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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 三章 女王
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女王【1】

 大きくも無く小さくも無く、といったサイズで、ポツポツと生えている草木が逆に目立つ岩だらけの島が目的地。

 その島の周辺には白い塩塔島や緑の生い茂った島、珊瑚とかいう植物で出来た色合いが美しい島や高い山と砂浜のみで構成されているシンプルな島等々が点在している。

 レインシャークは岩だらけの島を中心にその近海を回遊していたらしいが、今はその姿を消している。空船よりも上空には、大きな鳥がガッガッと低い鳴き声を響かせながら飛んでいて、これがガッバードなのだと直ぐに気が付いた。


 ガッバードよりも高い位置で捜索出来たのならば、レインシャークの影を発見し易い。又、せり上がった形の島や高い山を持つ島の影が邪魔になる事も無いだろう。

 ネード海での漁は、基本的に島と島の間を通航しながら行うものであり、島が密集している場所では相当難しい漁になるかもしれないと思えた。

 狩猟や船掘も危険な仕事だが、漁師という職もかなり危険な仕事なのだろう、と改めてアズリは思った。


「見つけた?」

 チラチラと海面を注視しながら岩だらけの島へ目を向けるレティーアが問う。

「ううん。まだ」

 ルマーナ達が墜落したと報告があった”怪魚の巣”に到着し、その島の周囲をゆっくりと回るサリーナル号。

 時計回りで捜索している為、右舷側の船員達がラブリー☆ルマーナ号の船影を探している。

 しかし、あまりに多い岩々が邪魔で、島の三分の一を過ぎてもまだ確認出来ていなかった。


「これはこれですっごい島ね」

「うん」

 島の一番の特徴は、せり上がった大地の上に巨大な一枚岩が乗っている風景。その一枚岩の壁面が削られていて、その破片が周囲にゴロゴロと転がり、それ故に岩で覆われた島という様相を呈している。

「船は確認されてるから何処かにいる筈だけど……これじゃ……」

 レティーアの言いたい事は分かる。

 空船は遺物船の様に硬い船で無いのだから、もし勢い良く墜落したのならば簡単にズタズタになるだろう。

「損傷具合は分からないけど、一応、不時着出来てるって話だから……きっと大丈夫」

 そう答えると「朝まで飲み明かしたいってメンノが言ってたっす」とザッカが声をかけてきた。


「ルマーナさんのお店で?」

「そっす」

 ザッカは解体班。メンノは探索班。担当は違えど二人は集団行動の際、いつもタッグを組む。

 だが、声をかけてきたのはザッカだけ。メンノがいない。

 アズリは船首へ顔を向けた。

「ロクセさんに連れて行って貰って?」

「そもそも、高くて自腹じゃ飲めないっすからね」

 船首を陣取り、身を乗り出す勢いで島を凝視するメンノがいる。

 双眼鏡を片手に持って、裸眼と交互に捜索を続けていた。


「行くときは言って。私も行く」

「同じく」

「二人も気に入ったっすか? あの店」

「オシャレ指南してもらって美味しいご飯も食べれるって最高でしょ」

 キャニオンスライムの件の後、二、三日オフがあったのだが、その間に一度ルマーナの店へ招待された。

 レティーアはパウリナ達にメイク指導と普段着のコーディネート指南を受け、豪華な食事を堪能した。

 その日のレティーアの興奮具合は、リビが見たら当分それをネタにからかわれる程だった。

「でも、支払いは結局ルマーナさんだし、申し訳ない気がする」

「お客としてじゃなくて、普通に友人として遊びに行っても良いんじゃない? メルティさんもパウリナさんも、いつでも遊びに来てって言ってたし」

「だったらまずは船を見つける事っすね」

「そうね。メンノは目が良いから。あとは……」


 皆、何か一つ特技を持っている。

 ザッカは遺物船の解体や機械整備が得意。レティーアは射撃の腕。そしてメンノは視力と記憶力。

「祈るしかないっす」

「きっと大丈夫。メルティさんも、パウリナさんも。ティニャちゃんだって無事。ルマーナさんがついてるんだから」


 自分の特技は探し物を人より少し早く見つける事と料理。

 材料はいっぱい積んで来た。

 作る時間があるのならば、美味しい料理を振る舞ってあげよう。だから無事でいて欲しい。

 そう思いながらアズリは”怪魚の巣”へ視線を戻す。

 ラブリー☆ルマーナ号の姿はまだ見えなかった。






「二人の様子は?」

「痛み止めで落ち着いてる。睡眠誘導剤で今はぐっすりさ」

 ラブリー☆ルマーナ号の医務室。二つあるベッドはカーテンで仕切られていた。

 ルマーナは船医の答えを聞き、カーテンを少し開けて覗く。

 二人共ぐっすり寝ていて、酷い怪我を負っている様には見えなかった。


「相変わらず腕が良いね。闇医者なんてやめちまいな」

「上の連中に気を使うのは嫌だからね。ひっそりとやっていくくらいが丁度いいのさ」

 船医の女はそう言ってカルテをトントンと叩いて揃えた。

 普段はロンライン二番通りの奥でひっそりと医院を開き、歓楽街で働く女達の面倒を見ている。そして船掘業の時はラブリー☆ルマーナ号の専属船医として働いている。

 ルマーナが左腕を無くした時も世話になっていて、義肢の神経ハーネス手術を行ったのも彼女だった。


「まぁバイドンの趣味もあるからね」

「良い小遣い稼ぎになる。これからも稼がせて貰いたいからね、捕まって貰っちゃ困るのさ」

「あたいと同じく、二人もバイドンの世話になるだろうし」

「ローサは左足。キャロルは右腕。手足一本で済んだのは不幸中の幸いってとこだね。メルティに比べたら安いもんさ」

「……他の中軽傷者の具合は?」

「問題無いね。でも腹は減らしてるだろうよ」

「……そう。分かったわ」

「外の様子は?」

「相変わらず襲って来る様子は無いわね。一応警戒はしてるけど」

「刺激しないのが得策だね」

「分かってる。じゃあ、ペテラ、後はよろしく」

 ペテラは「あいよ」と言って引き出しを開け、カルテを仕舞った。

 

 ルマーナは医務室を出て、甲板へ向かった。

 甲板にはレッチョとキエルドとベティーが武器を片手に警戒任務に就いていた。

「ルマーナ様、ローサ達の様子はどうでしたか?」

 キエルドが言う。

「ぐっすりだよ。あたいも昼寝したいくらい」

「何言ってるんですか。日が昇ったばかりで」

「こっちは夜通しでさ。寝たいのはおいら達のセリフでさ」

 キエルドとレッチョが少し強い口調で答えた。

 冗談なのに通じていない。「冗談だよ」と返したかったが、場の空気を読まない台詞を吐いてしまった自分が悪いと感じ、何も言わなかった。


「……状況は?」

「相変わらずですね」

「こっちを眺めてるだけでさ。それに最初に比べて随分減ったでさ」

「数は?」

「今は五体。岩の影に隠れてチラチラ見てるやつが三つ。堂々としてるやつが二つってとこですね」

 とキエルドが答える。 

 ルマーナはぐるっと周囲を見渡した。

 確かに岩の影から顔だけを覗かせている個体が三体いて、堂々と座って様子を伺っている個体が二体いる。

「何がしたいんだろうね」

「縄張りに入って来た異物が敵なのか味方なのか探ってるって所でしょう。やはり回収させたのが効きましたね」

「黒いやつにやられた同族の遺体。あんなに大事そうに抱えて持ち帰るんだ。それなりに知恵があるんだろうね」


 話に聞いていた怪魚。

 一体一体姿が違っていて、それぞれに個性がある。

 長い尻尾の様な尾びれに短い足が生えている個体や、太い足と腕を持つ人型の個体。ヒレがついた長い腕を持つ個体や凶悪な形相の頭部を持つ個体など様々。

 船が落ちた後、数十体もの怪魚が姿を現した。

 怪我人も多く、死者も出た為、こっちには応戦している余裕は無かった。

 いっぺんに襲ってきたらどうする事も出来ずに蹂躙されるだろう、と思っていたのだが、しかし、彼らはずっと様子を伺っているだけ。

 もしかしたら甲板に散らばった同族の遺体を欲しているのかもしれないと考え、船から少し離れた場所へ丁寧に並べた。

 するとそれを回収し始めて、少しずつ姿を減らし、そしてまた、様子を伺うだけに至る。


 キエルドの意見に無言の同意を見せて、ルマーナは船首へ足を運んだ。

 背の高い岩々に囲まれた空間。だが、一か所だけ隙間があった。

 その隙間には船の塗装がこびり付いていて、その奥には海が見える。

「あの隙間が無ければ……生きてなかったね」

 ボソッと言うと「メルティの判断に感謝です」とキエルドが答えた。

 重力制御が殆ど効かず、爆散不可避の滑空をみせたラブリー☆ルマーナ号。

 メルティが舵を切り、彼女は咄嗟の判断で岩と岩の隙間に船を突っ込ませた。

 船の幅よりも少し狭いその隙間は、挟み込む様に落下の勢いを殺し、無事に船を不時着させた。

 殆どの船員が生きのびた功績は全てメルティにある。


「メルティ……」

「寂しくなりますね。明るい子でしたから」

「サラは……まだ?」

「ええ。食事以外はずっとメルティの傍に居ます」

「そう……」

「偶然席を外していただけですから。彼女の責任ではないのですが」

「同じ操縦士として仲も良かったからね。気持ちは分かる」

「パウリナも行方不明ですから操縦士は彼女だけです。しっかりして貰わないと……」

「……探査艇さえあれば」

「修理中でしたから仕方ありません。救助が来たら捜索して貰いましょう」

「パウリナ、ティニャ……」

「岩の間からネードの船が何度か見えました。もしかしたら既に救助されているかもしれません。こちらの救助は船掘船が来るでしょうから、カルミアから来たとして恐らく本日。状況はその時に分かる筈です」

「そう……だね」


 ついでに稼げて一石二鳥と思いながらバカンス気分で来たネード。

 まさかこんな事態になるとは思わなかった。

 犠牲者を出し、船もボロボロ。大切な家族も行方不明。

 今まで味わった事の無い事態に心が折れそうになる。

 もし、助けに来た商会がオルホエイ船掘商会だったのならば……ロクセが来たのならば、顔を見た瞬間に泣いてしまうかもしれない。

 ロンラインで、ルマーナ船掘商会で、どれだけ強気に生きて来たとしても所詮は女なのだ。

 惚れた男の姿を見た途端、少女になってしまう自分が見える。だが、自分は強くいなければならない。落ち込んで嘆くサラや、怪我をした船員達に弱い自分を見せてはいけないのだ。

 ルマーナは大きく息を吸って、大きく吐いた。

 背筋を伸ばして顔を引き締める。


「引き続き、警戒してて頂戴」

「わかりました」

「わかったでさ」 

 ルマーナは踵を返して船内へと向かう。

 次は整備班の作業確認だ。

 そして雑用でも何でも、出来る事は出来るだけ手伝う。

 このくらいしか出来る事がない。


 食料はもう既に無い。

 救助が来たら、まずは美味しい食事を腹いっぱい食べさせてあげたい。

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