛が生えていて、筋肉の詰まった太い四肢と長いくちばしを持つ怪魚。名前はピーヤ。

 雌だと知った時は驚いたが、良く見ると胸元が薄っすら膨らんでいた為、今では納得している。

「人には人の戦い方があるんだよ」

 ルマーナが答えると「アレは硬い。人間の武器でもムズカシイ……」とラパは不安そうに言った。

「効果があるかどうか試すだけだよ。無理なら撤退。即、逃げるから安心してちょうだい」

「こっちの数も少ないしね~」

 と呑気なピーヤ。


 広場にいた四体の内、戦闘に参加するのはラパとピーヤだけだった。他の二体は戦闘向きの個体では無いらしく、特に陸上戦では使い物にならないとの事だった。伝令役として広場に居たようで、人には聞こえない音波で連絡を取り合っていたらしい。黒い敵の接近情報は、ネード海の至る所に居る仲間達から伝わって来たとピーヤが言っていた。

 目に関してはラパやピーヤ含め、怪魚の殆どは相当高い視力を有していて、人が高性能の双眼鏡でやっと見える距離を裸眼で視認できるくらいの性能をしているとの事。

 知能もあって集団行動や連携を取る事もできる生物。敵対すれば大変危険だが、友好的な関係を築ければ今後ネード海で仕事をする際、大きな助けになってくれるだろう。それは、ネードの漁師達や他国の狩猟や船掘商会等々、全てにおいて言える事。外見的には近寄りがたい存在だが、こうして行動を共にし、会話をすれば種族的な違いしかないと分かる。

 全てを信用した訳では無いが、少なくとも、ラパとピーヤは良い奴だとルマーナは思う。


「敵は二体との事ですから、確かに無理は禁物ですね」 

 恋人と称する愛銃を抱えながらキエルドが言う。

「さっき連絡があったのだけど、こっちには一体だけ来るかもって。小さい船が落ちた場所にもう一体が向かうかもしれない。って事らしいわよ。それと……」

「え? 小さい船って……ティニャ達の所? ぶ、無事なの?」

 ピーヤの言葉を遮ってルマーナは質問した。

「ええ。全員生きてるって話。二つ先の島にいるみたい。近いわよ」

 

 ティニャ達がまだ救助されていない事はオルホエイが来てから知った。生死も不明で、とにかく直ぐに捜索班を出すと言われた時にはくらくらと目眩がした。

 それからずっとティニャ達が心配だった。

 ギリギリ間に合うかどうかの船の修理。死者までいる怪我人だらけの船員達。今後も続けるのならば多額負債となるルマーナ船掘商会。そして今の状況。

 頭が、心が、パンクしそうになる。

 だが、ティニャ達が無事と知っただけでほっと出来た。重苦しい不安が一つ消え、軽くなった感覚が自分でも見て取れるくらいに分かった。


「良かったですね、ルマーナ様。あとはオルホエイ組の捜索班が見つけてくれる事を願うだけです」

「……ティニャ、パウリナ。良かった……」

「安心するのは早いでさ。黒いのが一体そっちに向かうって話が本当なら、どう対処するんでさ?」

 ここで水を差す質問をするレッチョ。

 質問の答えは知っているのにわざとしている。

 こういう時のレッチョは意外と冷静で、最終的な駄目出しをしたり再確認したりする。

「何言ってんだい。こっちで二体まとめて処理すりゃいい話でしょ」

「そうですね。こっちに引き付けましょう」

「そもそも銃で対抗出来るか分からない敵でさ。今さっき無理は禁物と言ったばかりでさ」

 これもわざと。

 三人の意思確認の為のセリフだと分かる。

 長年付き合っていたのだから、こんなやり取りは常。

「ティニャとパウリナの為なら気合いだよ!」

「そうですね。気合です」

「分かったでさ。なら、おいらも気合いで!」

 意志と意欲の統一。

 事に当たる時、決まってこんなやりとりがあるのだ。


「お前タチ、面白い」

「あはは。人間っていいね。仲間の為に命をかける感じ、私達と同じ。私は好きよ。そういうの」

 ラパもピーヤも感じ取ってくれたようだった。

 人間の雰囲気的なやりとりをすんなりと理解するのだから、怪魚の中身は人間と大差ない。

「ティニャは……あたいの娘だからね。親が守らないでどうするのさ」

「へ~、そうなんだ。じゃあ、私も頑張るわ。応援が来るまで耐えてみせる」

 と、ここで新情報。

 先程遮ってしまったピーヤの報告。その続きがこの事だったのだろう。


「ん? 応援とは? 援軍ですか?」

 キエルドが代わって質問する。

「怪魚ですか? 何名程?」と追加で質問したが、ラパは「チガウ……」と一言呟き「ウメの仲間」と続けた。

「ウメ? ウメって?」

 ウメとは何だろうか。

 ルマーナはラパの顔見て質問した。

 しかしラパは遠い目をしていて「ウメ、ナツカシイ……後で会いたい」とその質問には答えなかった。

「ウメはウメよ。私は会った事ないけど昔からの友達ってハヴィ様に聞いてる。その仲間がこっちに向かってるみたい。娘さんの方にはウメが行くって。だからきっと大丈夫」

 代わりに答えたのはピーヤ。

 ピーヤ自身はウメの事をよく知らない雰囲気だった。

 怪魚ではないのだから他種族の何者か、なのだろう。

 ハヴィとは怪魚の王らしく、その友人というのであれば確実に味方だろうと判断出来た。


「そのウメってのは名前でしょ? 一体だけで戦うの? 本当に大丈夫なの?」

「ハヴィ様が任せてもいいって言ってるみたいだし、私達より強いんじゃない? それに、あっちにはペペとネロもいるから」

 ペペとネロは怪魚だろう。そしてウメはそれよりも強い何か。

 ティニャの方にはウメ、そしてその仲間がここに来るのであれば、こっちで敵二体まとめて相手にする必要はない。むしろ分散させた方が良いのではないだろうか。


「って話している内に着いたわ。この岩の上なら見晴らしも良いし、遠くを狙うには最高の場所だと思う」

 ピーヤが狙撃ポイントの大岩を見上げて言う。

 下からだと分かりにくいが天辺は平たくなっている様に見える。良く見ると階段に似た足場もあり、怪魚も日頃からこの大岩を使っている様子が伺えた。

「良いですね。ここなら姿が見えて直ぐに狙えます」

 草木が少なく、岩だらけの島。

 大小問わずそこら中に散らばる岩達は地上にいると視界を遮る。だが一際大きなこの岩の上ならば、キエルドの特技を遺憾なく発揮できると断言できた。

「敵もスピード上げたし、急いで配置についた方がいい。キエルド、行きな」

「分かりました」


 ラパ達と合流した時、敵の速度が上がったとピーヤから聞かされた。

 だから小走りでここまで来たのだが、まだ敵の姿は見えない。

 ピーヤ曰く、敵は真っすぐ広場まで迫って来るが、ガッバードの襲撃を避ける為、飛行高度は然程高くしていないらしい。

 この島の中心には超巨大な岩が山さながらに存在している。その岩の側面は削れていて、高い崖の様。

 長い年月をかけて崩れ落ちた欠片が周囲に大地を作り、島として姿を変えたものとみえる。

 敵はこの島の中心を突っ切る事が出来ない。必ず迂回してくる。

 こっちは敵よりも先に配置につき、戦闘態勢に入る事が出来るのだ。先手が取れるということは全てにおいて有利が付く。


「レッチョ、グレネードの準備。それとブレードも直ぐに装備出来る様にしてちょうだい」

「分かったでさ」

「ラパとピーヤは何処でもいいから隠れていて。左右に分かれてね」

「ワカッタ」

「ええ。出るタイミングはこっちで計るってことでいいのね」

「隙を作れれば、ね。無理はしないでちょうだい」


 作戦はこうだ。

 敵が見えたら、まずキエルドが狙撃。銃の……というより弾の効果がどれだけあるか確認する。一切の効果が見られなければ即座に撤退し、広場で待つ仲間に合流。硬体皮用大型ライフルに一縷の望みを賭けて対応する。もし、効果があった場合は、近づくまで出来る限りのダメージを与え、こちらに誘導する。キエルドは援護に徹し、ルマーナはグレネードで相手の隙を作る。その隙にレッチョ、ラパ、ピーヤで接近戦。ここで無理そうだと判断したら勿論、撤退。ダッシュで逃げる。が、いけそうだと判断出来れば、とにかくひたすらに攻撃。高振動ブレードは恐らく、怪魚の怪力や爪よりもダメージを与えやすい。最終的にはルマーナも敵の懐に潜り込み、斬撃を加える。あとは臨機応変。状況に応じて……気合いでなんとかする。

 正直、精神論まで加わった馬鹿で単純で且つ危険過ぎる作戦ではある。だがしかし、現状の装備を考えればこれが限界。ルマーナとゆかいな仲間達の頭脳ではこれが限界なのだ。


「さて、あたい達で何処まで出来るか……。ウメ?……の仲間ってのがどんな奴か分からないけど、下手に期待しない方がいいね」

 左腕のアームカバーと義手を外しながらルマーナは独り言ちた。

「そうでさ。期待し過ぎて裏切られたらルマーナ様の酒が増えるってもんでさ。へこみ過ぎると酒に逃げるのは昔から。これ以上増えたらアル中まっしぐらでさ」

 レッチョが小型グレネードランチャーを準備しながら無駄口を叩いた。

「うるさいね。余計な事言うんじゃないよ」

「そもそもウメって何者でさ。怪魚の他にも知能の高い生き物がいるって事でさ?」

「さぁね。でもたぶん、そうだろうと思う」


 ルマーナはレッチョが開けてくれたケースに半分しか無い腕を突っ込み、捻った。

 カチッと音がしてから引き抜き、固定ストックを上腕へ当て、ベルトを締める。

 そして弾がきちんと装填されているか確認した。

 ルマーナの専用武器の一つ、小型グレネードランチャーは六連の回転式弾倉を持っている。重量は意外な程軽いが、弾薬を入れればそこそこ重い。今回の弾はネオイット爆煙弾のみ。爆破と共に薄い煙幕を張る弾だ。

 準備を終えたルマーナは近くの岩陰に隠れて待機した。隣にはレッチョがいる。

 レッチョの武器は愛用しているインパクトハンマーだけ。だが、破壊力は凄い。

 接触時に三本の短いパイルバンカーが射出されるハンマーで、岩をも容易に砕く。とはいえ、使い手への衝撃も酷く、普通の人が素手で使えば自身の骨も砕いてしまう。これを扱えるのは骨太で更に耐衝撃性グローブを装備しているレッチョくらいだ。

 ルマーナはキエルドが登って行った大岩を見上げた。

 姿が見えないという事は既に配置についているのだろう。

 ラパとピーヤはどの辺りに隠れたのか。岩陰から身を乗り出して確認するが、二人の姿は見えなかった。

 小さく噴射機構の音が聞こえた。

 この音は聞き慣れている。空船と同じものだ。


『ルマーナ様、見えました』

 ライフルスコープの視界に入ったのだろう。

 イヤホンマイクにキエルドから連絡が入る。

「やっぱりあたい達を襲った奴?」

『ええ。飛んでる方はそうですね。ですが、もう一体は違います。何というか……運ばれてる感じです』

「……なるほどね」

 やはり敵の目的地は二つある。

 飛んでる方はティニャの元へ行き、運ばれている方がこっちに来る。

『こちらにはまだ気づいていないようです。撃ちますか?』

「やってちょうだい」

 どれだけの効果があるのだろうか。

 まだかなりの距離がある筈。それでも傷をつける事が出来たなら、僅かな勝機はある。


――ちょっとくらい希望を持たせてちょうだい。


 ダーンと音が響いた。

 音はきっと広場まで聞こえただろう。

 怪我人だらけの仲間達をこれ以上不安にさせたくない。これ以上メルティに続く犠牲者を出すのはごめんだ。

 出来る事なら、自分が、ここで、ぶちのめす。

 ルマーナは大きく深呼吸をした。

 精神論? それでいい。結局最後は気合いと根性なのだ。






 敵のスピードが上がった。

 索敵を三十キロ圏内にしていた為、六瀬は少し焦った。

 地上に出て、六瀬が直ぐに確認したのは仲間達の状況だった。

 行動を共にするルマーナ達と怪魚。

 いつの間に? 何があったのだ? と驚いたのは言うまでもないが、それよりもルマーナ達が広場を抜けて敵側へ向っている状況に驚いた。船の甲板には数名の船員が配置についていた。

 恐らく、敵襲に気づき、先発隊と守備隊に分けたのだろう。

 判断としては悪くない。だが、最善策とも言えない。

 敵はACSモドキだが、きっと通常兵器では倒しきれないだろう。

 ルマーナとの関係は今後役立つ。出来れば死んでほしくはない。

 無理するなよ、と思いつつ六瀬は急いで広場へと向かった。


 道中、アズリの方は気にしなかった。熱反応で位置確認すらしなかった。

 その理由。

 それはあちら側には勝機すらあるから。

 アズリにはスピースリーを持たせてある。一対一で、且つ接近武器のみであれば、ACS装備のレプリケーダーを追い払う事も可能。守る事だけに専念すれば、アズリ一人で全員を守る事も容易。

 そもそも多々良が向かう手筈となっているのだから、あっちは彼女に任せれば問題ない。

 任せた仕事は、任された側が責任を持って果たさなければならないのだ。


 六瀬は広場の外から回り込み、高い岩を駆け上った。

 二体の怪魚がこちらに気づき、顔を向ける。だが、じっと見ているだけで何もしてこない。

 正確に現状を把握する為、彼らと少し話がしたいと思ったがしかし、そんな時間は無いと即座に諦めた。

 六瀬は仲間が甲板に集まっているのを確認して、密かにサリーナル号の後方へ向かった。誰にも気づかれて無い事も確認し、扉を開け、自室へと入る。

 

 装備構成は既に決まっていた。

 余計なアタッチメント(付属装置)は持って行かないシンプルなフル装備。そして武器は六瀬愛用の物、一つだけ。

 これでも過剰過ぎるくらいだが、敵の戦闘能力はまだ分からない。

 安全を図り、そして生きたまま戦闘不能にするにはこれが一番楽で簡単だという判断。

 六瀬は悩む事無くACSの設定を済ませた。

 

 ACSの傍に置いてある横長の二つのケース。その内の小さい方を六瀬は開けた。

「数百年ぶりの出番だ。頼んだぞ」

 六瀬は愛用の……長刀”紫”に声をかけた。

 とその時、小さく銃声が聞こえた。

「……始めたか」

 六瀬は急ぎ、服を脱いだ。

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