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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 二章 ネード海
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ネード海【3】

 【デニス&フィンジャン】という店は”エメの店”と呼ばれているらしい。

 エメの店に集まってくれ、とオーカッドに言われ、街で一番飲食店の多い場所を探していたが見つからず、通行人に聞いて漸く【デニス&フィンジャン】に着いた。

 店は貸し切りとなっており、オーカッド空漁商会の船員が数人とガレート狩猟商会、そしてオルホエイ船掘商会の面子が集まった。

 店の席は足りず、幾人かは立ったまま。飲み物は人数分用意されていたが、食事の提供はしないという。たった二人の従業員しか居ないので、当然といえば当然。

 それよりも憔悴しきった女性店員の様子を見たら、それどころでは無い雰囲気を感じた。父親と思える男性も悲痛な表情をしていて、その娘と思える女性店員は数日間泣き続けたであろう顔をしている。

 恐らく親子二人でやっている店なのだろう。そして”エメの店”のエメとは泣き腫らした目をした娘の名前なのだろう、と推測した。


 アズリは店奥の小さなテーブルに座って項垂れるエメから目を逸らした。

 ブリーフィングに飲食店を使う理由は、集まる人数が多すぎて事務所に入りきれないという理由と、行きつけの店だから、という理由があるのだろう。しかし、それだけでは無いと感じた。恐らく、オーカッド空漁商会で行方不明になった誰かが、この店に関係するが故に……と思えた。


 時間は茜色の景色を作り出した頃合い。

 酒を飲み始めてもおかしくない時間だが、飲み物は酒ではなかった。

 アズリの手元にある飲み物はスッキリした甘さのジュース。

 女性達には全て同じジュースが出された。そして男達はお茶のような物。

 この気遣いは店の主人によるものだろう。


「オーカッドだ。改めてよろしく頼む」

 そう言って、頭髪の寂しい男が握手を求めた。

「ああ。オルホエイだ」

「カテガレート。よろしくな」

 中央の大テーブルに座る主要メンバーは握手を交わした。

 アズリはレティーア、リビ、ミラナナと共に壁際の席に座っている。


「まずは手を貸して貰える事に感謝する。我々ではどうしようもないからな。助かる」

「状況は変わっていないのか?」

 オーカッドの言葉に反応するのはカテガレート。オルホエイは黙って腕を組んでいる。

「ルマーナ達の安否確認だけでもせめて……と思ってな、他の商会に頼んで毎日何度も現場まで出航して貰っている。が、面倒なのが現場近海から離れずに居てな……どうしても近寄れん」

「俺達はそいつの引き付け役。だろ?」

「儂等は漁業用具しか持ってい無い。そもそもそういう仕事じゃぁないし、軍も貸しちゃくれん。狩猟業ならそれなりの装備があるだろ?」

「まぁな。しかし、俺達は海の獲物にはほぼ手を出さない。陸よりも危険だし深く潜られたら手出し出来ないからな……。絶対的王者、強者の巣窟、俺達狩猟業が持つ海へのイメージだ。……むしろ俺達は、海の上で相応の装備も無しに漁業に勤しむお前らは、本当に命知らずで馬鹿な奴らだと思ってるぞ? その辺どうにか出来ないのか? 命が幾つあっても足りんだろ」

「軍以外は銃すら持てん。それがこの国のルール。隣国のクドパスでも同じだ。それに軍は商会の問題に手を貸さん。知ってるだろ?」

「……ああ。軍の傍観主義はこっちも同じだ。滅多な事では動かん。だが自衛手段くらいは何とかならないのか? 毎度他国(こっち)に頼んでいたら救助まで時間がかかるだろ」

「海の主達とは常に一定の距離を取るようにしている。デカい奴らはデカいが故に数が少ない。海には海の生態系があるんだ。その辺はお前らの方が理解してるだろ?」

「……まぁな」

「それに、今回みたいな事は珍しい。普通は海に落ちて終わりだ。捜索しても見つからん事の方が多い」

「そのデカいのもウロチョロしてるしな」

「つがいが居ないだけマシだ」


 オーカッドは頭を掻いた。

 カテガレートは口髭を撫でた。

 周囲の誰もが二人の会話を聞いているだけで、余計な口を開こうとしない。

 少しの沈黙があった後「……話を進めないか?」とオルホエイ。

 オーカッドは「そうだな。すまん」と言って話を続けた。

「実際何が起こったか、他の奴らは知っているのか?」

「俺達は知っているが、オルホエイ達(こいつ等)は知らん。改めて要点だけ話してくれると助かる」

 親指でオルホエイを指しながらカテガレートは答えた。

 事前準備もあった為、ガレート狩猟商会にはある程度の情報は入っていたようだった。

 オルホエイは黙ったままゆっくり頷き、話を進めろと雰囲気だけで命令する。


「……まず、儂等はルマーナ船掘商会と共に島に落ちた遺物船へ向かった。儂等は案内役。ルマーナ達はその遺物船回収だ。落ちた場所も普通の島でな、むしろ美味い果物が取れる島だ。航路にちと不安はあったが何の問題も無い、いつもの小遣い稼ぎだった」

「その辺はいい」

 とオルホエイ。

「そうだな。すまん。……ともかく儂等は現場に辿り着く事が出来んかった。怪魚(イボーブ)に襲われた事。と同時にレインシャークに襲われた事。……原因は黒い変なのが現れたからだが」

「その黒いのが気になる。どんな生き物だったんだ?」

 と今度はカテガレート。

「初めて見る奴だ。むしろ生き物かどうかも怪しい」

「どういう事だ?」

「人型ではあるが、なんというかこう……鉄の塊みたいな奴だった。最初は白と青の……空に溶け込む様な色をしてたんだがな、甲板に降り立った時に黒っぽく変色した。何なんだ? アレは」

「知らん。変色する生き物は多くいるが、そんな鉄の塊みたいな奴は知らん。いや、鉄板に似た鱗を持つやつもいるな。だが人型では無い」

「……ともかくだ、そいつらのせいで、こっちの副船長と船員が一名、行方不明になった。黒いのが来たと思ったら怪魚まで現れてな、甲板で暴れまわった。その後ルマーナ達の船に飛び移っていった。その時、二人はルマーナの船に居たんだ。小型艇でな」

「そっちに気を取られてレインシャークに気がつかなかったのか……」

「そうだ。儂等が気づいた時には真下に居てな。避ける暇も無かったわ。儂等は何とか離脱出来たが、ルマーナ達は駄目だった。焦って高度を上げたのがまずかった。……遠目でな、落ちていく姿を見た」

 と、ここでアズリは思った。

 行方不明になった船員もルマーナ達と一緒にいるのでは? と。

 その疑問は即座にオルホエイが代弁した。


「行方不明者もルマーナと共に居るんじゃないか?」

「いや、離脱した様だった。甲板から離れる姿を見た奴がいる。だが、島の影に隠れてしまってな。小型艇の行先は分からん。海か島か……何処かに落ちたんだろう」

「そうか……」

「粗方の経緯はこうだ」

 ここで沈黙が出来た。

 アズリは項垂れているエメを見た。

 ポロポロとテーブルの上に涙を落としている。

 恋人なのか家族なのか……。

 その涙は明らかに他人に流す涙では無いと感じた。

 彼女の姿を見ているといたたまれない気持ちになった。

 それはレティーアやリビ達も同じようで、見守る様にじっと彼女を見ていた。


「作戦はこっちに任せて貰っていいのか?」

 カテガレートが沈黙を破った。

 ハッとしたオーカッドは小さく咳払いをして「ああ。すまんが俺達の船は出せない。修理中だ。それにこれ以上仲間の商会に助力を請う事も出来ない。今の段階で相当迷惑をかけてるからな。だから好きにしてくれ。任せる」と言った。

「分かった。では現場周辺の環境から説明する。オルホエイ組はよく聞いてくれ」

「ああ」

 オルホエイが代表で返事をして、商会の仲間はそれぞれに頷く。すると、カテガレートの後ろで待機していた人物が一歩前に出て来た。そして「では説明します」と言う。

 その人物は環境、生態、その他諸々、こういった状況でほぼ必ず現れる知識人……お馴染みのラノーラだった。

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