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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 四章 指輪と秘密
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指輪と秘密【1】

 エメはノルエダーンの小型艇を借りて、タルズップ半島に向かっていた。

 飛ばしているのは勿論エメの父。

 小型艇の窓から覗く景色を見て、エメは懐かしさを覚えた。

 上空から見る景色と、地上から見る景色は違う。しかし、成人の儀式で歩いたルートは白く道が出来ていて、長年その道を沢山の人が歩いて来たのだと物語っていた。

 

 小さく人影が見えた。五人の男女が大荷物を抱えて祭壇を目指して歩いていた。

 そろそろ今年の成人の儀式が始まる頃だと気が付いた。

 歩いている者達は、儀式前に祭壇を掃除して、新しく飾り付けをする者達だ。

 片道だけで数日かかる道のりを船を使わず毎年歩いて、皆の為に準備する。

 歩く事自体が好きな者達だ、と聞いたことはあるが、こうして実際に見ると強い尊敬の念が生まれた。


 タルズップ半島はネードを背にして左、方位としては東にある。ネードから離れるにつれて海食崖が続き、徐々に高所となっていく。それは逆側からも続いていて、半島は海面よりもずっと高い位置にある。

 返し刃の付いた一本銛の様な形をしていて、銛の先端も返し刃の先端も上空から、それも真上から見ると本当に鋭い槍に見えるらしい。そこまで高度を上げない為それを確認する事は難しいが、崖の先端へ行くと、男でも足が竦むというのだから本当の事なのだろう、とエメは思う。

 内陸とタルズップ半島の境目には円形状の火山があり、小型艇は現在その火山の中腹辺りを旋回しつつ飛んでいる。

 丘陵地と谷が放射線状に伸びた山。

 成人の儀式の帰り道、あと少しでその険しい山道を越えられる、と思った矢先に怪我をした。

 景色を見て、多分この辺りだったな、とエメは当時の事を思い出した。


 誰も助けに来る事なく、きっと死ぬだろうと思った。でも朝日と共に目を開けると大人びたハヤヂの顔があった。気を失っている間も誰かに温められている感覚があり、命を救われた。それはネード神だったのかもしれないが、祭壇からは結構な距離がある。

 祭壇に現れるといわれるネード神は、たった一人で旅をする私の事を心配して追って来たのだろうか。それとも偶然見つけたのだろうか。等と今でも考える。だが、どんな理由があるにせよ、救われた事は事実。

 ハヤヂが見つけ易い様に荷物を山道まで運び、宝石のような石を胸元へ置いてくれた。

 そんな判断と行動が出来る動物は居ない。人間しかいない。だったら、他に考られるのはネード神しかいない。

 ならば今度は、私がハヤヂを見つけられるように、ネード神がきっと何かの目印を置くかもしれない。ただ悲しみに暮れて部屋に籠っていてはそれに気づけないのだから、奇跡にすがったとしても、自ら行動を起こさないと神は答えてくれない。

 そうエメは思う。


「山を越えて暫く行ったら、もう小型艇は使えない。歩くしかないぞ」

「分かってる」

 祭壇がある場所は、半島の中心辺り。近づくにつれ、祭壇への道は渓谷に入っていく。その為、直接小型艇で祭壇へは行けない。

 細く長い渓谷は迫り来るような高い崖と共にあり、別の世界へと誘われる錯覚を与えて来る。もし、別の世界があるのならば、それは神の世界……ネード神が住まう世界だろう。


「渓谷のギリギリまで行く。後は歩いて数時間。直ぐに着く」

「うん」

 祭壇は渓谷の突き当りにある。垂直の崖が三角形の広場を作り、その中央にポツンと祭壇が建っている。

 大昔はただ石が積み上げられていただけで、祭壇とは呼べないものだったらしい。だが、落ちた石で偶然出来たにしてはおかしな積まれ方だったし、そもそも中央だけに綺麗に置いてある様子は、何か別の意味があるのではないかと感じさせたと聞く。

 広場の天井には橋の様に掛かる岩があり、その隙間から差し込む陽光は祭壇を照らし、とても神秘的。いつの頃か知らないが、誰かが石を加工して装飾し、祭壇の形に作り上げた。それが余計に神聖感を与え、今に至るまでネード神の祭壇としてその任を務めている。


「祭壇に行ったとしても……何も無いかもしれないぞ」

「……だとしても、行く」

「神は常に、俺達人間に寄り添う訳じゃない」

「……知ってる」

「祈りに答えて、手を差し伸べる訳でもない」

「……でも、私は祈る」

「……そうか」

 きっと何か、必ず何か、救いがあるはず。……私を見捨てなかったのだから。

 エメはそう思いならが、座席ごと父の肩をギュッと抱きしめた。

 後ろから腕を回された父は、エメの手を握る。


「大丈夫だ。信じろ。ハヤヂはお前を置いて消えたりしない」

「何でそう思うの?」

「お前の母も、ハヤヂの両親も、子供達を置いて天国へ行ってしまった。だが、俺は居る。こうしてお前達の傍にいる。小さい頃から見て来たが、ハヤヂは俺に似てるんだ。昔の俺にな。それにあいつは……俺の息子だからな」

「父さんの? それは……違う」

 姉弟だと言われたら、父にすらそう思われていたのなら、この恋心は何処へ向ければいいのだろう。

 それだけは……嫌だ。


「いや、違わない。エメ、お前が、ハヤヂを俺の息子にしてくれる。そうだろ?」

 背中をバンッと叩かれた気がした。

 父は私の恋心に気づいていたのか……とエメは驚き、同時に幸せを感じた。

 事あるごとにハヤヂを店に誘い出し、試食と称して渾身の料理を振る舞い、ちょいちょい仕事をさぼって愚痴語りという名目の逢引きをする。

 堂々とそんな事をしていれば、知っていて当然か……と今更になって自覚した。

「……うん。そうだね」

「あいつは、自分の両親とお前の母の死を見て来た。だから強くあろうと、一人前の男になろうとしている。……だが、そんな事はどうでもいいんだ」

「……何故?」

「男でも守れる人数には限界がある。俺みたいに守れない奴だっている。人一人に出来る事は限られているんだ」

「……うん」

「なら、ハヤヂは、そしてお前も、互いに一人だけを守ればいい」

「……うん」

「妻を守れなかった分、俺は娘と息子を守る。”エメの店”のキッチンでな」

「……うん。ずっと見守ってて」

「だから、早くしろよ。変な冗談は言うが、本当のあいつはシャイで奥手だ。分かるだろう? だから、お前から、行け」

「……がんばる」


 昔から嗅いできた父の臭いが鼻を抜けた。男の人独特の香りと、最近増えた加齢臭。店に来る客達とはちょっと違った嫌いじゃない香り。

 目の前にある父の頭頂部。昔と比べて随分と減ってしまった髪の毛は、隙間から頭皮を覗かせている。

 ハヤヂは俺に似ていると語る父。

 似ているのなら、ハヤヂもいつか父と同じ香りを放ち、頭の上も寂しくなっていくのだろうか。

 だが、それでもいい。

 嫌いじゃないから、それでもいい。

 エメは両腕に力を込めた。

 更にギュッと力強く抱きしめた。


「とりあえず作れ。責任取らせるのが一番早い」

 エメは父の頭をポコッと殴った。

 てっぺん禿げ広がっちゃえ。という気持ちで殴った。

 でも……多分そうする。と、恥ずかしい事だが、密かに同意していた。






「様子がおかしい?」

 ラブリー☆ルマーナ号の甲板で怪魚達の警戒任務に就いていた男から連絡が入った。ガレート狩猟商会の船員で、名前も知らない男だが、ルマーナは遠慮なく「どういう事? もっと詳しく説明しな」と命令口調で話す。

『いや……何と言うか、こっちを見ていないんですよ』

「は?」

『今までずっと我々を監視している感じでしたが、今は広場の向こうへ顔を向けて、別の何かを警戒している雰囲気でして……』

「何かって何!」

『し、知りませんよ』

 ルマーナは俯き、じっと考えた。

 暫く無言が続き『ど、どうしました?』とイヤホンマイクから声が届く。


「ちょっと話してみるわ。あなたはそのまま警戒してなさい」

『は? え? 話すって怪魚(奴ら)とですか?』

「他に誰が居るの」

『いや、ちょっと、危険です。そもそも会話出来るんですか?』

「感覚的ではあっても、意思疎通ができる相手だと思ってる」

『ほ、本気で言ってるんですか?』

「本気よ。小規模でも何かしら集落を作って、集団行動するくらいの知恵はあるとみてる」


 知能も何も無い、ただ生きる為に本能のまま行動する生物? 否、数日間様子を見ていれば、怪魚がそんな低俗な生物では無いと判断出来る。

 何が目的なのか、何がしたいのか。それは未だに分からない。しかし、敵では無いのかもしれない、と今ではそう感じる。


『しかし……』

「あなたは狩猟商会の人間でしょ? それくらい感じないの?」

『普通とは違う……と思います。しかし、獲物の隙を狙っているだけ……とも取れますし』

 男の言いたいことは分かる。

 集団行動で獲物を追い詰める程度の知恵を持つ生き物は普通にいるのだ。

 それらと似た様な物……と考えるのは妥当。

「……あたいを信じな。とりあえず、下手に撃つんじゃないよ」

 だがルマーナはそれを否定する。

 刺激しなければ多分大丈夫、という自信があるのだ。

『……危険を感じなければ』

 最後にそう言って、男は通信を切った。


「キエルド、レッチョ、聞いてたね」

「ええ。聞いていましたよ」

「勿論でさ」

 共に船の修復作業をしていた二人は即答した。

 ラブリー☆ルマーナ号の警戒任務に就いている男達と、ルマーナ、キエルド、レッチョはイヤホンマイクでいつでも連絡が取れる様にしてあった。

 勿論、会話もグループ共有ができる設定。

「キエルド、あんたはあたいについて来なさい」

 そう命令すると、キエルドは「まずは手ぶらで?」と質問で返した。

「会話と交渉は安心と信頼。相手に警戒されてたら何も上手くいかないんだよ」

「ですね。しかし、本当に会話出来ると思ってますか?」

「キエルド、あんたはどう思う? 仲間の遺体を丁寧に運ぶ野生動物っていると思う?」

「いませんね。恐らく、ボディーランゲージで最低限の意思疎通が出来る程度の知能は持ってるかと」

「黒い変なのに襲われた時のあいつらの行動、あんたはどう見る?」

「……止めようとしていた。又は敵対していた。少なくとも、人を襲う気配はありませんでしたね」

 キエルドの答えは、ルマーナの答えと同じだった。

 ルマーナは求めていた答えを得て、相手を称するようにコクリと頷く。


「あの時のあたい達は、少なくとも怪魚を敵では無いと判断した。今は一応の警戒はしてるけど、一切何もしてこない。アレは……味方かもしれない」

「……100%とは言い切れませんが、個人的には同意です」

「怪魚は何かに警戒している雰囲気だと言ってたでさ。なら……」

 とレッチョ。

 その答えは皆同じ。

 ルマーナは「黒いのが来るかもね」とレッチョの答えを遮る様に言った。

「私もそう思います」

 キエルドは同意し、レッチョは頷く。


「レッチョはあたい達が直ぐに仕度出来る様に準備してなさい。まずグレネード。予備でブレード」

 小型グレネードランチャーと高振動ブレードはバイドンに作って貰ったルマーナ専用の特殊装備。スタンパイルは使い捨ててしまい、もう無い。

 レッチョは「了解でさ」と即答し、武器庫へと走った。

「とにかく、話してみるしかないね。行くよっ」

 静かに返事をしたキエルドがついてくる。

 周囲で作業をしている誰もが、何事か⁈ といった表情でルマーナ達を見た。

 ともかく今は怪魚と話がしたい。

 ルマーナは全てを無視してラブリー☆ルマーナ号を後にした。






 ラブリー☆ルマーナ号とサリーナル号は少しずれてはいるが、殆ど同じ方向を向いて停泊している。

 ラブリー☆ルマーナ号の船首甲板側の岩壁に一体、サリーナル号の船首甲板側に一体、そして少し距離がある左舷側に二体。いつの間にか怪魚は四体に減っていて、現在の位置はこの三方向にしか居なかった。

 ルマーナはラブリー☆ルマーナ号から一番近い怪魚へ向かって歩き、高い岩壁の真下で足を止めた。

「ちょっと、そこのあなた!」

 ルマーナは警戒も遠慮も無い堂々とした態度で、岩の天辺に座る怪魚へ声をかけた。

 顔面が強烈に怖い怪魚だった。

 しゃくれた顎に無数の牙があり、横長の大きな目が上下に二つ並んでいる。胴体は筋骨隆々で、鋭い爪が目立っていた。

 その怪魚は立ち上がり、ギロッとルマーナを見据える。


 遠慮の無い態度、それはルマーナの強がりだった。

 正直、内心ではドキドキしている。目が合えば当然、ビクッとした恐怖が体を強張らせた。

 怪魚は巧みに岩を駆け下りて、ルマーナの目の前にドスンと直地した。

 ルマーナとの距離は三メートル程度離れていたが、想像以上に大きかった為、その距離は無いものに感じた。

「よ、様子がおかしいけど、何があったの?」

 軽くジェスチャーを加えて、挨拶無しに、即質問する。

 知り合いと接するような雰囲気を作れば、こちら側に敵意は無いと感じ取ってくれるだろう、という判断。


「……怖くナイノカ?」

 大きな口から舌を覗かせて怪魚はしゃべった。

 この瞬間、恐怖は薄れ、驚きへと変わった。

 そして確信した。

 怪魚はその外見とは裏腹に、内面は人に近しい存在だと。

「お、驚いた。言葉が話せるなんて」

「いや~、これは本当に驚きですね……まさか人間以外にこんな……」

 ネードの民は怪魚が危険な生き物だという。

 それはきっと、彼らとはコンタクトが取れないと思っているから。会話なんて試そうともしないし、しようとすらしないから。

 瞬間的にそう思ったルマーナは、チラリとキエルドへ目をやった。

 キエルドは頷いて「ネードで聞いていたイメージとは違いますね」と答えた。


「怖ガラセタクない……。人間、怖がる、ツライ」

 悲し気な表情なんて分からない。しかし、声の雰囲気でそれは感じ取れた。

 この怪魚は怖がられるのが辛いという。

 自身の外見は、人から避けられるレベルのものだと理解しているのだ。

 集団行動が出来る程度の知能ではない。怪魚は人の感情を理解出来る程に優れた生物といえる。ならば、軽口やジョークも通用するかもしれない。

 ルマーナは自ら怪魚へ近づき、見上げた。

 そして視線を合わせてじっと見つめ、

「人から見たらかなり怖いわよ、あなた。でも、その大きな瞼の奥にある瞳は、綺麗だよ」

 と、言った。

 目を見開いて驚く怪魚を他所にルマーナは「話せるなら何で声かけないの。敵か味方か分からないんだから、警戒してるこっちの身にもなりなさい。まったく……」と続けて、握手を求めた。

 差し出された手とルマーナの顔を交互に眺める怪魚は、戸惑いつつゆっくり腕を上げる。

 じれったさを感じたルマーナは、爪に触れない角度で強引に握手をした。

 怪魚の手のひらは大きすぎて、太い指を二本掴んだだけの不思議な握手だった。


「で、名前はあるの? あたいはルマーナ、こっちののっぽはキエルド」

「……ラパ」

「いい名前ね」

 外見に反して可愛すぎる名前だと思ったが、それは飲み込んだ。

 ラパはまだ握られたままの自分の指を見て「……嬉しい」と呟いた。

「何が?」

「怖ガラナイ。嬉しい。ラドが生きていたらラドも……ヨロコブ」

 ラドとは誰の事か分からないが、きっと家族か何かだろうと思った。

 生きてたら、というのだから、死んだという事。そして恐らく、黒い奴に殺されたのだろう。

「……そう。喜んで貰えて幸いね」

 もう恐怖は無かった。むしろ親しみすら感じていた。

 次いでキエルドが挨拶しつつ握手をする。

 その握手にも若干の戸惑いを見せるラパ。

 その間にルマーナは、イヤホンマイクのスイッチを押して「彼らは味方だよ。絶対に手を出さないでちょうだい」と連絡を入れた。


「それよりも何があったの?」

 怪魚とコンタクトを取った目的へと戻る。

 ラパは一度空を見上げ、警戒していた方向を指差した。

「敵……クル。まだ遠く。デモ、分かる。飛んでクル」

「例の黒い奴?」

「ソウだ……」

「やっぱりね……ところであなた達はあの黒いのが何か知ってるの?」

「ワカカラナイ。でも敵。強くて硬い」

 ルマーナは腰に手をあてて「ん~」と自身の考えを整理する。


「そもそも生物なのでしょうか?」

 キエルドが声をかけてきた。

 キエルドとは長い付き合い。

 こっちの考えている事を質問形式で代弁してくれるので助かる。

「……何とも言えないね。金属の体を持つ巨獣もいるって話だし、鉄板みたいな鱗を持つ生き物もいるし、あんなのがいてもおかしくない。でも……」

「機械の鎧を着た人間と仮定すれば、中身は人……という可能性も」

 ネードという街では、港と軍施設と小さな工業エリア以外に機械的な物は殆ど見当たらない。自然と共に自由に生きている感じがする。

 鉄とパイプと機械ばかりの街、グレホープの思考とネードの思考は恐らく違う。

 襲われた時の通信を聞く限り、オーカッド達は黒い敵を謎の()()と判断していたようだが、ルマーナからすれば高度な機械技術で武装した()()かもしれないという予測へと思考が傾く。

 勿論、バイドンという機械ヲタクな知人がいるからでもあるが。


「それはあたいも考えた。バイドンくらいの知識と技術があれば可能かもしれない」

「知識と技術の殆どは貴族連中が囲ってますからね。上には彼以上の技術者がいますし、不可能ではないかと」

 キエルドの考えと、自分の考えは一致している。

 ルマーナは小さな溜息と共に納得した雰囲気を見せて「そう、だね」と答えた。

「……アレは人チガウ。オレ達も、人も、平気で殺す。アレはチガウ。敵」

 人とは違う別の生物と言いたのか。又は人であると認識したくないのか。

 どちらにせよ、直接、間近で確認しなければ分からない。

「ま、こんな所で考えたって仕方ないね。ともかく、どうにかしないと……。さて……」

 勝算があるかどうか……。


「普通の銃は効きませんでしたね」

「キエルド、あんたの恋人ならどうにか出来そうに思えるけど?」

「貫通力は高いですからね。しかし、試してみない事には分かりません。……やりますか?」

 こうなる事を予想して、レッチョに準備をさせている。

 出来る事なら皆を巻き込みたくない。

 船の修復に専念して貰って、出来る限り少数精鋭で対応したい。

 ならばまずは……。


「あたい達だけで行くよ」

「……死ぬかもしれませんよ?」

「ヤバいと思ったら即撤退する。それに、何処まで攻撃が通じるか確認しておいた方がいい」

「確かに。オルホエイ組は硬体皮用の大型ライフルを一丁持っていた筈ですからね。多少なりとも私の銃が効くのであれば、望みはあるかと」

 まずはこちらの戦力で何処まで対抗出来るのか知っておかなければならない。

 一番強力な戦力は船の甲板にでも配置させておき、撤退後に広場にて一斉射撃で対抗するのが望ましい。悠長に敵が現れるのを待ち、最初から最終防衛線で戦うのは馬鹿だ。確実に向こうからやってくるのであれば、一旦広場の外で少しでもダメージを与えておくのがベスト。


「よし。じゃあ一度戻るよ。あなた達は手ぶらなんだから無理はしないで」

 手ぶらとは怪魚達の事。

 どんなに鋭い爪や牙があったとしても、生身の接近戦では分が悪い。

 実際、船の甲板で容易く(ほふ)られていたのだ。

「トモに戦ってくれるのか?」

 仮に接近戦をするのであれば、隙を作ってから行わなければならない。遠距離攻撃が出来る人間側の協力があれば怪魚達も立ち回り易いだろう。

 勿論、攻め込める隙があればルマーナ自身も接近戦をするつもり。

 その為の高振動ブレードなのだ。


「当たり前でしょう。何言ってるの」

 もう既に仲間なんだから、という意味を込めてわざと素っ気なく言った。

 すると、ラパの瞼が形を変えた。

 それは彼なりの笑顔なのだろう、とルマーナは感じた。

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