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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 三章 女王
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女王【11】

 多々良はピタリと足を止めて「……タイミング悪いわね」と言った。

 六瀬はこめかみを変形させてからコードを伸ばし、多々良へと向けた。

 多々良はそれを受け取り、自身のこめかみへと接続させる。

 近くに居れば無線で情報共有できるが、それは情報共有のみ。設置してきたIFF‐サーチはキューブ専用装備である為、多々良は使用できない。だが、直接六瀬と繋げることで、一部の操作は可能となる。

「……何? こいつら」

 そう多々良が言う。

 その台詞に、六瀬も同意する。

「レプリケーダーでは無いな」


 三十キロ圏内に侵入した異物は二体だった。

 一体が空を飛び、もう一体を運んでいる、という構図。

 外装のシルエットを見る限りスカイとビルダーの二人組と思えるが、デザインが見た事も無かった。

 そして、熱量も尋常ではなかった。

 スカイの飛行行動はその性能故に多少の熱を発生する。が、出来る限り索敵を避ける為、高速飛行でもしない限りは熱量を抑える事が出来る。勿論、極力、反射波がサーチレーダー発信源へ戻らないようにしている為、ステルス性能もそこそこ高い。

 しかし、このスカイと思しき敵は、ステルス性能皆無で、まるで見つけてくださいと言わんばかりの熱量を発していた。更にスピードも鈍足。重いビルダーを運んでいるとはいえ、いくら何でも遅すぎるし、そのスピードで発する熱量と考えれば、ACS(アクス)の程度が知れるレベル。あまりにも低性能なACSである為、そもそもACSであるのかさえ疑問だった。

 

 スキャンを試みると簡単にその身を晒し、礼儀正しく情報を与えてくる。

 ACSの内部は人型の何か。というか実際、ほぼ人間だった。

 リアクターの存在は確認出来ず、がっつりと生命反応がある。

 多少の違いは、体を弄っているという点。


 二人共四肢が義肢となっていて、大胸筋や腹直筋、脊柱起立筋を含めた広背筋全体に人工筋線維を伸ばしていた。

 ダイバーボーグは機械の四肢を最大限に利用する為、筋力補助システムを装備する。それはあくまで装備であり、筋線維を人工的にするのはバイオロイドのみ。

 故に、敵二人の体はダイバーボーグとバイオロイドのハイブリットと言えた。

 強化生成物と機械との相性は悪い為、高頻度でメンテナンスをする羽目になり、体の維持費でそこそこ金がかかる改造。しかも、寿命も短くなる。

 母星では極々稀に見かけたが、誰もやりたがらなかった方向性。名称すらない。


「こいつら二人、お前はどう思う?」

 多々良に問う。

「ダイバーボーグとバイオロイドのハイブリットね。性能は良いけど、こんな死に急ぐ弄り方するなんてまともじゃないわ。でも、これを可能にする技術者がいるのは確かね。人の命を屁とも思わない奴でしょうけど」

「装備はACSに似せて作った【Bionics android Rein(B I A R A)forced armor】といった所か? 初めて見るな」

 BIARA(ビアラ)とは、バイオロイド専用の戦闘服の様な物。デザインはその国によって様々だが、基本的には高機動と高硬度に重点を置いた鎧となる。

 ACSの様に役割分担されておらず、その都度アタッチメントを変えて使用する装備。

 【Bionics android(バイオロイダー) soldier】の位置付けは、一般兵とそう変わらないが、そもそもの身体能力に加えてBIARAを装備してるのだから、言わずもがな、一般兵の上位互換となる。

 因みにダイバーボーグは傭兵として活動する場合が多く、個人で装備を買い揃える為、デザインも能力も様々。


「BIARA……バイオロイダー専用装備ね……。でも、どう見たってACSでしょ? あいつらレプリケーダ(私達)ーにでもなったつもりなのかしら」

「ハリボテだろうがな。見てみろ、体を弄ってるにも関わらず、更に強化スーツまで着ている」

「重すぎてやっとやっと装備してる感じなのね」

「素材は主に鉄か何かか?」

「だったらしょぼいわね」

「まぁなんにせよ、然程脅威ではないな。唯一の不安要素は、狙いが人間だろうという点だ」

「一直線にルマーナ達の所へ向かってるわ。仲間を連れて再度襲いに来たのね」

「……いや、恐らく目標は二つ。ビルダーはルマーナ達で、スカイの狙いはティニャ達の方だろう」

「何でそう思うの?」

「先日の強襲は、まずオーカッドの船へ、そして何もせずにルマーナの船へ、という行動だったと説明にあった。殺したのは襲って来る怪魚だけだ。奴らは何かを探していた……狙うべき人間がいた。と考えれば、その行動に理屈が加わる」

「……たしかに」

「だとすれば、二手に分かれる可能性が出て来る。ま、実際何が目的かは分からんし、推測の域を超えないがな」

「ならこっちも二手に?」

「それが最善だろうな。予想が外れて二対一になってもお前ならやれるだろ?」

「同類じゃないしね。この程度の敵なら余裕でしょ」

「なら俺はルマーナ達の方へ、お前はアズリとティニャの方へ」

「了解」

 言って、カチッとコードを引き抜く多々良。

 六瀬へ渡し、ハヴィに顔を向けた。


「ハヴィ。私のACSって保管してあるわよね?」

「あの黒い箱だろう? 勿論。大切に保管してあるよ」

「ここで着てくから、驚かないでね」

「敵か味方かくらいは分かる。それよりも敵は空を飛ぶ一体だけではないのか? 我々はそれしか知らぬが」

「残念ながら今回は二体よ。他にも居そうな気がするけど。……そういえば何であなた達は戦っていたの? 人を守る為だけじゃないでしょ?」

「奴は数年前に突如現れた。時折人を殺し、我々にも手を出した。我々に対しては視界に入っただけで問答無用の虐殺が始まる。そう易々と勝てる相手ではないと分かっているがしかし、恨みは強く、子らは負けると分かっていても戦いを挑む」

「そう……。ラドが見当たらなかったんだけど、まさか」

「戦死したよ」

「ポミィは何も言わなかったわ。……気を使ったのね」

「ウメ、うぬなら勝てると?」

「余裕よ。こうみえて結構強いんだから。私」

 多々良は力こぶを作る格好をして腕をポンポン叩いた。

 ハヴィは目を細めて「我は良き友を得た」とそれに答える。

「私もよ」

 多々良もニコッと笑って答えた。


「多々良、出来るだけ生け捕りにしろよ。情報を得たいからな」

「確かにそうね。スカ……飛べる奴が私の所に来たら行動不能にしてここへ連れて来るわ。始末はその後にする。その方が良いでしょ。ハヴィ?」

「譲ってくれるのか?」

「ええ。どうぞ。好きにして」

 情報を得た後なら好きにしても構わないと六瀬も思う。

 敵はただ乗り込んで来ただけで何をしたわけでもないが、結果、ルマーナ達を酷い目に合わせた。こちら側にも恨みはあるが、圧倒的な恨みは怪魚側にある。

 もし本当にスカイが多々良側に来たのなら、敵討ちは怪魚達に任せればいい。

「俺は先に行く。そっちは頼んだぞ」

「ええ。任せて」

 六瀬は緞帳を後にした。


 整備された石畳をこつこつ歩きながら考える。

 相手がビルダーならば、近接戦闘が有効。ならば、余計なアタッチメントを付けない機動力重視のフル装備にし、近接武器で挑もう、と。






 ウメを黒い箱の保管場所まで案内させ、静かに懐かしさを噛みしめるハヴィ。

 長い指で腹部を撫でて、羊水の中で幸せそうに育つ子供達を眺める。

「ハヴィ様。”知識の個(シド)”様は何と?」

 側付きの子、リーエが問う。

「任せてもいいと言ってるね。それに久方ぶりのウメを見て喜んでいた」

 ウメと、もう一つの異物、否、もう一人の男、六瀬。

 人よりも優れた存在である事は知っているが、その実力までは知らないハヴィ。

 しかし、()()()()()()()()がそう言うのだから、そうなのだろう。

「”星脈の個(パル)”様にも会えましたしね」

「それも同一体だったようだね。アズリと言ったか……次また会えるといいねぇ」

 アズリと再会できる事を願うハヴィ。再会するのはハヴィではなくシドの方。


「やはりシド様はそろそろ……?」

「我も寿命が近い。次に行くには良い頃合いだろうねぇ」

「……寂しくなります」

 リーエの言葉はハヴィに対してか、シドに対してか。その両方か。

 どちらにせよ、ハヴィから見ればシドしかいない。

 リーエの言葉に、それは我もだ、とハヴィは思う。


「……疲れたね。起きているのもやっとだよ」

「失礼しました。ゆっくりとお休み下さい」

 ウメとの会話は最高の享受。

 外の世界を語り聞くのは本当に楽しい。

 様々な事を聞き、シドの知識と共に少しずつ豊かになる街と子供達。

 もう先は長くないのだから、せめて最後に、ゆっくり話したいと思う。

 そして出来るの事なら、次もまた、シドが我々の元へ帰ってくる事を願う。


 ハヴィはゆっくりと目を閉じた。

 今では一日の大半をシドに譲っている。

 今、お腹にいる子達はきっと、シドに似た賢い子になるだろう。

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